九条の大罪・第1話を法的観点から考察
※非常に野暮な記事です。九条の大罪はフィクションであり、物語を面白くするためには現実からの乖離はやむをないものです。本記事は、九条の大罪の知識をそのまま鵜呑みにされないことを目的としたものです。
「闇金ウシジマくん」の真鍋昌平先生による「九条の大罪」の連載がスピリッツで始まりました。
「九条の大罪」第1話は、現在、アプリ「マンガワン」で読めるのでみなさん読んでみてください。
この記事は、九条の大罪について、法的観点からつっこ・・・いやいや、解説をするものです。
九条の間違いその1~スマホを置いてけ~
九条先生はスマホには様々な情報があるから(今回はゲームをしていたとバレるとまずい)スマホを置いていけと言います。
これは弁護士が絶対にやっちゃいけないことの一つです。
これはただの証拠隠滅罪です、犯罪です。
闇の弁護士だからやっても良い?
いやいや、そんなバカなことを言っちゃいけませんよ。むしろ、闇の弁護士を自称するのであれば、こんな甘いことをやっちゃいけません。
さて、スマホを法律事務所に置いて自首した場合にはどうなるでしょうか。
警察官は「なんでお前、携帯すら持ってねーの!?」と言うでしょう。
「なくした」なんて単純な言い訳で通用するでしょうか。
警察官の身になって考えてみてください、携帯をなくしたと言ってるやつが出頭してきたらどう思います? めちゃくちゃ怪しいでしょう。
普通は、こいつ携帯になんか見られたらまずいもの入れてやがるなと思うことでしょう。
こういった言い訳をしたら、手始めに警察は、森田くん(被疑者)の自宅を捜索します。スマホは九条先生の事務所にあるのでもちろん見つかりませんね。
じゃあここで警察はあきらめるでしょうか?
いいえ、そんな簡単にあきらめません。
まずは携帯電話の各キャリアに対して、電話番号、住所、氏名などの情報をもとに照会をかけます。すると、サービス提供していたキャリア側とすると、提供可能なデータを提供するでしょうが、その中にGPSの情報が含まれていたら九条先生の事務所を最後に電波が途絶えたことが判明するおそれがあります(キャリアが具体的にどんなデータを保管しているかまではさすがにわからないですがこういったサービスもあります)。
これで九条先生の事務所を捜索されようものならば九条先生はそのまま逮捕・勾留されて職を失い、弁護士の世界から闇金ウシジマくんの世界に行くことになるでしょう。
九条の間違いその2~レシートを処分しろ~
これまた証拠隠滅の指示です。
作品中でもふれられていますが、警察は通常、死亡ひき逃げ事件なんて絶対に許しません。
防犯カメラ映像などを使って足取りを追います。
しかも、あえて逃げちゃう人って、飲酒運転の疑惑もあるんですよね。
そこで、警察は犯行時だけではなく犯行前の行動も供述通りか確かめるために、防犯カメラ映像をもとに犯行前の行動を追います。
すると、なんということでしょう。
居酒屋から出てくる被疑者の姿がそこにうつっていることが判明するではありませんか!
というわけで、時間にもよるものの飲み屋に行っていたのならその時点でアウトです。証拠隠滅してももう遅いです。
九条の間違いその3~あまりにもピュアで人を信用しすぎ~
九条先生、闇の弁護士を名乗るにはあまりにもピュアすぎます。
なんでたくさんの人がいる前で証拠隠滅の指示をしちゃうんですか・・・。
弁護士が証拠隠滅の指示なんて犯罪行為をしてしまったら捕まるのはもちろん、弁護士としての資格も一発で失います。
つまり、九条先生は、初対面の依頼者を前に自分のとんでもない弱点をさらけだしてしまったのです。「ドンケツ」風にいえば、金玉を握らせてしまったのです。
九条先生、人間を信用してはいけません。人間なんて簡単に裏切りますよ。
(1)被疑者・森田くんの裏切りの可能性
警察の取調べは過酷です。
過酷な取調べに耐えきれず虚偽自白をしてしまった冤罪事件は枚挙に暇がありません。
森田くんが取調べに耐えきれず、全てを白状してしまって九条先生から証拠隠滅の指示を受けたなんて言っちゃえば、森田くんのスマホを持っている九条先生の事務所に捜索が入って九条先生はそのままお縄に付きます。
(2)森田くんやその他の人の裏切りの可能性
上記のとおり、弁護士が証拠隠滅の指示をするというのは致命的です、金玉にぎらせてしまっています。
悪い人がこういった証拠隠滅の指示を目撃したらどうするでしょうか?
当然ながら、九条先生を脅します。
「せんせ、あんたとんでもない指示してはりましたな。業務停止どころか退会命令、いやいや執行猶予ついても懲役刑もらうかもしれまへんで。ところで、最近この車が気になってましてな~」
となり、一生つきまとわれます。
悪の弁護士どころか、普通の弁護士でも、心から依頼者を信頼するなんてことはありません。
依頼者を信頼して、絶対に自分のことをもらさないと思って証拠隠滅をする弁護士はいることにはいますが、上記のように裏切られて普通に捕まってます。
普通の弁護士はもちろん、悪の弁護士であればあるほど、まずは自身の護身が一番なのです。
自分の身を危険に晒してまで違法なアドバイスをするのは規範意識が鈍麻しているマヌケな弁護士です。
じゃあ九条先生はどうやってアドバイスをすれば良かったのか~ダチョウ倶楽部方式~
九条先生は悪の弁護士、違法なアドバイスもしたい。でも、ストレートにアドバイスしてしまうと自分の身が危ない。
そんなときはどうすれば良いのか。
護身が完成していれば危うきには出会えぬ状態になり、アドバイスなどしないのでしょうが、依頼者がどうなっても構わんと言うにはこの九条―――若すぎる!!! というのであれば、次の方式です。
すなわち、ダチョウ倶楽部方式です。
ダチョウ倶楽部は様々な気づきを与えてくれます、この護身でもそうです。
ここで九条先生がとるべきダチョウ倶楽部流護身術は
「やるなよ! 絶対にやるなよ!!!」
これです。これしかありません。
(ぶっちゃけレシートのほうはやっても意味ないのですが)「スマホある? ああ、まだ持ってるんだね。スマホは証拠の宝庫だから、調べられるとアウトだよ。飲み屋のレシートは持ってる? ああ、それ持ってると調べられて飲酒運転だってバレちゃうから否認しても無駄だよ、自首しようか。スマホをドリルで壊したり、レシートを燃やしたりしたらダメだよ、絶対にやるなよ、絶対にだぞ」
「とりあえず気持ちの整理が必要だろうし今日は遅いから明日の朝イチで弁護士と一緒に自首しにいこうか。じゃあ、明日の朝8時に事務所来てね」
と、いったん解散し森田くんに時間の猶予を与えておきます。
そして、森田くんが察してしまい証拠隠滅をした上で事務所に来たら、
「お前なにやってんだバカヤロー!」
と一発怒ってやって、
「取調べで嘘をつくのはやめろよ。でも、仕方ねえ。黙秘権があるから、飲酒とかゲーム見てたとか不利なことは全部黙秘で余計なことは絶対にしゃべるなよ」
と言い含めれば九条先生は己の身を危険に晒さずに結果が実現できてしまうのです。
もちろん、森田くんが気づかなければそのまま自首です。無知は罪です、仕方ありません。
※ちなみにここまで違法なアドバイスについて述べましたが、上述のとおり九条先生のアドバイスは現実ではほぼ通用しないと考えてください。
なお、HDDをドリルで破壊する行為の有効性は既に証明されていますが、みなさん、絶対にやるなよ
イソ弁烏丸くんの間違いその1~依頼者を罵倒~
ボスが依頼者のことをなんといおうと自由です(言い過ぎると戒告くらいますが)が、イソ弁ごときが依頼者をクズなどというのは決して許されません。
イソ弁のこの一言で300万円の依頼がとぶかもしれないのです。
普通なら、その場でボス弁から怒鳴られます。
イソ弁烏丸くんの間違いその2~九条先生が割食ってると言う~
イソ弁烏丸くんは、被害者側弁護をしていれば700万円なのに加害者側弁護だと300万円で、九条先生は割を食っていると言い放ちました。
経営のことがなんにもわかってない、鼻ったれのイソ弁らしい言葉です。
そもそも、加害者の弁護をしなければ被害者側の事件が舞い込むというものではありません。
交通事故の被害者側弁護士というのはすでに広告のレッドオーシャンに突入しています。
多数の事務所が多額の広告費をかけて事件の奪い合いをしている状況で、片足切断なんて損害賠償額的にも立証の難易度的にもこんなおいしい案件はとりあい状態で、九条先生が被害者側でがんばっても数年に一件とれるかすらわかりません。
むしろ、検察側が大間抜けで飲酒の事実も立証できないような簡単な刑事弁護で、広告費用もかけずに300万円ももらってるんですから、そっちのがおいしいとさえ言えます。
こんなおいしい刑事事件もいまや取り合い状態で、本来なら広告費が何十万円もかかるべきところ、広告費をかけずにこんな太客を連れてきてくれるんだから感謝感謝です。
この案件のとんでもないおいしさがわからないとは、烏丸くんは経営センスがないですし依頼者を罵ったりもしますしで、独立はおすすめできませんね。
現実は……つまんないよね、でも面白い案件もあるよ
このようにリアリティを重視すると弁護士ものってつまんないことになります。
そのため、真鍋昌平先生はある程度リアリティを切り捨てたのでしょうが、それは仕方ないことです。
ただ、現実にあった事件で弁護士がやらかしてる事件などはネタの宝庫です。
弁護士業界的には非弁の分野は熱いです。イソ弁のところに謎のスカウトのお手紙がくることは現実にありますし、川島先生はかわいそうですが、東京ミネルヴァの件はあまりにも闇が深く、多数の読者の関心を集めるのではないでしょうか。
他にも、四大事務所という偉そうな事務所の弁護士のやらかしや事件放置によって追い詰められた弁護士の転落など、けっこうこの業界はネタになりやすい事件が多いです。
刑事事件ですと、現実にあった冤罪事件なんかをモチーフにされると面白いかもしれませんね。
いろいろ書いてしまいましたが、漫画自体は非常に面白いので今後の展開に期待しています。
なお、余裕があったら被害者側1000万円の件についても解説していきます。
法律監修について
こういった法廷もので法律監修をいれるかどうかはなかなか悩みどころです。
先述のとおり、あまりにリアリティを重視しすぎるとつまらないものになるおそれがあるので、このへんは悩みどころです。
ちなみに、法律監修をご希望であればあっしが無料でやりますぜ、事務所の宣伝になったりするからウハウハでんがな、ぐへへ。
追記
簡単な事件と書きましたが、やってる弁護手法は大したことなさそうなのに対して、ひき逃げで一人死亡・一人片足切断という、危険運転致死傷でなくても通常は実刑相当のものを執行猶予に落としているのできちんと成果出してますね。
コスパで考えるとめちゃくちゃおいしい事件ですが、過程を省いた結果だけみれば大戦果なので300万円は妥当ですね。
お父さんの損害賠償金額や子供の損害賠償金額についても書きました。
そして書いたあとで気づいたんですが、これ裁判員裁判になってるくさいですね。そうすると、けっこう手間もかかりますし、成果を考えると報酬はお安いとさえ言えるかもしれません。