Kizokuは滝ガレの本名をネットで公開しても良いか~滝ガレとkizokuから学ぶ民事訴訟その2~

滝ガレと野良連合(kizoku)の件に関して、他の記事も読みたい方はこちらのリンク先にまとめておきましたので、よろしければご覧ください

今回は、Kizoku氏(以下「kizoku」といいます)が滝沢ガレソ氏(以下、「滝ガレ」といいます)に対して訴訟提起をしたとき、どこまでの情報を公開しても良いかについての記事です(当然ですけど、本記事執筆時にはkizokuは滝ガレに対して訴訟提起をしていませんし、滝ガレの本名を公開してもいません、今後のお話です)。

具体的には、裁判情報公開の一環として、情報開示で得られた滝ガレの住所氏名をネット上で公開することが許されるかという問題です(タイトルでは本名としていますが住所についてもふれます)。

で、早速なんですが、これ実は最先端の議論で(私が見落としていない限り)最高裁の判断は出ていないです。
下級審でも判断が別れています。
そのため、今回の記事は私見祭りです、つまりは私の感想が多いのでこの点ご容赦ください。

1.滝ガレの住所を公開することは許されないだろう

まずは裁判例から紹介します。

裁判の相手方の住所氏名電話番号を公開されたこと(住所氏名などをマスキングしないであげちゃったのでしょうね)がプライバシー侵害だとして争われた裁判例です(京都地判平成29年4月25日)。

京都地裁はこれについて、プライバシー情報である住所や電話番号を公開することは許されない、ただ、裁判は公開されていて、そこでは氏名も当然に公開されることなどから、氏名のネット公開はセーフ、住所や電話番号のネット公開はアウトと判断しました。

私生活上の平穏という利益やあえて滝ガレの住所まで晒す必要がないことを考えると、滝ガレの住所までネット公開しちゃうのはほぼアウトになると思われます。

2.滝ガレの氏名を公開することはセーフになる可能性あり

前述の京都地裁の判決でも(もちろんこれは本件とは事情が違うところがいくつもありますが)、氏名のネット公開まではセ-フと判断しました。

(1)大阪高裁の判断

しかしながら、これについては、控訴審(大阪高判平成29年11月16日)で判断が覆っています。

大阪高裁は、裁判が公開されているからと言って、それで直ちに訴訟の情報をネットで公開することが適法になるとは言えない、ネットは拡散範囲が広く、削除も容易ではないので氏名の公開もアウトと判断しました。

ただ、こういった紙媒体情報とネット情報とを峻別することについては、有力な批判も寄せられています(星野豊「判例研究 裁判情報のインターネット公開による不法行為の成否」筑波法政第75号123頁参照)。

(2)氏名の一律公開はダメっておかしくない?

プライバシーという利益は絶対不可侵の利益ではありません。

犯罪報道を思い出してください、捕まった人の氏名思いっきり公開されてますよね。

新聞報道やテレビ報道の拡散力はネットの比ではありません。プライバシー侵害の程度は甚だしいです。

しかしながら、簡単に言うと、報道の自由という利益が、プライバシーという利益よりも重要だということでプライバシー侵害が許されているのです。

つまりは、プライバシーは絶対不可侵の利益ではなく、他の優先すべき利益の前ではけっこう簡単に劣後してしまう(つまりプライバシー侵害してもいいよとなる)のです。

(3)今回の件で、滝ガレの氏名をネット公開することが許されるかの検討

前述の星野先生は、「結局、公開した者の意図、目的、主観に焦点を当てて、不法行為の成否を考えることが必要となるのではなかろうか」と指摘されていますが、私見もこれに賛成です。

つまりは、kizokuが報復目的ではなく、公益目的であることをきちんと踏まえたうえで滝ガレの氏名を公開することは法的に許されるでしょう。

なお、kizokuが、滝ガレの住所まで公開すると、さすがに報復目的ととられてもおかしくないので、公開する場合には氏名までにしておくことをおすすめします。

前置きが長くなりましたが、kizokuが滝ガレの氏名を公開することの正当な理由について検討していきましょう。

・kizokuは、これから滝ガレに対して名誉毀損で訴訟提起をしようとしている(と思われる)。名誉毀損はただの民事上の違法行為ではなく、刑事罰の対象にもなる犯罪です。犯罪報道とパラレルに考えると、この一点だけを以てしても公益性が高いといえます

・滝ガレは、kizokuに対する名誉毀損だけにとどまらず、ネット上で第三者のプライバシー侵害を行っている(リベンジポルノ動画の拡散など。芸能人の方のものなど、ちょっと口に出すのがはばかられるので、ここでは具体的なところは指摘しません。仮にこういったものがいくつも立証できたら滝ガレの氏名を公開する公益性が高まるといった程度に考えてください)

・(偽名の場合はこういった指摘もあり)滝ガレは、倉多啓介という偽名を用いており、実名を公開しなければ何の関係もない倉多啓介という人物が被害を被るおそれがある

私見とすると、このような事情をもろもろ立証できれば滝ガレの本名をネット公開することも許されると考えます。

3.まとめ

・どこまでの情報を公開しても良いかはプライバシー保護よりも優先される利益があるかによって決まると考えられる

・プライバシーは情報の程度にもよるものの、それほど強い利益ではない

・kizokuが滝ガレの住所まで開示すると、違法の可能性が高い

・滝ガレの氏名をネットで公開するだけなら合法と思われる(プライバシーという利益よりも優先する公益などがあることの立証が必要ですが、今回のケースではこの要件の立証が比較的容易に思われます)

・最高裁の判断も出ていないところなので、kizokuがお金持ちならストロングスタイル(違法でもいいや、訴えられてもどうせ数十万円でしょとタカをくくって公開)もありといえばあり(個人的にはこれはおすすめしないです、きちんと合法であることをアピールしたほうが良いです)

4.(おまけ)滝ガレの氏名をネット公開しない場合には

kizokuさんにはできれば正面から対決してほしいので(というかそっちのほうが法的な興味が大きいです、勝つにせよ負けるにせよ判例が積み重なってくれるので)、こういった方法はおすすめしませんが、ひねった方法として以下のものがあります。

たとえば、

「滝沢ガレソに対して訴訟提起をしました。令和3年何月何日何時何分から、なんとか地方裁判所なんとか法廷で第1回口頭弁論期日が行われる予定です」

とツイート等する方法です。

この時間にその法廷まで行けば、誰と誰の訴訟が行われてるのかがわかります(もちろん双方本名なのでkizokuの本名もバレます(公開していたかとは思いますが))。

さすがにこの方法であればプライバシー侵害であるとするのは困難でしょう。

5.(おまけ2)匿名言論の価値について

ちなみに、これは憲法の分野になりますがアメリカでは表現の自由に関する議論の一環として、匿名言論の価値についても議論があるようです。

憲法は対国家規範(一般国民同士を規律するものではなく、政府に対する規範です。つまりは政府が表現の自由などを侵害すんなよと規律しているのが憲法です)であるため、そのまま民事訴訟で用いることはできませんが、裁判所は実名公表の可否にあたって考慮要素とする可能性もあります(正面からこの点を考慮しないでしょうけどね)。

たとえば、今回のケースでは、滝ガレの本名が公開されたら、滝ガレは匿名というヴェールをはがされることになります(もっとも、アクセスプロバイダから住所氏名が開示された段階である程度剝がされますけど)。裁判所はこれを合法と是認しても良いのでしょうか。

匿名であることにより、個人個人が発言しやすいというのはあります。とくに政治的言論です。

政治的言論に対して言論で対抗するのではなく、個人攻撃を加えたり、政府批判を繰り返すことによって政府からの攻撃を受けるおそれがあります(日本でイメージできない方は、北朝鮮で総書記を批判する人民を想定してみてください、確実に弾圧されますよね)。そのため、匿名であることによって安心して政治的表現ができるということはあります。

ただ、アメリカも日本と同じで、政治的言論を行っている人間の匿名のヴェールを剝がすことが問題になるということはあまりないようで、ほとんどは、匿名をかさに着た名誉毀損の言論のほうが問題になっているようです。

そのため、匿名であることそのものの価値について認めることはアメリカでも消極的なようです(匿名の価値をあまり重視しすぎると、それによって名誉毀損の言論が増大するおそれがあるんですよね。実際問題、インターネットができる前はこんなに名誉毀損なんてなかったです(手段の乏しさもあり)し、仮に、ネットが全員実名表記が強制されたら名誉毀損は激減するでしょうね)。

仮にkizokuが滝ガレの氏名をネットで公開した場合にも、匿名であることの価値は問題になることはなく、もっぱらプライバシーの問題にしかならないのではないでしょうか。

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