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ふたりチャット

『通り過ぎたら全部許せちゃうから、許せないうちにじーっくり見るの。そしたら、いい気がするから。なんてゆーか、アタシは、ここにある、"今"が、許せないの!肉体とか、今の自分、今の悩み…とか。だからね、誰もいないアカウント作り直して、何度もやり直そうってすんの。未来をより良くじゃなくって、過去を、良くしようとすんの。だって最後に残るのは、過去だけでしょ?

だから、綺麗に生きたいの!
つまり、アタシがこの、厳し〜セカイを生きるには、インターネットっていう、ハッタリが必要だと思う!』

アタシは、なおたんの横でコンビニのおにぎりを食べながら、妙に強がって抽象的な思想を語っていた。アタシは、高一。もう、夜8時。そしてなおたんは、専門の一年生だ。

なおたんは、何も言わなかった。だけど、わたしたちの出会い方こそが、この発言をわかってる というアンサーだったと思う。

そんな風景を たまに思い浮かべるのである…


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vol.1

わたしたちは、ハッキリ言って、インターネット中毒者だ

アタシがインターネットを始めたのは、小学5年生の頃。初めはお絵かき掲示板、その次はチャット付きの、オンラインゲーム。そして現在、この、Android機種対応のチャットアプリ。ゲンザイアタシ、中学3年生。

このアプリには、いろんな部屋があって、共通項はAndroid機種を使用しているだけの、色んな人がいたこと。アタシはスマホに擬態したような型のウォークマンから文字を打っていた。クリープハイプが好きな二重の元気な男の子だとか、姉御肌な、女の人2人組。あとは、喧嘩を打ってくる、狂った人!アタシは、その中じゃ、メンヘラってジャンルだろうか?アイコンをボブヘアーの自撮りにしていたら、家のエアコンの機種の古さにツッコまれた。
そんな中、アタシの家のエアコンの機種の古さには一切触れず、アタシを見て褒めてくれた女の子がいた。
た。 
ユーザーネームは nao で、アイコンは、色の白い黒髪の、メガネを掛けた 前髪は横流しの女の子。


アタシは、初めっからその子のことを、なおたんと呼んだ。


なおたんは、大人数のチャット場でよく私に話しかけてくれた。その他の人には、穏やかに、一切のキョーミがない子だった。

なおたんは、とにかくアタシをとても可愛がってくれた。

なおたんは何度か恋愛みたいな告白をしてきたが、わたしは友だちとして大好きだよっ!とよく、振っていた。それがお馴染みのダイレクトメッセージの光景だった。

なおたんは 時間をかけて、男の人にトラウマがあって、男の人が苦手なこと、メンヘラ少女っていう女の子のキャラクターが好きなこと、ゆるめるモのけちょんが好きなこと、今は、保健室から学校に通ってることを教えてくれた。

なおたんは物腰が柔らかくて キャピっとしてて、私より絶対的に、お姉さんだった。


とにかく、うっすらと毎日話していた。

電波の通ってない場所では使えないウォークマンからチャットを送受信していたから、もちろん放課後、本当の夜中しかやりとりはできない。青春に巻き込まれる中、遠回りをしながら本当の気持ちの交信を続けた。

進路だとかでリアルが色濃い学校よりも、明日を休んでしまいそうな夜更かしの中、心から通い合うことに、支えられた。でも、逃げ場所だった訳でもない。わたしたちは、きっと、昨日よりも今日が孤独だった。孤独が溶け合って、どっちの放つ孤独か、わからなくなるようだった。

わたしたちは、防空壕で暮らしてたんじゃなくって、どっちかといえば、わたしたちの互いの存在という記号のような認識こそが、防空壕そのものを成していた気がする。とにかく、あの日は絶対的な居場所だった。

ある日、魔法少女みたいなハンドメイドネックレスを見て 欲しいー!とわたしがなおたんに送ったら、「私も買う!」と言ってくれた。
届いたとき、二人でネックレスの画像を送受信し合った。

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vol.2

春になる前、LINEを交換できるかも!と、なおたんに連絡をした。高校生になったら、晴れてウォークマンを卒業できる。

「わたしも、この間、ネイルを学べる専門学校のオーキャンに行った!爪を塗ってもらって、可愛くなったの!」
と言われた。「いいなー!アタシの爪もいつか塗ってねー!」と言いながら、わたしは、あんなに未来に消極的ななおたんに夢があることが すごく嬉しかった。

未来なんて、日光が強すぎて、制服がピチッとしててつらい気がしてたけど、素直に、うれしかった

送ってもらったLINEのQRは、入学式の後、スマホをゲトったら、読み取ることにした。


そして、薄情なくらい単純に、優しく、春になった。ホントーにしっかり、送った。
LINEを交換してからは、何気ない電話とかしたいねって話になった。

vol.3

知り合いのたこ焼き屋のおっちゃんが、死んだ。

もともと身体が悪かったのは知っていたが、死ぬなんて思わなかった。いつもズボンが緩く、いつの間にか半ケツの後ろ姿になりながらたこ焼きを焼いてくれるおっちゃんだったが、本当に美味しいたこ焼きだった。半ケツでたこ焼きを焼いてくれる人が死ぬなんて、よくわからない。

お葬式の後の夜、なんとなく、おっちゃんの店の近くの国道を歩いた。

そんなわたしなんて知らないなおたんに このパジャマ すっごく可愛いの!と 送られてきた セーラー服モチーフのパジャマを見た時 ぬるい風を浴びながら 二人で 着て この国道を 歩きたいと思った。

よく、いつか電話をしようと言っていた。

けれど、時間が流れても、なおたんは、なかなか電話をしてくれなかった。




ある日、 「あのね、言わなきゃいけないことがあるの。」

から始まる言葉がアタシの元に、来た。




あのね、

私 ▇▇に嘘ついてたの

あのね、




わたし、男なの。


身体が男。それで、心が、女の子。そして、男の人にはトラウマがあって、恋愛対象は、女の子。

一周回って、ノンケと同じ道理になるなおたんのココロの中は、きっと、わたしが思うよりも、グチャグチャだった。

わたしは それって すごくきれいだと思う と返した



そのあと、きっと何も気にしないと送った。

わたしは、初めて、なおたんと 明るいお昼に電話をした。

私の家はすこぶる古くって、自分の部屋がなかったから 外にある風呂場の脱衣所にしゃがんでLINE電話をした。ウロウロと回りながら電話をした。なおたんの電話口からも、小鳥がさえずる音が聞こえてきて お互いが、環境音に照れ臭そうだった。

なおたんは 赤いピンで前髪を止めて 照れ臭そうに 癖毛を撫でていたし、ネイルの学校のオープンキャンパスで塗ってもらった黒いネイルを見せてくれた。なんだか、前に進めたような気がした。未来の色はいつも昼の色をしている。ブルーライトから、目が痛くなるような 真っ白な光がわたしたちを包んでいた。

なおたんに 何度か、会おうと言われたけれど、アタシは 自分に自信がないから アタシは 自分が可愛くないから と言って 何度も、会わなかった

だんだん、なおたんとは 話さなくなっていった。気付けば、なおたんは、別の人とのペア画像になっていた。



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vol.4

スマホを壊した  

ある日、グループラインをやめたいことで頭がいっぱいになって、全てを投げ出すように いきなりスマホを 玄関から投げて   投げて
投げ割ったあと、  どこだかわからない溝に 捨てた。

その後,拾いに行った

再生可能なグループラインの関係以外 全部、あっさり、なくなっていた

スマホを壊す寸前、でも、壊しても失うものなんて何もない気がしていた。


会いたい人には、また会える気がしていた。

いつだって、壊す理由は、再生したいからだ
よくわからなかったが、壊さないと、一生誰にも会えない気がした。
私の浅ましさが ただ、日光が反射した溝の水のながれに キラキラと光っていた。

その後、Android対応のチャットにいくら行ってもなおたんはいなかった

なおたんは、元気にしているかな?

たまにもう会えないみんなのこと、夢に見る!

時間は流れてしまうけれど、みんなが いまも元気でいること   願っています

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