
サマーセールシュークリーム
ノートパソコンの重さは 心にシンクロするくらいの重さで停滞した熱風が時間なんてないことを知らしめてくる 「なんでみんなこんなに世界はインドみたいな気候なのに普通に歩いてんだ?」 とグニャグニャ荷物を背負い直しては進んでる インドなんて行ったことないけどいつかは…
元々コンビニだった場所が怪しいセミナーにコロコロ変わっているのを横目に確認しながら斜視みたいな横目で通り過ぎなんとなく見渡して向かいに立つ女の人に目をやると
わたしは
いや、
わたしは……
えっと…………
という具合に、突っ立って 見つめ合った
弱冷房車の中の風だって、なりやむように たちまち、風のない外の暑さが吹いてきた
おかしいが その女の人は、「私から目を逸らさないで」というモールス信号的な圧倒的な目力を使って、しょぼくれたアタシを見つめている
突然、何かのキーパーソンにされたような気分だった
そのまん丸に大きく開かれた猫目を見て、数秒の沈黙のあと、一気にその女の人の虹彩の中に思い出がコラージュされて華やかに結びついた
幼稚園から中学まで一緒だった幼馴染
かなちゃんだ!!!
かなちゃんは ギフテッドという言葉が似合う、けれど 人間らしい少量の不器用さがある女の子だった
不器用の部分だけわかったから、かなちゃんにアタシの不器用を思い返してよく例え話を出した
アタシと似ても似つかない器用なかなちゃんは、その話によく共感をしてくれた 夕方に四つ角のベンチで座って、夜中まで話した
かなちゃんは、英語が得意で マックでしか出来ないはずのうごメモシアターがかなちゃんの部屋では出来て、卒業アルバムは光り輝いて、なにより、声優オタクだった
声優のことなんかなんも知らんのに、知ってる奴みたいな顔をしてよくその四つ角でかなちゃんから声優の話を聞いた
たちまち声優の名前だけよく知った、声優のことを何も知らない奴になったが、アタシはそれでもうれしかった
何故か声も知らないのに笑い転げることも出来たのだ
会えてよかったと、ずっと潤った紫色を滲ませたような笑顔で 語りかけてくれた
前髪が湿度に弛んでいた
アタシは圧倒された
「うごメモとか、したよねえ」
とか、そういった"俺お得意"の懐古話すら、この大人な表情の上だからか、アタシにはハマらなかった
色の三原色のシアンが悲しみとして 、その色に重ねてよく話をしたのに、そのシアンが アタシにとってはマゼンタになっていた
暗記シートのような透けた心を疑心暗鬼に重ね合わせたら、黒くてもう 意図などが汲み取れない
もう大人になってしまったけれど それでも、そういう妥協だって必要で……みたいな意図を含んだ「みんな偉いよ」を言うかなちゃんを見るアタシの心の色の位置は、キョトンと能天気に 希望に満ちた色をしている
例え話が、思い浮かばなかったのに、まだ 見つけようと ずっとウニウニと上を向く その間も かなちゃんは、どこか、私なんかよりもずっとなにかを割り切っていた
かなちゃんは、この電車に乗ってよかったと言う
「アタシ馬鹿だから、シュークリーム遠くの駅からずっと持っててさ!そろそろヤバい、溶けるから
じゃあまた!」
と言って四つ角を振り切っていく
手を振り返したわたしは
もっともっともっともっともっと、何か言いたい事
あったんじゃ、無いのか?