生産者と消費者の狭間に立つ、製粉メーカーの思い
日本の小麦生産者の多くは、自分がつくった小麦の味を知らない。農業の合間に自家製粉を行い、それを自らパンやうどんに加工して食べるのは、実際のところ現実的ではないからだ。
収穫した小麦は農協に出荷されるのが一般的で、集められた小麦は製粉工場に渡りひとまとめにして製粉される。米や野菜の生産者が自分の収穫物を自分で味わいながら次期の栽培に向けたヒントを得るのとは対照的な光景と言えるだろう。
「生産者が自分の麦を味わい、自ら評価できる機会をもっと増やしたい」そう話すのは、福岡で78年続く製粉メーカー・大陽製粉の鹿野晋社長。
地場に根付いた中小企業として、生産者と向き合い、共生する食の未来を志す彼らは、2013年に小ロットから大ロットまで幅広く対応できる多機能型ロール製粉プラントを増設。特に小ロットのオーダーメイド受注を強化することで、生産者が出荷後も自分の麦を追える環境づくりを目指した。
「自分の麦を食べて『今年の出来は最高だな!』とか『風味が弱い気がするけどなんでだろう?』と、まずは知って、感じてもらいたい。そうすれば、じゃあ次もっと良いものをつくるためにはどうしようかって生産意欲も自然に向上するはずです。
そういう循環のきっかけを、私たちが積極的につくっていかないといけないですし、それって結局商品の価値を高めることにもつながっていく。“持続可能”って、そういうことじゃないでしょうか」
健全な食の循環を目指して
とはいえそれだけでは結局いつか成り立たなくなる日がくると思います、と鹿野社長は続ける。
「人口が減り、胃袋の数も減り続ける一方で、日本の小麦生産者も年々高齢化が進んでいます。未来を担う次の世代に魅力的だと感じてもらえるように、業界全体が変わっていかなければならないんです。そのために、生産者だけでなく、食材を扱うシェフや食べる消費者、みんなで食の循環を健全化していく。自分の目の前にある食材がどういう経緯でできたのかということに、誰もがもっと関心を持つ時代にしていかないといけないと思います。
たとえばスイスは物価が高く、同じヨーロッパでも地元産と他の地域のものを比較すると値段が倍ほど違うこともあります。それでも彼らは地元のものを買って、食べる。地元でつくられているものを理解し、愛しているからでしょう。日本もそんな世の中に近づいていけば良いなと思います。食べるだけで大好きな故郷を守れるって、素敵なことじゃないですか?
生産と消費の間に立つ私たちにも、当然責任があります。もっと生産者の努力に報いる取り組みを広げて、シェフや消費者にも良いものを、その裏にあるストーリーと共に届けていかないといけない。
正直小ロットって非効率的ですし、生産性だけ見れば決して高くありません。それでも、そこにある価値をきちんと届けていくことはこの土地の資源に支えられてきた私たち企業が果たすべき使命だと思います」