パッケージ中澤、白いケーキ箱の秘密①クレームを逆手にとったアイデア
島根県松江市の紙器製造メーカー・パッケージ中澤の製品のなかでも、通年を通して安定的な人気を誇るのがデコレーションケーキ箱の「TSD(手提げスペースデコ)」。一見何の変哲もないシンプルな箱だが、そこにはプロフェッショナルたちのアイデアとこだわりが凝縮されている。
現場の声から生まれたアイデア
「TSD」が生まれた2005年以前、パッケージ中澤の主力といえば「TD(手提げデコ)」だった。汎用性が高く、サイズ展開も豊富な「TD」は、長きにわたって多くのパティシエに親しまれてきた。
以下の写真は左がTD、右がTSD。その違いがわかるだろうか?
「TD」と「TSD」の違い。それは保冷剤スペースの有無にある。
保冷剤スペース付きの「TSD」は、パティシエの声がきっかけとなり生まれた製品だ。
問題の本質を理解する
あるパティスリーからパッケージ中澤に寄せられたクレーム。その内容は「底面の糊貼り部分がケーキトレーを出し入れする際に引っかかって使いづらい」というものだった。
その後も同様の声がいくつか届き、商品開発室では設計の見直しに着手。様々な視点から改良の可能性を追い求めるなか、ある時ひとつのアイデアにたどり着いた。
当時の様子について、商品開発室室長の吉田進さんは語る。
「糊貼りの存在をあえて活かすのはどうか、とある日突然ひらめいたんです。糊貼り部分を隠すのではなく、むしろ逆手にとって、保冷剤用の専用スペースにしてしまえばいいんじゃないかって。
当時、他社では天面に保冷剤スペースを設けているところが多く、私たちのようにサイドを活用した製品をつくっているメーカーはありませんでした。他社との差別化を図る上でも、非常に良いアイデアだったと思いますね。
天面よりもサイドの方がスペースを広く取れるので、暑い時期には保冷剤を複数入れたり、キャンドルやメッセージカードを同封することもできます」
さらに開発室のメンバーは理想を追い求めて松江市内のパティスリーへ。
厨房でシェフに箱を試してもらい、その様子を間近で見ながらさらなる改良のヒントを探った。
すると、ケーキを箱に入れるシェフの手つきから吉田さんはあることに気がつく。
「ケーキを箱に入れる時、シェフが手の甲でサイドのフラップを避けるようにしてちょっとだけ外側に押したんです。本人も無意識だったようですが、その手の動きを見ていたら「フラップの下にストッパーをつけて、フラップが閉じるのを防げたらもっと便利かもしれない」と気がつきました。
結局のところ、実際に使う人がどうやって使うのかをきちんと知ることから始まるんです。組み立てはスムーズにできているか?手間取る瞬間はないか?って、とにかくよく見ること。
その上で、そこにある「問題の本質」を理解することが何よりも重要だと思います。その点で言うとクレームは次の箱への第一歩ですね」
包むことについて考えるのは、人間の生活のすべてについて考えることに他ならないーー戦前から活躍したアートディレクターであり、パッケージ蒐集家兼研究家でもあった岡秀行は写真集「包(1972年・毎日新聞社)」のなかでこのように語っている。
単にものを保護・保管・輸送するだけではない。ものと人、人と人の間を繋ぐ重要なコミュニケーションの手段として、パッケージは常にものに寄り添い、その役目を果たしてきた。
売り手は、買い手への感謝を込めてものを包む。贈る者は、受け取る相手の顔を想像しながら箱の中に思いを込める。
パッケージは、「思いやり」の具象化なのかもしれない。
パッケージ中澤
〒690-0021 島根県松江市矢田町250-2
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