「カカオ感」の伝え方
日本を代表するお菓子メーカー・森永製菓グループ傘下の森永商事。彼らは1973年の創立以来、グループ内で唯一プロ向け製菓材料に特化した事業を推進してきた。その体制は、自社で開発を行い、製造工程だけを外部工場に委託するというユニークなもので、一般に「商社」と聞いて思い描くイメージとは大きく異なる。
そんな彼らが2008年から手がけるのが、クーベルチュールシリーズ「ショコラマニュファクチュール」だ。
「カカオ感」で広がる表現の可能性
ブランド立ち上げのタイミングでリリースされた「コンキスタドール」、「レルバージュ」、「クレオール」3種類を経て、その5年後となる2013年に誕生したのが「ヌーベレ」と「ペルレドール」。後続で加わったこの2種類は、複数のシェフからのヒアリングに基づき「カカオ感」をキーワードに開発が進められた。
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「ヌーベレ」は、エクアドル産の香り高いカカオ豆に、モルトを組み合わせることでキャラメルのような香ばしさをプラスしたカカオ分43%のハイカカオミルクチョコレート。シリーズ全作の開発を担当した研究開発部リーダーの渡部眞一朗さんはこう語る。
「たとえばチョコレートムースをつくる場合、ミルクチョコレートとスイートチョコレートを混ぜてつくるシェフが多いと思います。ミルクチョコレートだけだとカカオ分が足りないんですよね。でも、手間がかかる。じゃあそれひとつだけでムースがつくれるくらい、カカオ感をしっかり感じられるミルクチョコレートってできないんだろうか?と考え出したのが、『ヌーベレ』誕生のきっかけです」
一方「ペルレドール」で目論んだのは、ホワイトチョコレートにおけるカカオ感の表出。
ホワイトチョコレートをつくる際、通常は色も香りも抜いた真っ白なデオドライズドココアバターを使用する。デオドライズしない(一般的な)ココアバターを使うと、その香りによってミルクの風味や味わいがぼやけてしまうからだ。
しかし「ペルレドール」には、あえてこのデオドライズしないココアバターが使われている。そうすることで、カカオ本来の香りをホワイトチョコレートに与えるのだという。
またホワイトチョコレート特有の後に残る甘ったるさも、カカオの香りによって印象が変わると渡部さんは話す。「甘さが和らぐ、というよりは甘さのキレがよく感じられる…という言い方が適切かもしれません」
森永製菓と森永商事、それぞれの視点
日本の製菓業界を牽引する技術と知識を生かしながら、プロのための材料をつくる。そんなチームを率いる渡部さん、森永商事以前は森永製菓の研究所に在籍していたという。
「チョコレートの製造工程そのものに関しては、toBであれtoCであれ、基本的にはどこも同じ手順です。ですが、やはり目的が違うので要所要所に違いは出ますね。
たとえば、森永製菓がつくるお菓子は基本的に水分を含まないものです。なのでそこに使われるチョコレートには、水分のない状態で風味を出すことが求められます。一方、森永商事がつくるチョコレートは、水分を多く含むケーキの材料。水と合わせた状態での香り立ちに重きが置かれます。口に入れた瞬間、溶けていく最中、最後の余韻。それぞれのタイミングにおいて必要な表現って、同じチョコレートでも全然違うんですよ」
シェフたちの日常を支えるチョコレートをつくる。そこにはシェフと、シェフがつくったケーキを食べる生活者に対する森永製菓グループとしての思いがあると渡部さんは言う。
「やっぱり、甘いものを食べる人たちの笑ってる顔が見たいっていうのが一番ですよね。森永が120年持ち続けてきた想いもそこにあります。
そんな人々の幸せをつくる街のお菓子屋さんの毎日を、材料で支えること。それが、森永製菓グループの一員であり、材料に特化した私たちだからこそできることなんだと思います」