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液卵メーカーが背負う、インフラとしての使命感

国際鶏卵委員会(IEC)によると、日本人一人当たりが消費する卵の数は年間平均で340個。おおよそ一日一個は口にしている計算となり、その数はメキシコの380個に次いで世界第2位の記録となる。(2021年に公表された「各国の2020年の年間1人当たり鶏卵消費量(殻付換算、家庭・業務・外食を含む)」より)

「多くの人が毎日口にするものだからこそ、私たち液卵メーカーの使命は『絶対的な安定供給』です。液卵の製造工程ってすごくシンプルで、機械も型がある程度決まっているのでやろうという思いがあれば誰にでもできるんですよ。だからこそ、この使命を全うできるかどうかが事業繁栄の鍵になります」

そう話すのは、福岡県糟屋郡に本社を置く液卵メーカー・イフジ産業の藤井宗徳社長。

イフジ産業本社工場

工場でつくられた液卵・冷凍卵を、年間を通じて安定的に供給する。安定的に、というのはつまり一定の品質の製品がいつでも変わらない価格で買えるということだ。その仕組みづくりこそが「インフラとしての使命」であり、イフジ産業ではそれを実現する手段のひとつとして、原料卵の調達に力を注いでいるという。

そもそも液卵メーカーでは、大きすぎる、あるいは小さすぎるなど規定のサイズ外の卵や、殻に汚れた付着した卵、ひび割れた卵など、店頭に並ぶことのない「規格外卵」を材料のベースとして液卵製造を行う。鶏卵農場で生産される卵のうち10~15%程度は常にこの「規格外卵」と見做されるため、それらを安価で購入し加工することで、資源を無駄にせず、価格の高騰も抑えることができるというわけだ。

サイズも重さもバラバラの規格外卵。よく見るとなかには殻に小さな汚れが付着したものも。

さらに同社では、季節の需要を見据えた買付量の調整も重視しているという。

「夏場になると食事は水物にシフトしていくので、その分卵の出番は減っていきます。逆に冬は濃厚なものが求められるので需要が伸びる。でも、鶏が卵を産む数ってそこまで大きく変わらないんですよ。生産は一定、需要は変わっていく。その間に入って調整役を務めるのが、私たち液卵メーカーです」

イフジ産業では、夏に余剰となった卵を買付け、凍結加工し備蓄を行う。それらを、クリスマスケーキやおでんなど卵の需要が伸びる冬や、鳥インフルエンザの蔓延などで市場に卵が不足したタイミングで放出することにより、年間を通じて市場全体の需給バランスを整えていくというのだ。

「鶏卵生産者からすれば、私たちのような売り先はあくまでもサブ的な存在。当然ながら基本的にはスーパーやお店に出すものをつくるのが彼らのメイン事業です。ですが一方で、当社のような売り先がなければ規格外のものや余った卵ってどうにもならないんですよ。

そういう意味で、生産者さんとはお互いにWin-Winの関係を築けていると思います。現時点で全国に300〜400ほどの仕入れ先がありますが、それぞれのニーズに応えながら都度買い付けを行い、調整しながら安定的な生産体制をつくるというのが我々のやり方です」

また、この買い付けのタイミングや数量をいかに見極めるかが、その年の命運を分ける勝負どころなのだと藤井社長は言う。

「相場の変動が激しい業界なので、うまく乗り切れるかどうかはそこにかかっています。ですが結局のところ、決断の理由なんて過去の経験に基づく直感でしかないとも思うんですよ。とはいえその一手ですべてが決まってしまいますから……“今だ!”って決める、その瞬間は毎回スリル満点ですね」

「人々の生活に欠かせないものをつくり続ける。責任は重いですが面白い仕事だなと思います」

届け続けるためのチームプレー

加えて、イフジ産業ならではの取り組みとなるのが、複数拠点の柔軟な連携体制だ。2022年現在、日本の液卵メーカーはほぼ全て一拠点による操業を行っている。しかしそうした場合、鳥インフルエンザや大規模な自然災害など、いざ大きなトラブルが起った場合に全国的な欠品を発生させてしまう恐れがあると藤井社長は話す。

一方イフジ産業では、福岡、京都、名古屋、水戸と全国4箇所に工場を展開。そうすることでより広い範囲に届けられるだけでなく、どこか一箇所でトラブルが起きても他の工場と連携して融通を利かせることができるため、前述のリスクを大幅に低減させることができるのだそうだ。

左上から時計回りに、京都、名古屋、水戸、福岡(本社)

「たとえば東日本大震災の事例は象徴的ですね。当時、関東工場(水戸)では1日1000トンほどの出荷を請け負っていました。しかし地震が起きて稼働がストップしてしまった。そこで私たちは他の3工場総出で関東工場の支援を実行しました。名古屋から関東支援、京都から関東支援、その京都を支えるために今度は福岡から京都支援…といった具合で約50日間、とにかくどうにかしなければと。

開店準備前の早朝に液卵を店へと届ける物流部隊

正直輸送費だけでも数億円という莫大な費用が発生しましたが、それでも私たちの社会的使命は『絶対供給』。今思えばよくやりきれたなと思いますが、あの時は無我夢中でしたね」

その努力は実を結び、イフジ産業の卵はそれらを求めるシェフたちのもとへと一日も途切れることなく届けられたという。

イフジ産業のトラックは今日も卵を求めるシェフたちの元へと走り続ける

「当たり前」のその先で

「私たちがやっていることは、いわゆる“職人技”ではありません。新しい何かを創造するクリエイティブというよりは、一定の品質の製品を毎日つくって届け続ける、言ってしまえば工業製品のようなものづくりと言ったほうが感覚としては近いと思います。ですが、卵がなければ日本人の暮らしは成立しませんし、“当たり前に卵がある日常”があって初めて、シェフたちには安心して自分のものづくりと向き合っていただけたり、こだわりを深めたくなったりしていただけるんだと思うんですよ。私たちの仕事の価値はそんなところにあるんだと思います」