フラワーシートから読み解く時の流れ
バブル真っ只中の1990年代。当時の日本は人々の生活水準がぐっと上がり、消費に対してアグレッシブなムードが漂っていた。
「うちの商品の数が最も多かったのもこの時代です」そう語るのは、人々の暮らしや趣味趣向を見つめ、時代に合った味わいをフィリングやフラワーシートとして提案し、開発製造し続けてきた田中食品興業所の斉藤真さん。
「石焼き芋、みかん、コーン、ヨーグルト、メープル、レアチーズ、黒糖、りんご…。当時はとにかく新しい素材が求められた時代でした。それに加えて、独自性。目新しいものが次々に出てくるなかでどうすれば自分の色が出せるか、皆模索していたんです。シェフやメーカー、コンビニなどのお客様からいただく声にどんどん応えていくうちにバリエーションが多くなってしまった。新製品の数で言えば、ざっと見積もっても今の倍は出していたと思いますよ」
また、以降の時代を象徴するキーワードのひとつとして「健康」が挙げられる。それまでも一過性のブームは度々発生し、特定の食品、あるいは成分がテレビの健康情報番組で取り上げられると、その食材は瞬く間にスーパーから姿を消した。そこに1994年のファンケルによる「価格破壊宣言(*)」などエポックメイキングな出来事が重なった結果、人々は「健康」をより身近なものとしてとらえるようになっていった。
その後も大きく短いブームを繰り返す過程で高まり続ける消費者の健康意識と、それに応えるシェフたちの動向を鑑み、2006年には合成保存料着色料無添加の「ナチュリアーナ」シリーズを販売開始。また、この頃から「北海道牛乳シート」に代表されるような素材の産地にこだわる取り組みにも力が注がれるようになった。
余計なものは入れない、“素材の味”を求める風潮に応える製品づくりで、田中食品興業所は同じ時代を生きるシェフたちのものづくりを支え続けた。
「シートの開発当時、私たちは“生地全体に対して30%分の重量のシートをつかう”ことを推していました。はじめのうちはそれでも『一口目からクリームの味がする』と好評いただいていたのですが、時が経つにつれて40%、50%、60%…と使われるシートの量が増えていった。消費者が食べ慣れて、よりパンチのあるもの、濃厚なものを求めるようになっていったんですね。シートを使う量が増えれば増えるほど、シェフはシートの品質を重要視しますし、シートの物性は生地全体に影響します。市場の動向とシェフたちの現場の姿、どちらもとにかく見て、聞いて、そこにあるニーズの本質を考え続けないと、本当に必要とされるものづくりは成立しないんですよね」