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プレトーク オーケストラ・プロジェクト2024

[山内] 大変お待たせいたしました。只今からオーケストラ・プロジェクト2024のプレトークを始めたいと思います。私は今日の出品者でもありましてオーケストラ・プロジェクトの代表もしております、作曲の山内です。よろしくお願いします。
だいたいこういう新作の演奏会の場合は、曲が終わった時に作曲者が登壇して顔見せをするんですけれど、たまにこういうことをやるんですね。つまり先に顔見せてしまったその上で、ご本人から曲のことをちょっと話していただくと、鑑賞の助けになるんではないかと言うことで、このようなことをさせていただいております。それでは他の3人の皆さんをお呼びしたいと思います、どうぞ。
改めまして作曲の山内でございます。

[森垣] 森垣です。どうぞよろしくお願いいたします。

[松波] 松波正太郎です。よろしくお願いします。

[今堀] 今堀拓也です。よろしくお願いします。

[山内] このプレトークの予定は大体40から45分あたりで終わる予定なんですけども、お気軽に聞いていただいて、途中で席を立っていただいたり出入り自由でございますので聞いていただけたらと思います。
まずキャッチフレーズについてちょっと簡単に説明したいんですが「直感とイマジネーション - AIと作曲の現在」すごい題名がついてますが毎年オーケストラ・プロジェクトはキャッチフレーズをつけているんですけど、これはキャッチフレーズでちょっと気になってもらえたらはいいな位の感じで、それで何かテーマを決めてるってことでもなくて、今回それでちょっと申し訳なかったのが、この題名を見まして今回の作品はみんながAIと一緒に曲を作って発表されるのかと勘違いされた方もいるようですが、そういうことではございません。タイトル詐欺みたくなっているんですけど、もちろんつまりAIに対してアンチの立場もあるわけなんですね。また変に決めちゃいますとそれぞれ個性的な作曲家の作風を縛ることにもなりますので、あくまでこのキャッチフレーズいうのはつけておりますけれども必ずしも作品に反映していることではないんですね。ただそのAIのことを皆さんも既にご存知だと思いますが、けっこう商業音楽の世界ではもう喫緊の問題になっております。と言いますのは、ほんとにAIが進化しまして、例えばコマーシャル音楽とかイージーリスニングとかポップスみたいなものは、本当にクォリティの高いものが作れちゃうんですね。そうすると作曲家は要らないんじゃないか、というのが本当に現実になりかねない。あるいは著作権はどうなるかといった現実的な面もありまして、すでに問題となって結構議論が喧々諤々で行われている次第でございます。ところが面白いことに我々現代音g区の作曲家はあまりまだ危機的な感覚を持ってないんですね。というのはどうしてかというと、商業音楽というのはハーモニーとかの理論がある種の定型でできているということが多いんですが、そもそも現代音楽はその定型を無視するところから始まりますので、みんなある意味個性的なんですけど、だからAIにはまだ多分真似されないぞ、みたいな部分があるんじゃないかと思うんです。ただ、とは言ってもほんとに進歩が早いですからどうなるかわからないっていうことで一応タイムリーじゃないかって言うことでこういう題名にしたわけです。ですから将来的にはほんとに現代音楽でも武満徹のスタイルを真似ろと言ったらそういう曲ができると思いますし、我々のデータを入れて、あの山内雅弘みたいな曲を書けと言ったらAIが作っちゃう。で、自分が書くより本当にすごいのを書かれたらどうしようってのはあるわけなんですけれども。後は「直感とイマジネーション」って言う題名はですねこれはキャッチフレーズを作る時に皆で相談したときに私がたまたま言った言葉なんですけど、これは実は小松左京(の小説が原作)の映画で「日本沈没」というのがあるですけど、1970年ぐらいにまずは最初の版ですね、他にも2,3回やってますかね。
(今堀が松波に耳打ち「僕5年前にこれの映画音楽コンサートで編曲したことある」)
その時に科学者の田所博士(劇中の登場人物)に、ある人が聞くんですね。科学者で一番大切なものなんだと。それは直感とイマジネーションだ、と言うその言葉がすごく印象に残っていて、ここでなぜそういうことを挙げたかって言うと、AIが優れてるけど、まだ直感とかイマジネーションはさすがにAIじゃ無理だろう、と言うような意味合いで、きっとつけたんじゃないかと思うんです。ただそれだってあと数年したら、いわゆる人間の直感、イマジネーションに負けない位のものが出来上がる可能性があると。そこでまず私から口火を切らしていただくんですけど、プログラムにも書いていますが、基本的に今回の私の曲は全くAIは関わっていません。私はどっちかと言うとアンチまで行きませんけれども無関心でした。やっと今回こういうテーマがあって、あと喫緊の問題であるということを聞いて、少しちょっと勉強してみようかなって気持ちにはなっている位です。これまでもそうでしたが便利な道具、コンピュータなんかもそうですね、それが出来上がったときにそれに使われるのではなく使わなければいけないんだけど、なんか人間のほうが振り回されている気配がある。そうじゃなく何かいい使い方がないかなと考えている次第ですが、今回の曲は全く関係ございません。そこで他の3人に聞きたいんですけど、まずはAIと言うことに関してどのようにお考えか、その上で今回の曲には何か関わりがあるのかってことでお話し頂きたく思います。

[森垣] AIと言う事ですね。今回の私の私の「ミステリウム」という作品にはAIは関係しておりません。本当に手作りと言う感じで作ってあります。プログラムにも書いたんですけど、AIに関しては特にその否定的な感じは私はなくて、むしろどういうことが起こるのかなっていう期待みたいなものがありますね。例えばエジソンが録音を始めた頃というのは、完全に録音ていうのは記録だったはずです。今ではレコードででもCDにしても音源してもまた、実演の素晴らしさに対して違う芸術品として存在しているように思うんですね。CDは虚構の世界って言うか作り上げた別のものですね。と同じように我々作曲家が作曲する作品を皆さんに楽しんでいけるいただけると思うし、またAIが作った作品と言うのも将来はあって、それを皆さんが楽しむって言うそういう場面も出てきて、将来はどうなるのかなってちょっと楽しみ、というのが私の考えです。

[山内] ありがとうございます。では松波さんどうでしょうか。

[松波] はい。多分私が1番効果AIって言うのに寄せて作品を書いてると思います。そもそもABC Impressions, 2曲目ですけれども、略してAIにしようと思ってタイトルを考えるとこから始めたのです。ではあらゆるAを考えて1つに絞りきれなくて、もうABCでいいや、ということにしてしまったのもあるんですけど、大規模言語モデル、まぁその先、言語の先を予測すると言う量が膨大になればなるほど人工知能が人間に近づくっていうのが今すごくChatGPTなんかを使ってでも、もう直に実感できてると思うんですけど、音楽も言語、あらゆる世界の共通言語なんて言いますけれども、まぁある程度予測するわけですね。この後こういう風な流れになるだろうって言って、それを奏者にやってもらおうっていうのが大きなコンセプトで、オーケストラって言う媒体においてその奏者の予測を強いるっていうのはある種の邪道ではあるんですけど、今回AIと言うテーマなので、ソリストが立ってるんですけども、上野さんがいるんですけど、そのソリストの発する音に対して中の人たちがまぁこういう音が来たから次は恋音が来るんじゃないかっていうの予測して演奏してもらう、というコンセプトでできております。あとプログラムを読んでいただければ。

[山内] はいありがとうございます。では、今堀さん。

[今堀] AIというのが昨今の用語ですと検索エンジン型生成AIの事を指すのがほとんどだと思いますけど、私はコンピュータのプログラムを使って計算を取り入れております。でもこれは生成AIではなくて、隅から隅まで自分で計算式を書いたアルゴリズム作曲プログラムと言うもので、プログラムの名前はOpenMusicと言うものを使ってるんですけど、どういう風に計算したかっていうと、まず何もない白紙の五線紙の、全体の時間を割り振ることから始めました。当初40分と考えていたのでそれを黄金分割で再帰的に分割していく。最終的にそれは40分を一度黄金分割した24分20秒位のところから始めたのですけど、そうすると、これはソナタ形式でできているので、その全体の8つのテーマを提示して、提示しきったところを全体の黄金分割の所に持ってくることができる。で、今度は展開部がその後に来て、そこもまた4分の3の黄金分割を置いて、そこに音響的なクライマックスを持っていくことができる。それもテンポもまた144なら0.1…いくらいくら秒と言うのを計算して何拍分がこのセクションという時間の計算をまず用いました。もう一つ用いたのは全体の和音ですね。これには例えばその周波数を計算しておいて、それを例えばAの音は440Hzで、Hの音は約500Hzなんですよ。それを引き算すると60になる。それをオクターブ上にすると2倍になって120になる。ところがそれを60のまま持ってくると、ちょっと縮まった音程が得られるんですね。これをだんだん上に持っていけば行くほど音程が縮まって行きますので、そういう微分音を含んだ和音を根拠あるものとして計算した。そういうところにコンピュータを用いています。もちろんこれは、手順を踏めば紙と鉛筆でも全部計算できるものです。

[山内] ありがとうございます。この中では、今堀さんが一番コンピュータとかに詳しい作曲家じゃないかと思うんですが、ただそうしますと、いわゆる生成AIそのものに関しては将来的な何かお考えございますか。

[今堀] そうですね、今思い当たるところといいますと、OpenMusicというのはIRCAMという私が学んだパリの音響音楽研究所、コンピュータ音楽の研究所で開発されたプログラム言語なんですけど、同じIRCAMが開発したものとしてOrchidéeと言うプログラムがあります。Orchidéeとは蘭の花という意味ですけど、Orch=オーケストラと、idée=アイデアを掛け合わせた洒落なんですね。これはその辺の街の雑音とかを拾ってきてポチッとかけるとオーケストラの音色をうまく組み合わせて自動的にオーケストレーションしてくれるって言うものがあります。で、ジョナサン・ハーヴェイという作曲家で2012年に70歳で亡くなった方ですけど、晩年に「スピーキングス Speakings」というタイトルそのままの、人が喋ってる音を全部オーケストラで、大人の人とか赤ちゃんとか集団と個人とか、そういうのをOrchidéeを使って書いた作品が、そうやってすでに世の中に生み出されています。ですのでまぁその辺の音全部やったら自動的に(Orchidéeにいれて分析させたらオーケストラ曲が)できたよっていうことなんですけど、じゃあまず、こういうアイディアをしたいって言うその人間の意思あってこそだと思うんですよね。そういう使い方がされていくべきかなと思います。

[山内] なるほど。あの今の話のようにAI前にもコンピューターがありましてそれはいろんな形で実は作曲家は使っていたわけなんですよね。でもやっぱりそれは人間のアイディアがあってからこそのコンピュータ、道具である。あの我々、私なんかはほんとに楽譜をきれいにするためにコンピュータを使ってるとかそういったレベルなんですけれども、後は実際にシンセサイザーでシミュレーションすることができます。で、シンセサイザーが発展した時なんかも、生の演奏者は要らなくなるじゃないか。実際もしかしたらちょっと仕事が減ったかもしれないんですけど、かといってさすがにシンセサイザー(ではなく生のオーケストラ)を聞く、今日も現に生の演奏者ですよね。そういう事はなくなってはいませんから、形を変えて、その進化に合わせて人間も対応していかなきゃいけないのかなと。私ふと思ったんですけど、10年後にオーケストラプロジェクトがあるかどうかもわからないんだけど、あるとしてですね。4曲の作品のうち1曲が完全にAIが作った作品で、もう1曲がAIと人間のコラボレーションの作品であると言うプログラムになってもおかしくはない、と言えばあまり考えたくはないんですけど、そういうこともあるのかなと言う事かも知れませんね。
では今度は、AIに絡むことなく、今回の作品に関してプログラムノートに書ききれなかったことを、もしくは今改めてプログラム以外のことでお伝えしたいことで、何かあればお話ししていただきたいと思うんですけど。私からすみません。私のほうもですね、あまりプログラムノートを書くのは好きじゃないんですけど、書けと言われるから書くんですね。と言うのは、聞いてくれればいいですよみたいな部分はどこかにあるんですけど、またここでも書いたんですが、私としては珍しく、この最初の5分間ほとんど弦楽器の、弦楽オーケストラなんですね。では管楽器は、トランペットとかいつ出てくるのかなみたいな感じだったのですが、5分過ぎにやっと出てきます。ちなみに冒頭はフルートがちょっとだけ鳴るんですけど、ほぼあとは弦楽器だけです。全体の3分の1位は弦楽器だけと、これは意外と私として初めてなので珍しいことなので、ちょっと挑戦したくてやってみました。後は「螺旋の記憶」なんてそれらしい題名がついているんで困っちゃうんですけど、あまり作曲者って、その題名に関してはいろんな考え方があると思うんですけど、あんまり螺旋って、最後は螺旋で消えていく感じがするかもしれないんですけど、あまり特別これが先にあったと言うことではないんですね。あまり深く考えすぎず聴いていただいて結構なんですが、あと再現がいろんなとこに仕込まれてるってちょっと意味ありげなことが書いてるんですけど、前に聞いたものが後で聞くと、あっ、前に聞いたあれだって思い出すことありますよね。音楽ってそういうのをを積極的にやってるわけなんです。A, Bで、もう一回Aが戻ってくると、人は喜ぶんですね。前に聞いたことがもう一回聞けると嬉しいですよね。ただそういうような厳格な意味じゃなくて、前に聞いた素材が変化して出てくる。言わなくても当たり前のことかもしれないんですが、ドラマでもよく伏線が回収されたなんて言葉を最近よく使っていますけど、なんとなくその再現と言うものにちょっと違う見方をしたかったなというのが、今回のポイントです。聞いてみて前に出てきたなぁと思うか、まあ私としては思わなくても気づかなくてもいいんだっていう仕込み方をしております。以上です。

[森垣] 私はですね、このオーケストラプロジェクトで初演する曲としては9回目になるのですね。9回目(だから)ってわけじゃないんですけど、特に思い入れある曲で、私だけがわかるんですけど、その9曲のいろんな部分がコラージュして全部入ってるってわけですね。それは言う事では無いんですけど、ともかく一番初めに発表した頃っていうのは元気だったんですよね。皆さんお元気ですけどね(今堀・松波を向いて)、オーケストラの曲を書くと言う事はものすごく気力と体力がいるっていうことが、今回すごくそれを身に染みてわかりました。精一杯頑張って書いたつもりなんですけども、今回AIと言うことが一つテーマでありましたけど、山内さんはオーケストラの魔術師のような素晴らしい作品を書く方なんですけど、それと一緒だし、あと若くてこれからどんどん、どんな曲を書くんだろうってお二人と一緒に、リハーサルから全部ご一緒させて頂き、すごく刺激を受けました。ありがとうございます。

[山内] 森垣さん結構やってて、私も結構ご一緒させていただいて、本当に私もそうなんですけど若い時に比べて、今になるとそれなりにもちろんわかってきたこともあるけれど、なんかもう基本的に体力がないと言うかね、オーケストラの曲書くの大変なんですよ。単純に言って疲れるんですね。もういい、もういいやと思ってたらまたもう一回やりたくなったりするんですけどね。と言うことで、若い人はやっぱりすごいなという気もいたします。では若い方、一番若いのは?松波さん。

[松波] 若い松波です。バタフライエフェクトという力学の話をずっと何かいつか音楽でやりたいなって言うのを思っていて、一匹の蝶の羽ばたきが全体に影響与えて竜巻まで起こすカオス理論の話なんですけど、そのモヤモヤした(考えがあった)のと、今回のAIのABCでB (Butterfly)とC (Chaos)だなっていう、たまたまですけどね、で今回じゃあそれをやろうっていうことでまぁ1匹の蝶に代わるものとして今回ソリストを置いたわけです。ソリストが何かやることで周りがどう影響されるかと、そう言うコンセプトで書いてですね。で、BとCはバタフライエフェクトとカオス理論ですけど、Aの部分はどうしようかなって迷ってですね。大気、アトモスフェリックなものでいいんじゃないかと思ったんですけど。我々アトモスフェリックと言えば、当然、ね。

[今堀] リゲティですね。

[松波] そういうことですね。ハンガリーの大作曲家のジェルジ・リゲティの「アトモスフェール Atmospheres」です。僕ら現代音楽の人は全員大好きな曲なんですけど、どうしてもそのアトモスフェールの影がちらついてしまって、ああいう音楽を抜け出せなくなってしまって。なのでもうちょっとアフォーダンスって言うもう少しちょっと抽象的な題材にしたんですけども、でもやっぱり曲の中にはそのアトモスフェール的な、大気のようなあの音が聞こえることがあると思うんですけど、まぁアンビエンスとかアルペジオ、アタック、打楽器だったらアンヴィルとか、とにかくAにまつわるものをAの部分では使うと。Bも同じようにですね、ビートがメインになったもの。で、Cはもうぐじゃぐじゃで、カオスです。まあ今Aなんだな、Bなんだな、Cなんだなと。音楽をやったことがある人なら、Aはラの音、Bはシのフラット、Cはドの音と、そこら辺をちょっと注目して聴いていただけたらより楽しんじゃないかなと思います。

[山内] ありがとうございます。最初は皆さんコンチェルトじゃなくて普通のオーケストラって言う話が出て、(私が)「コンチェルトも一曲あるといいんだよね」なんて言ったらそうなっちゃったということで、ありがとうございます、上野さんを呼んでいただいて。上野さんとの関わりはどのような感じですか?

[松波] そうですね、共通の間お世話になった大学在学中の師匠というか。

[山内] 同期?

[松波] 僕の方が一年先輩ですけど、今回彼にお願いしてやっていただくことになりまして、かなり心強かったですね。

[山内] すばらしい。じゃあ今堀さんお願いします。

[今堀] 先ほど山内さんが「一度出したものが返ってくると嬉しい」と言うお話をしてくださいましたけど、私はもう伝統的なソナタ形式と言うものをそのまま行こうと、交響曲と名付けるからにはソナタ形式を重視すべきと考えました。ただ普通のソナタ形式は第2主題まで、ブルックナーなんかは第3主題までありますが、僕のは第8主題まであります。で、第8主題までを出していって、展開部ではあそこの主題、ここの主題といったものを再利用して、しかも少しずつ変化して重ね合わせる、と言うようなことを考えながら作っています。が、まぁそれだとちょっとあまりにも理論理論で行き過ぎちゃうので(違う話をします)。
私は3月から2カ月間ブラジルに行っていたんですね。しかもブラジルの大都市ではなくて、イタパリカ島という、田舎島みたいな、小豆島くらいの大きさの島に行っていまして、そこでブラジルの文化、しかもちょっと他のブラジルにはない独特のものを見てきました。それは500年前にポルトガル人がブラジルに入植して、アフリカから黒人奴隷を大量に連れてきて、さとうきび畑で働かせたという歴史がありまして(イタパリカ島周辺はその奴隷貿易の拠点だった)、今住んでいる現地の黒人の人たちは、皆そのかつて奴隷だった人たちの子孫なんですね。で、奴隷も奴隷でただ黙って働かされてるわけじゃなくて、カポエイラと言うキックダンスを習得して、なんとか力で対抗して自由を求めたりしました。あと彼らは強制的にカトリックのキリスト教に改宗されたのですが……僕は自分で選んでカトリックに改宗したした人間ですけど……彼らは強制改宗させられながらも、アフリカの土着の宗教というのを密かに隠し伝えて今に至る「カンドンブレ Candomblé」と言う宗教があります。太鼓をポコポコ叩いて死者の霊を呼び出してくると、顔をすだれで隠した人が踊って、その人は死者の霊が乗り移ったシャーマンなんですね。そういうのを見てきたものですから、曲の後半の展開部に当たるところで、ブラジルの打楽器、コンガやボンゴをいっぱい使って、呪術的 incantevole あるいは神秘的 mysterioso ……というと(森垣の方を向いて)「ミステリウム」とも掛かってきますが、そういう何かおまじない的なもので何かを呼び寄せて、クライマックスに持っていくという、そういう思いを持って作曲しました。

[山内] ありがとうございます。あの余談ですけど、私なんかですね交響曲っていうタイトルがつけられなくて、全てベートーヴェンのせいなんですけどね。交響曲は恐れ多いって言う感じがあるんですが、私も前に弦楽四重奏にもそう言う気持ちがあった時に、最初の曲に第1番とつけて、まだ1曲しかないのに第1番もないだろうって時に、プログラムノートに2番、3番も書くであろうから1番にしたと書いたんですが、今堀さんもそうですよね?

[今堀] いえまぁそれは、今お話ししたそのブラジルへ行った時は、実は(交響曲第1番を)7割くらいできてからブラジルに持っていったんですよ。で、残りの3割の空白を(現地で)埋めていったっていうことで、今お話ししたブラジルの文化というのを取り入れましたが、もうすでに柱は建っています、あとは内装で壁をきれいにしたりと言う段階だったので、今度交響曲第2番を書くときには、もう最初からその辺をもっともっと深く、ブラジルの文化に根ざしたものをやりたいなと、構想しております。

[山内] ありがとうございます、楽しみです。というわけでいろいろ話をさせて頂きましたけれども、今の話は全く忘れていただいてもいいんですね。本当に音は音としてまずは受け取っていただければと思うんです。何しろほんとにこの演奏会ですね、ほんと一期一会と言うでしょうか。で、私なんかは自虐的に言うんですけど、今日が初演なんですね、でもなかなか再演の機会って無いんですよ。初演イコール終演だ、なんて言ったりしますね。で、この場に立ち会えた皆様はラッキーだったと思っていただくと、そういうことですね。
本当に皆さん、生き証人としてどんな曲か見届けていただければと言うそういう気持ちでいっぱいでございます。そろそろ時間となりましたので、あとは本当に音を聞いていただければと思います。本日はご来場ありがとうございました。最後までお楽しみください。


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