森垣桂一 ミステリウム (プログラムノート)
来たる2024年11月27日に行われる演奏会「オーケストラ・プロジェクト2024」
にて当日配布されるプログラムノートを先行公開します。
森垣桂一 ミステリウム(初演)
Keiichi MORIGAKI: Mysterium
曲名の<ミステリウム>について、ドビュッシーの以下の言葉を引用したいと思う。「芸術作品の美は、常に神秘のままであると我々は認めなければならない。言い換えれば、『それがどのようにできているのか』を絶対的に確かめることはできないのである。我々はどんな犠牲を払っても、音楽特有のこの魔法を守らなければならない。あらゆる芸術のなかで、その本質からして、音楽こそがこの魔法にかかりやすいのだから。」(ニュー・グローブ世界音楽大辞典第 11 巻より)
芸術とは「虚構」である。ただし最も美しい「虚構」の世界と言えるだろう。その夢のような響きを<ミステリウム>の最初の発想とする。
作品として明確な形をとるためには、常に慎重なテクニックにより作曲の作業と吟味が行われる。さらにオーケストラ作品の場合、演奏の現場を考えた楽譜としてスコアを完成させるために多くの配慮を必要とする。
こうしてできた<ミステリウム>を、私はまず一人の聴衆として心の中で聴く。語るような音楽、感情的な音楽、無機質な音楽、計算された音楽、即興的な音楽、劇的な表情等、様々なイメージがあるが、聴衆の皆様にどのように受け取っていただけるか、大変楽しみである。
本日の演奏会の副題は「直感とイマジネーション ~ AI と作曲家の現在」である。私は将来的に AI が作曲した楽曲が、人間が作曲した楽曲と区別がつかない水準になるだろうと思う。現在のAI は、まだ膨大なデータを処理することで作曲しているように人々を錯覚させているだけだが、いつか AI が聴衆の認知過程に介入し、知らないうちに認知を操るようになるかもしれない。今でも生成 AI のコンサートでは、作品に対する聴衆の反応をリアルタイムで AI が感知して、その場でより聴衆が求める作品へと変更して演奏することは可能であると聞く。現代に生きる我 々 は、演 奏 会 で オ ー ケ ス ト ラ を生で 聴 く自由 と 同 時 に、CD やYouTube をイヤホンで聴く自由も手に入れている。未来の聴衆は、人間の作曲家が作曲した作品を聴く自由と、AI が作曲した多様な作品群を楽しむ自由を手に入れているかもしれない。芸術が「虚構」である以上、人間の作曲家には AI より素晴らしい「虚構」の世界を、聴衆に提供することが求められるだろう。
本日演奏していただく、指揮者の大井剛史氏と東京フィルハーモニー交響楽団の皆様に、心から感謝致します。