脱法的な差押えはやめましょう
先日以下のようなポストをしたのは、実際職場でこのような話を聞いたから。
簡単に現時点での考えをまとめておこうと思う。
1 脱法的な差押え
滞納処分による差押えについて、初めて「脱法的」との指摘をした裁判例は、前橋地判平成30年1月31日である(たぶん)。
行政処分である差押えについて、「脱法的」という言葉を使用するのは、かなり強い表現であると言ってよい。が、確かに振込日に給与を全額取立てというのはやり過ぎだと思う。この判決においては、違法性認定の要件として「給与自体を差し押さえることを意図」していた点を挙げている。なお、前橋市は本件については控訴せず、判決は確定している。
2 高裁での逆転
同時期に提起された(ほぼ)同内容の訴訟についても、前橋地裁は同様の判決を出している(前橋地裁平成30年2月28日)。こちらについては市側が控訴し、高裁で逆転していることに留意する必要がある。
比較して分かるとおり、「滞納者の生活を困窮させるおそれがあるか否か」が具体的要件として追加されている。本判決においては、「2,000円が差し押さえられたからといって、その額が直ちに被控訴人が困窮に陥るおそれがある額であったということはできない」などとして、被控訴人の請求を棄却している。こちらも上告はされずに判決確定。
3 そして令和元年判決
現在、滞納処分の法適合性判断に大きく影響しているのは、大阪高判令和元年9月26日だろう。
「具体的事情」については、「対象口座への入金が(ほぼ)給与のみであること」及び「処分庁が実質的に差押禁止財産を差し押さえることになると認識していたこと」を挙げており、東京高判で認定していた「滞納処分庁の意図」や「困窮させるおそれがある金額か」については触れられていない。
4 今後の展望
東京高判から大阪高判の流れに鑑みれば、違法性の判断基準が「滞納者寄り」になっているように感じる。大阪高判に関して国は上告していないが、"この流れで最高裁判決が出るのはマズい"という判断があったのかもしれない。
徴税吏員は職権で滞納処分を行うことができ、それを行うだけの調査権限を与えられている。財産調査は、単に差押財産の探求だけでなく、滞納者の生計維持の可否にも着目して実施すべきであるといえるだろう。
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