不快な音環境の改善に関する実験的検討
執筆者:やっちゃん
1.はじめに
この団体は,オムニバス形式でnoteを書いている謎の団体ですが,本業はオーケストラ団体で,「いい音」を「いい環境で」奏でたいという人が多く集まっています.
しかしながら,「いい音」「いい音環境」は人によって考え方が異なることも多いのが現実です.そのためnoteに書くのは諦めました.
そこで今回は,「不快な音」について考えていきたいと思います.
今回,不快な音について書くにあたり,ちょうどいいところに「不快な音」に悩まされている人がいました.そう,まさに私のことです!
ということで,執筆者の寝室で聞こえてくる,「不快な音」を減らすべく,試行錯誤をおこなったので,その成果を発表いたします!
2.対象とする室
私の今住んでいる住居は築55年です.歴史がありますね(実際歴史に名を刻んでいる住居だとか).寝室としている和室の窓からは,小川を挟んで電車の線路があります.また,その窓のガラスも厚さはわずか3 mm,隙間もたくさんあります.つまり,とてもうるさいんです.
なんの対策も打たなければ夜は終電まで寝れず,朝は始発電車に起こされてしまいます.そこで今回は,このうるさい寝室をなんとかして安眠のできる環境にしていきたいと思います.
3.現状の把握
対策を考えるにあたって,現状の把握を行うことは非常に重要です.今回は音源の種類はある程度把握できていますが,いわゆる不思議音と呼ばれるようなどこからともなく聞こえてくる音,さらに音が聞こえてくる方向と実際の音源の方向が異なる音もあるため,音源の分析は必要不可欠です.例えば上の階の人の歩く音がうるさいと思っても,実際には斜め上の住戸のせいだったり,あるいは真下の階の人が原因であったりすることさえあります.そうしたときに上階へ対策を求めても問題は解決しません.
また実際に寝室がどの程度の騒音になっているか定量的に把握することで,目標値の設定がしやすくなり,対策後の結果に対して納得しやすくなると考えられます.
3.1. 測定器具
騒音を定量的に測定するには,「騒音計」という道具が必要になります.しかしながら,精密騒音計といわれるようなちゃんとした騒音計は法人の使用を想定していると思われ,最低でも十数万~ととても個人が買えるような値段ではありません(レンタルでも1日数万かかります).
そう思って,いろいろ調べていると,あるものを見つけました.
スマートフォンにつなげて使えるマイクロホンです.メーカーページ(https://www.mi7.co.jp/products/mic-w/i-series/i437l.php)にはIEC 61672 Class 2サウンド・レベル・メーター準拠(普通騒音計)とのことで,そこそこのレベルの水準にはあるようです.今回はこれを用いて騒音を測定していこうと思います.
3.2. 音源/室内の測定条件
今回は鉄道が音源ですのでまずは敵情を知るべく,鉄道近くおよび室内で鉄道通過時の騒音を測定しました.Fig. 5に測定点の概略図を示します.なお在来線の騒音測定については,環境省から在来鉄道騒音測定マニュアル(https://www.env.go.jp/air/noise/zairai/manual.html)が発行されていますが,今回の測定はこれには準拠していません.
測定する電車の方向は一方向のみ(家に近い側)とし,その軌道より約11m離れた点を測定点としました.なお室内は,室中央1点を測定点としました.計測時間は,鉄道が通過中のピークを含む10秒間の等価騒音レベル(平均的な騒音レベルのような意味)としました.周波数帯域は1/3オクターブ中心周波数50~5000 Hzとしました.これは今回は室内計測時に,鉄道が通過する際の騒音が15秒ほどで暗騒音(電車が通っていない時の周りの環境の音)に紛れるためです.それぞれの測定点で,電車の騒音を5本ずつ測定し,そのエネルギー平均値を測定値としました.
3.3. 音源の測定結果
以下に鉄道騒音,暗騒音,および今回の測定系での測定限界(下限)を示しています.結果を見ると,低い音から高い音まで60〜70 dB程度でほぼ一様の周波数特性となっており,特定の高さの音が大きく聞こえているわけではなさそうです.また,A特性音圧レベル(人間の音の大きさの感覚に近い音の大きさの指標)では80 dBを超えており,これは電話が聞こえなくなるレベルです.
3.4. 室内の測定結果
3.3節では屋外での測定でしたが,室内の測定結果を以下Fig. 9に示します.なお,屋内の測定では,ベッドなどの家具はそのまま設置しています.その吸音効果により,空室時よりは音圧レベルは低くなっていると考えられます.
電車通過時には,A特性音圧レベルで概ね50 dBの騒音が聞こえており,これはおおよそ皆さんが普段聞いているだろうテレビやラジオの音の大きさと大体同じくらいだと思います.うん,そりゃ寝れない.
一方,屋内の暗騒音は,A特性音圧レベルで30 dBです.ただし,グラフをみると暗騒音の大きさは測定限界に近く,実際にはこれよりも騒音レベルは低いと予想されます.このように暗騒音が小さい環境では,少しの設備騒音や道路交通騒音でも,気になりやすくなる傾向があり,私が鉄道騒音が気になる理由の一つと考えられます.
4.対策
4.1. 一般論
大きく分けると,音源,伝搬経路,受音の3つに分けて対策を行うことが多いらしいです.以下それぞれをまとめてみました.(ただし,それぞれは明確にグループ分けできるものではありません.)
音源対策
騒音対策の中で最も効果を出しやすいのが,音源への対策です.例えば隣人の騒音に悩まされていれるのであれば,隣人に黙ってもらうのが一番いいですね!(笑)
鉄道であれば,線路のロングレール化,低騒音型モータの使用,鉄道運行時間の制限(新幹線)などが挙げられます(JR東日本グループ 社会環境報告書2009より引用).しかしながら,相手は公共交通機関ということで,1人の文句ですぐに変えれるようなものでもありませんし,私もそこまでの財力は持ち合わせていません.今回はなかなか厳しそうです.
なお,楽器演奏等で自分が騒音の音源側になる場合はこの段階での対策が必要です.
伝搬対策
次に効果を発揮しやすいのは,伝搬経路での対策です.例えば防音壁の設置(線路のすぐそばに設置する場合は音源対策に分類することもできる),騒音を嫌う部屋は音源から遠い場所に計画する,などがあげられます.今回の場合は,寝室とする部屋を線路に面していない側の部屋に変えることも対策の一つです.
受音対策
最後に受音側,つまり騒音を受ける側で対策をする作戦です.自分の住んでいる家なので,(ある程度までは)自由に対策ができます.今回は,この受音側での対策メインで,改善を試みます.
4.2. 今回の対策
ここで改めて再度屋外で測定した鉄道騒音と室内の騒音を比較してみます.
屋内と屋外では125 Hz帯域から2 kHz帯域まで概ね20~25 dB程度の減衰が得られています.この屋外と屋内の差は,めちゃくちゃおおざっぱに言えば11 mと60 mという距離の差(電車を無限長線音源とした場合理論上約8 dBの減衰)と,3mm 厚の窓によって生まれています.そのため,この減衰をより大きくするには,距離をもっと稼ぐか窓の遮音性能を上げる対策が考えられます.
前節で述べたように音源との距離を稼ぐために,寝る部屋を変えるというのも立派な対策なのですが,それでは面白くないので(何が),今回は3 mmの厚さの窓に内窓を設置して,二重窓に変えてみます.
遮音性能上,内窓につかう窓は厚さの異なる複層ガラスにしたうえで,既設のガラスからなるべく空気層厚をとったほうがいいのですが,予算の関係上今回は単板6 mmガラスを空気層80 mmで設置することにしました.
今回対象とした窓は腰掛窓でしたので,大きさはそこまででもないものの,やはりガラスだけで30 kgになる重量を4Fまで階段で上げるのは少々きつかったですが,最終的には以下の写真の様に施工できました!
5.最終結果
内窓設置前後の室内の騒音レベルの結果をFig. 13に示します.
A特性音圧レベルでは,改修前の50.0 dBからおおよそ14 dB改善して,36. 7 dBとなりました.体感としてはかなり静かになりました.一方,今回3 mmと6 mm厚の窓サッシを,80 mmの空気層を挟んで設置したため,その低域共鳴周波数である100 Hz付近では前後でほぼ騒音レベルが変わらない結果となりました.聴感上も低い音が相対的に大きく聞こえてきます.でも理論と一致して少し嬉しい.
この改修後,私は耳栓をつければこの部屋で快眠できるようになりました!
6. 終わりに
休みの日もこういうの書くのはさすがにどうかしていると思った.
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