W4D5 工場乱闘-공장난투
ルナが違和感を覚えたのは、電車が海芝崎駅へのラスト区間に差し掛かったころからだった。
「なんだか僕たちを見ているような気がする」
とルナは言い、直也を見る。
直也は「気のせいだよ」というが、ルナはそわそわするのか、ずっと窓を見たり、直也を見たりと忙しそうに視線を動かしていた。
電車が海芝崎駅に到着すると同時に、ルナは真っ先に工場へとつながるゲートに入り込み、守衛の眼をかいくぐぐって工場の内部に侵入する。
「駄目だよ……」
直也は言うが、ルナは聞かない。
むしろルナはこの時、小さな罪にこだわっては大変なことになるような気がしていた。
第一工場の内部に入り込む。
誰もいない。
「なんにも起きてないよ……」
直也は言う。
「むしろだからおかしい。今、工場がきちんと動いていれば僕たちの姿をもっと早く確認できるはずだ。そうではないということは、何かが起こっている」
ルナは目を吊り上げて言う。
そんなことはあるのだろうか。
直也は首をかしげる。
第三工場に入り込む、
階上から見ると明らかにおかしなことが行われていた。
トラの耳と尻尾を持つ男が、次々と人間を燃やしていく。
そのたびに工場職員たちは手を叩いて喜んでいる。
さらにその一角には黒い袴を着た男が感心した様子で見つめていた。
何が起こっている?
ルナはじっと兵士たちを見つめる。
エコーで状況を確かめる。
残留思念や、これから処刑されようとしている人々のプロフィールを確認する。
そして、ルナは頷き、直也を見る。
「隠れていて」
直也に言うと、ルナはそのまま工場へと飛び降りた。
「何やっている!」
ルナは叫ぶ。
工場職員はいっせいにニッポニアの服装である、白装束へと切り替わる。
ルナはすぐさま一人を殴りかかる。
その瞬間、兵士がルナを殴りかかろうとする。
ルナはその手をつかんで投げ飛ばすと、近くの兵士を両手でつかみ、盾のようにする。
敵兵は魔法でルナめがけて魔弾を放つ。
その魔弾を、ルナがつかんだ兵士は受けた。
魔弾を受けた兵士はその場で肉片と血液をまき散らして倒れる。
ルナはその兵士を投げ捨てて近くの兵士の行動をふさぐと、そのうえに乗っかり、別の兵士二人の頭をつかむ。
思いっきりその兵士の頭どうしをぶつける。
頭蓋骨が陥没したのか、真赤な液体をとともに白い液体も見え隠れする。
ある程度兵士が落ち着くと、タイガー傀儡をにらみつける。
そして両手をクロスさせ、叫ぶ。
「変身!」
ルナの身体は光に包まれ、ルナではなくマスクドオルカの身体が作り出されていく。
そして完全にマスクドオルカに切り替わると、彼女はタイガー傀儡の前に立つ。
「何やっているんだ!」
マスクドオルカは怒りの表情で言う。
一方、敵は涼しい顔でマスクドオルカを見る。
「何って? この工場の正常化ですよ。彼はマジョリティですよ。日本人を支配しようとした。彼ら反日によって日本人は虐げられ、蹂躙されている。一方で日本人はそれに抵抗する手立てを一方的に奪われている。その状況を憂わない方こそ、マイノリティに対しての裏切りと言えるのではないか?」
タイガー傀儡は言う。
マスクドオルカはじっと彼を睨む。
「ではいつ在日コリアンやリベラルが日本人を攻撃しようとした? 細かい事件などはあるかもしれないが、多くの人間はおとなしく暮らしているだけではないか。それに自分たちは自分たちとして生きたいだけだ。その権利を蹂躙して何が日本人らしさだ!」
マスクドオルカは静かに、しかし確実な怒りを込めながら話す。
「自分たちで過ごせる場所? それを今お前たち朝鮮人はこの日本人の地に作り出そうとしているのだろう。そのような反日行為を見逃すわけにはいかないのだよ」
タイガー傀儡は言うと、手をゆっくりと握りしめる。
そして「聞き分けのないものめ」というと、魔法陣を展開。
マスクドオルカめがけて火炎放射を行う。
彼女はこの時点で敵兵は火炎兵だと判断。
魔法陣を展開。
ハイドロポンプを腕のさきから放つ。
しかし、敵兵はそれを受けてもびくともしない。
むしろマスクドオルカに向けられた炎はマスクドオルカのコスチュームを燃やし、マスクドオルカに深刻なやけどを負わせる。
さらにタイガー傀儡は加速装置を起動。
マスクドオルカにとびかかる。
彼女はすぐさま回避し、攻撃するためにバックステップを踏もうとする。
しかしその瞬間に敵兵はマスクドオルカに到達。
マスクドオルカの右肺に爪を突きつける。
その瞬間、マスクドオルカは目を大きく見開きながら喀血。
さらにタイガー傀儡は腕から筋肉ごとマスクドオルカの右腕を引き抜く。
その瞬間、マスクドオルカは胃の内容物を吐しゃする。
「汚いねぇ」
言うとタイガー傀儡はマスクドオルカの腹に錐のように伸びた爪を突きつける。
爪はマスクドオルカの胃を破ると、人工消化装置を破壊。
タイガー傀儡のコスチュームに真赤な血液が跳ね返る。
「俺はお前たちみたいな寄生虫は大嫌いなんだよ!」
タイガー傀儡はマスクドオルカの顔面に錐を突きつけようとする。
しかし、その瞬間、タイガー傀儡はマスクドオルカの剣を自身の胸に受けていた。
「お前の̪私怨で集団を殺すな!」
その叫びは、工場一杯に響き渡った。