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W4D6 ひとのやさしさ-사람의 따스함
目覚めなければ。
マスクドオルカを呼び立てるけたたましい声が聞こえてくる。
その声はまるで叫びのようであり、そして自分の心が叫んでいるようにも感じされた。
腹部、それから右手を破壊され、自分の意志ではどうにもならなくなっている。
それでも、今は戦わなければならない。
止血などは自分の身体がすぐに行ってくれる。
しかし、外れた腕の復旧は最低でも一日はかかってしまう。
目の前には、自分が倒さなければならない存在。
今はいったん、黙らせなければ。
マスクドオルカは目を覚ますと、剣を腕に召喚する。
そしてその刃で敵の腹部を穿った。
「お前、何がしたいんだ!」
マスクドオルカは敵の腹部を蹴り、体制を整える。
敵は一瞬体をまごつかせるが、すぐに立ち直る。
「俺たちを支配する反日組織と戦っているだけだ。お前は反日民族の首魁として日本人を蹂躙し、屈服させようとしている。そんなお前を俺たちは許さない!」
敵は叫ぶと、マスクドオルカめがけて魔法陣を射出。
マスクドオルカはターゲティングを避けるべく、水中へ。
タイガー傀儡も水中へと潜る。
「!!」
マスクドオルカは目を大きく見開く。
タイガーマスクはずっと深く深い場所へもぐっても執拗に追撃し、魔法陣を射出。
さらに火炎術を発射。
マスクドオルカのコスチュームを燃やす。
炎は水で一切消えることなく、彼女の服を燃やしていく。
再び炎は引火、足の皮膚を燃やしていく。
「どうだ、この痛みは。お前たち朝鮮人が日本人の労働者を搾取した痛みだ! 俺も、この工場のみんなも、みんな朝鮮人によって搾取された。お前たちがこの世界で生きているせいで俺たちは搾取される! 俺たちの権利を守るために、朝鮮人は倒さなければならないし、アマテラスさまの御力が必要なんだ!」
タイガー傀儡は叫ぶ。
マスクドオルカはその言葉を聞き、言葉を失う。
彼らはおそらく、コリアンがどうかはわからないが、労働搾取を受けてきたのだろう。
その搾取をいかんともしがたい状態で放置され、 苦しんでいるところをニッポニアに救われたのだ。
その一方で彼らは生きている意味はある。
しかし、そのことを認められないのだ。
働いても働いても稼ぐことはできず、搾取されてしまっている。
そのことを訴えても、誰も聞いてなどくれない。
その叫びをどのようにしたらいいのか、マスクドオルカには判断がつかない。
また、さらに考えてみると在日コリアンが何らかの形でかかわっているのもあるのだろう。
「直也……。この工場のこと……調べられるか……」
マスクドオルカは聞くと、直也は「やってみる」と話をつけた。
余りの痛みからこれ以上のことは考えたくない。
それどころか、体は軋み、その痛みでこれ以上泳ぐこともままならない。
痛みを放置してそのままにしているうちに、体がどんどんと水中へと沈み込んでいく。
しばらくすると意識が消え始めていく。
深く、深いみな底。
その奥へ奥へと沈み込んでいく感覚はまるで、地獄のようだった。
おそらく仕事のことを言っているのであれば、仕事が地獄のようになっていったのであろう。
自分たちの居場所や存在の尊厳を確保してもらうことも、自分たちがなんのためにはたらいているのかもわからなくなるほど働かされ、やつれていってしまったのだ。
そんな人を、自分は救わなければならないのではないか。
ブドウ畑のたとえを思い出す。
イエスは労働者の賃金を一デナリオンを、どんな時でも払うといってくれた。
しかし、彼らは一デナリオンの給料を支払われているのだろうか。
そして、在日コリアンだという人間もまた、一デナリオンを支払われているのか。
それがマスクドオルカには解らないが、そのようなうめきなのではないか。
それでは働く意味も、生きる意味もなくなってしまう。
その生きる意味を奪われ、在日コリアンの工場長のせいにしたのがニッポニアなのではないか。
そうなると、目の前のタイガー傀儡も被害者と言える。
「タイガー傀儡……」
マスクドオルカは問う。
「お前の……気持ちも……わかるよ……」
その言葉に、タイガー傀儡は応答しない。
「マスクドオルカ」
直也から電話が入る。
それをテレパスで受けると、直也は少しばかり嬉しそうに言う。
「さっき社内文章にログインできたんだけど、在日コリアンの工場長、金子さん以下みんなお給料はおんなじだったみたい。むしろ賃金を上げるように言っていたらしい。それから金子さんはその中でもきちんとした仕事をしなくてはいけないってプロ根性から、タイガー傀儡、田中さんを厳しく指導したらしいんだ。それに賃金アップをしたら真っ先に田中さんの賃上げをしたがるくらいには田中さんを可愛がっていたらしい。それで芝崎の社長さんって、実はかなりの差別主義者みたいなんだよね。だから川崎市のヘイトスピーチ禁止条例にも反対したし、最近になって芝崎の本社が横浜に移ったのも、ヘイトスピーチにうるさくなくて、民自党が政治を握っているかららしい」
その言葉に、なぜか安堵を感じてしまう。
マスクドオルカはこぽこぽと息を漏らすと、足のウォータージェットを軽く稼働させる。
そして上昇していくと、もう一度タイガー傀儡のもとへと達する。
「タイガー傀儡。聞いてくれ。金子ってお前が恨んでいる奴だろう? 彼は賃金アップを訴えていたらしい。それからお前のことを大切にしていたそうだ。賃金を上げてやりたいって。それどころか芝崎の社長はお前をコリアンを殺すために使おうとしていたらしい。……お前、そんな大切な人を殺すことなんてできるか?」
タイガー傀儡はその言葉を聞いた瞬間、目を大きく見開く。
「俺は……」
その瞬間、タイガー傀儡は目を閉じ、苦しそうに悶絶する。
「お前、金子さんはもう殺してしまったか?」
「まだだ……俺は……」
タイガー傀儡はずっと目を閉じ、つらそうに胸を抑える。
「お前が殺したんだ! お前が責任を取るべきだ」
マスクドオルカは言うと、急上昇を行い、水面から姿を現す。
そして金子を見つけると、「逃げろ!」と叫び、剣で彼を縛る電磁ロープを切る。
金子はしきりに「ありがとう……」と言って、マスクドオルカに礼を言った。
マスクドオルカはその足でゆっくりと芝崎のもとへと向かう。
すると後方で水音、ついで足音が聞こえる。
タイガー傀儡はまっすぐに芝崎に近づくと、魔法陣を作り出し、その中から剣をひきぬく。
そして次の瞬間、芝崎は上半身と下半身を切り離され、その場で倒れた。
「俺のみそぎだ。これで死刑囚だな」
タイガー傀儡は乾いた笑いを浮かべると、その場で泣き崩れる。
マスクドオルカはタイガー傀儡に寄り添い、彼の身体をさする。
そして「死ぬな」と優しく言う。
「お前、よかったら一緒に戦わないか。僕達みたいな死に損ないで、生きる目的も分からなくなった人間をこれ以上僕も殺したくない。できる限りみんなで暮らしていきたい」
マスクドオルカは言うと、にこりと微笑む。
タイガー傀儡はその場でゆっくりと立ち上がり、彼女を見る。
「お前……」
彼は言うと、困惑した様子で言う。
「お前じゃない。僕は……僕は范涙娜、大学生だ」
言うとマスクドオルカは手を指し伸ばす。
タイガー傀儡はその手を、そっと、ぎこちなく握った。