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暖かい出会い 【輝きの魔法使いシリーズ】

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輝きの魔法使い

前回のお話

魔界に住む魔法使いである日向と夜月は、ひょんなことから異世界(こちらの世界)に来てしまう。

文化の違いに戸惑いつつも、なんとか再会した2人。
そこに、魔界に存在する生物 魔獣が現れる。

無事に魔獣を追い払うことに成功した日向と夜月。
この世界でも生きられる可能性と行方不明の弟を探す目的を持った2人は、この世界で生きることを決意するのだった__

第2話「暖かい出会い」

   自分の知らない世界に来て、魔獣と遭遇して、弟を探すことを決意して。昨日は本当にいろんなことが起こった。
    だけど、今日はそれ以上に大変な日になるだろう。だって……。
「お腹減ったよー」
「やめなよひなちゃん。言ったところで何にもならないよ」
「けど、なんとかしてご飯手に入れないと辛いよ」
    今日はさっきまで夜月と別行動。夜月は昨日に引き続き、ケットシーもどきの姿で情報収集。私は困っている人を助けて、魔力回復のための輝き集め。頑張った結果、少ないけど輝きは集まった。
    だけど、魔力回復ができても空腹は回復できない。つまり昨日から何も食べてない私たちは、空腹で限界ということ。
「ひなちゃん、問題はご飯だけじゃないよ。家もお金もないし……」
「他にもあるよ。お風呂は魔法でシャワー代わりにはできるけど、湯船にも浸かりたいもん」
「僕らの魔法石だけだと、魔力や輝きを貯めれる量にも限界がある。シャワーとかも毎日できるかわからないよ」
    魔法石は、魔法使いなら必ず持っている宝石のこと。私たちの場合は、ペンダントに付いている宝石がそれだ。多少の魔力貯蓄は可能だけど、何日も問題なく生活できるほど貯めることはできない。
    だからこそ、この世界の人たちみたいに魔力を使わない生活方法を身につけなければいけない。
「とにかくご飯。私たちなんにも食べてないよー」
「なんだい、あんたたち腹減っているのかい?」
「うわっ」
「えっと、どちらさまでしょうか?」
   突然話に入ってきた女性に夜月が尋ねる。女性は怪しい者じゃないと弁解しながら、声をかけた理由を語り始めた。
    彼女は飯山 美咲さん。近くにあるレストラン「飯福亭」を夫と経営している。
    買い物帰りに見慣れない2人、つまり私たちを見かけた飯山さんは、困っていそうな私たちが気になって声をかけてくれたというわけだ。
「それならうちにおいで」
「お気持ちはありがたいのですが、僕たちお金が……」
「子どもが何遠慮してるのさ。うちは飯屋、相手が誰だろうと腹減ってるなら客だよ」
「でも申し訳ないですよ……」
「嬢ちゃんもかい。そうだね……。なら、お代は労働でどうよ。旦那が腰をやっちゃってね。1人でお店を回すのは大変で困ってたのさ」
「困ってるなら……お言葉に甘えてみる?」
「僕らが食べた分働けばいいし、お店なら人が集まるから……」
   人が集まるなら、情報も輝きも集めやすくなるかもしれない。
「飯山さん、よろしくお願いしますっ」
「ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
「美咲でいいさ。飯山じゃ旦那と言い分けられないよ。ほら、おいで」
   飯山さん、もとい美咲さんについて行く。そして、赤い屋根が目立つレストラン「飯福亭」に到着した。

「おまたせ、ベーコンエッグパンケーキとメンチカツセットだよ」
    ついに来た、こっちの世界で初めて食べるご飯。私は大好物でもあるパンケーキ。夜月は特別好きって料理が特にないので、適当に選んだみたい。
「……っっ。このパンケーキ、とっても美味しい」
   この世界でもパンケーキはあるんだという安心感もあったけど、世界が違うからかちょっと違う。もちろんどっちの世界のパンケーキも美味しいけどね。
「相変わらずのパンケーキ。1日、いや一昨日の昼以降だから、2日ぶりの食事だよ」
「だからご飯系パンケーキにしたんだよ?」
「ひなちゃんは本当に甘いものが好きだね」
「私はいいから、夜月も食べなよ。冷めちゃうよ」
「わかってるよ。……美味しい。僕、これ好きかも」
「えっ、まさかのタイミングで大好物できちゃった?」
「できちゃった、かも」
   キラキラと瞳を輝かせてメンチカツを頬張る夜月。こんな姿初めてかもしれない。味が気になる……。
「話を遮って申し訳ないが、2日も食べてないって本当か?」
    美咲さんの夫で、「飯福亭」の店主でもある俊夫さんが声をかけてきた。
    人前だって忘れていた。なんて誤魔化そうか……。
「えっと、帰る場所が見つからないというか……」
「ひなちゃん、誤解を招く言い方はダメっ。えっと、ちょっと規模大きめの迷子というか」
    飯山夫妻が顔を見合わせる。夜月も誤魔化せていないよ。なんて言おうか慌ててしまう。
「よし、決めた。君ら、名前は?」
「えっと、さっき美咲さんから聞きましたよね?」
「フルネームだよ。苗字と名前」
   どこか楽しそうな表情の俊夫さん。美咲さんは言いたいことを察しているのか、賛同するように軽く頷いた。
   フルネーム、苗字……。おそらくファミリーネームみたいなものだろう。しかし、飯山夫妻の名前と何か違う。そのまま伝えるのは変かもしれない。
「えっと……」
「旭と深宵。こっちが旭  日向で、僕は深宵  夜月です」
「……ちょっと、どういうこと?」
「ひなちゃんのファミリーネームをこっちの意味に変えてみた。僕のは適当だけど」
   夜月の機転のおかげで、フルネーム問題はすぐに解決した。この世界での私は、今日から旭  日向だ。しっかり頭に叩き込んでおく。
「よし、旭ちゃんと深宵くん、うちのバイトにならないか?」
「えっ?」
「バイトですか?」
「女房から聞いたと思うが、腰をやっちゃってね。しばらく人手が欲しかったんだ。賄いつけるし、家が見つかるまではここにいていいからさ」
「そうだね。迷子の子どもなんて放っておけるわけがないよ」
    まさかの提案が飯山夫妻から出てくる。
「どうする?  申し訳ないけど、ちょっと都合のいい話すぎる気がして」
「でも頼れる先は無いし、飯山さんたちが悪い人じゃなさそうなのは、さっきまでで充分伝わったでしょ?」
「ひなちゃん甘すぎ」
「改めて、よろしくお願いします」
「ちょっと、1人で決めないでよ。……同じくよろしくお願いします」
「よろしく、2人とも」
「美味しいご飯の分、しっかり仕事は教え込むからね」
   こうして、飯山夫妻のお店での生活が始まった。

   お金の単位は円。フォークやナイフ、スプーンの他に箸というカトラリー。ケットシーもどきの名前は猫。
   このお店でお客さんと交流をしていったおかげで、色んなことを学ぶことがてきた。わざわざ変身魔法使って調べてた夜月は少し残念がっていたけど。
「元気だしなよ」
「だってこんな簡単に……。僕の苦労はなんだったの?」
「まあまあ、気分変えようよ。今日のお昼の賄いはカレーだよ」
「また初めての料理……。カレー早く食べよ」
    主に任されるホール仕事は、覚えることも多くて大変。だけど、誰かと話すことが好きなおかげで、それほど苦ではなかった。
    それと理由はわからないけど、食事をした人たちからも輝きは発生していた。そのおかげで、私たちは問題なく過ごせている。拠点探しは難航しているけれど。
「いやぁ、2人とも美味しそうに食べるね」
「美咲さんのご飯が美味しいからですよっ」
「いつもありがとうございます。ちなみに、俊夫さんは大丈夫ですか?」
「それがさ、もうしばらくかかると思ってたんだけど、最近になって回復が予想以上に早くなったみたいでね」
    夜月がジロリと私を見つめる。私が何かしたと思ってるのだろう。……正解だ。正体不明の私たちを家に入れてくれたんだ。私の魔法でなんとかなるなら恩を返す。それだけの話。
「もちろん。旦那が戻ってきてもここにいていいからね。むしろ料理長でもある旦那のさらに美味いご飯が食べられるよ」
「本当ですか?」
「俊夫さんのメンチカツ、楽しみです」
「パンケーキもっ」
「ぶれないねぇ、あんたたち」
   美咲さんにつられて私たちも笑ってしまう。まだまだわからないことだらけの世界。それでも、飯山夫妻のような優しい人たちがいるのなら、私たちもなんとかやっていけそうだ。
    美味しいご飯に優しい人たち、この世界での暖かい出会い。単純かもしれないけれど、私はこの世界を好きになり始めていた。

「会計を」
「はいはーい。……コーヒーのブラックとミックスサンドね」
   黒い宝石の指輪をはめた男がレジで会計をする。そんな彼は、私たちをじっと見つめていた。





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夜月くんの読み方、けっこう誤解されそうな気がするので今のうちに

深宵 夜月(しんしょう よづき)くんです
よげつじゃないです、よづきです。

こっちの方が言い方がなんか好きなのでそうしましたw

追記 タイトルの書き方を変更しました
        一緒に前回のあらすじを追加しました


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