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#2 トークン価格とは何か

前回の記事 (#1) では、”エコシステム”を自分なりに定義し、経済圏の拡大において、アテンションがトークン価格に対して持つ影響について書きました。アテンションには価値があり、アテンションが定着するとそこには経済が生まれます。

この記事では、「トークン価格とは、何がどう評価された数値なのか」というテーマから出発し、「通貨として使われる実経済の定量的価値 (T/MV)保有によって得られる定性的価値 (α) の組み合わせで便宜的にトークン価格を定量評価できるのではないか」という仮説について書いていきます。

要約

  1. トークン (暗号資産) は通貨財 (人間の欲求を満たすもの) としての性質を併せ持つ

  2. それぞれの価値を通貨 (T/MV)財 (α) として便宜的に評価

  3. トークン価格 (Pt) は、Pt = αT/MVの式で解釈できる


0. 背景

トークンは多様な価値を表現できる反面、その価値がどのように評価され、価格に反映されているかという判断は困難です。

僕の場合、所属しているMCHが掲げるビジョン「ゲームにかけた 時間も お金も 情熱も、あなたの資産となる世界」における「資産」の解釈が多様であり、どのようにチーム内およびコミュニティで目線を合わせるのか、ということが重大な課題でした。本記事は、その課題に対する便宜的なツールの1つとして整理を進めた内容になります。

1. 「トークン価格」を分解する

トークン価格の正体を細かく考えるため、暗号資産の価格評価にも使われるフィッシャーの交換方程式 (Pt = T/MV) を試しに使ってみます。

1 / 物価 (P) = トークン価格 (Pt) = T / MV

Pt [財 / トークン] : 財に対するトークンの購買力 (物価Pの逆数)
T [財 / 時間] : ある期間あたりにトークンで購入される財の取引量
M [トークン] : トークンの流通枚数
V [1 / 時間] : ある期間中のトークンの取引頻度

a. シミュレーション

ここで各変数を固定して考えてみると、よく見かける「ロック」「ステーキング」「HODL」「高単価」「バーン」が登場します。

・TとMが一定の場合:流通頻度Vが減少すると、トークン価格が上昇する。したがって、ロックステーキングが施策として採用されやすい。もっと単純な話、トークンをHODLするとVは減少し、価格が上昇します。

・MとVが一定の場合:取引量Tが増加すると、トークン価格が上昇する。流通頻度Vは一定なので、取引単価が高いほど価格上昇が大きい。

・VとTが一定の場合:流通枚数Mが減少すると、トークン価格が上昇する。したがって、トークンのバーン (burn) が施策として採用されやすい。

ただし、これは暗号資産のために作られたものではない理論式です。さらに本来はもっと複雑に変数同士が依存しており、あくまでも「ないよりマシ」な仮説として用いています。

b. 実数値との乖離

上記の式にT, M, Vの実数値または推定値を代入してみると、実際のトークン価格よりかなり小さな数字が出ることが多いと思います。 それはこのモデルがあまりにも的外れである、ということではなくアテンション・マインドシェア・コミュニティ・カルチャーのような定量化できない状態を考慮できていないからです。逆に言うと、実数値との乖離がその価値そのものに近いと考えています。

わかりやすい例として、ミームのようなアテンション純度の高いトークンを購入する際、実際には「他人が注目していることへの参加」「価格上昇への期待」「FOMOの解消という安心感」などの定性的な効用を購入しています。なお、この段階でこの価値に固有性はなく、他のトークンやコンテンツによって容易に置き換えが可能です。

さらに、アテンションが定着しネットワークとして進化していくと、「ステータス」「帰属意識」「ナラティブ」「熱狂」のように多様かつ置き換え不可能な固有の価値がトークンに付与されていきます。

c. トークンの二重性

この価値を考えてみると、トークンを支払って購入できるものではありません。むしろ、トークンの保有によって得ることができる価値です。

つまり、トークンは通貨と財 (人間の欲求を満たすもの) という2つの性質を持つことがわかります。フィッシャーの式はあくまでも通貨を表現する式であり、ここに限界があります。

d. 便宜上の式拡張

上述のトークンの保有で得られる定性価値をαとして、全体にかけてみます。

トークン価格 (Pt) = αT / MV

#1では「価格上昇が価格上昇を強化する」と書きました。つまりαは内部にPtを含むような関数になっているはずです。ここでαは「定性価値」の便宜的表現のために用いているのであって、その定式化は目的ではないため、この深掘りは一旦避けます。

繰り返しますがこれは全く学術的ではないですし、厳密なシミュレーションでもありません。変数だらけのトークン経済を評価するひとまずの手段として用いています。もっといい方法、絶賛募集中!

実際の運用では、プロダクトビジョンとトークンの時価総額 (≒ トークン価格) を紐付け、さらに各項を分解する形でDeFiやゲーム経済にも繋げて可視化していきます。新機能の開発や各種キャンペーン・イベントは、このような価値の流路のどこに楽しさや報酬を設置すると全体の巡りが良くなり、最終的にはトークンの価格に積もっていくのか(途中で漏れないか)ということを考えながら企画しています。

「ゲームにかけた 時間も お金も 情熱も、 あなたの資産となる世界」の定量指標化

なお、そのトークン経済に関わっている人みんながこんなことを考えたり理解する必要は必ずしもありません。本記事では説明しきれませんが、「どんな人がどんな形で関わっていても、αないしはT/MVのどちらかに意図せず貢献をしている」という構造を作ることがトークン設計だと考えています。

2. 価値を具現化する技術

トークンによって初めて生まれる価値も勿論ありますが、トークンやブロックチェーンがなくても「コミュニティへの帰属意識」や「熱狂」には価値を感じることはたくさんあるはずです。

良し悪しはさておき、トークンはこのような価値を具現化することができます。株式が議決権や経済条件を具現化して流通可能にしたように、現状のトークンは例えば「ステータス」「帰属意識」「ナラティブ」「熱狂」など幅広い価値を流通可能にしています。

この具現化はブロックチェーンや金融に限った現象ではありません。知識やノウハウが具現化されれば、特許や免許や学位になります。家紋は家系の表現だし、アートは時代精神や美意識の具現化です。そして、それぞれ固有の価値を表現するために権利の有無や流通の可否という性質の違いがあります。トークンも同様です。トークンだから、取引可能だから、というだけで価値が生まれることはありません。

また、具現化によって失われる価値はないかという問いは常に持っておくべきです。例えばブロックチェーンゲームでは「経済インセンティブの存在によって、純粋にゲームを楽しめなくなってしまう」というアンダーマイニング効果は有名です。チケットのダイナミックプラインシング等も類似の課題を抱えていると認識しており、適切な設計が重要だと思います。

また、この記事のような説明こそが時にトークンの魔法を解いてしまうものだったりもして、トークン発行体が積極的に言語化しない内容でもあるのかなと思っています。

3. 追記

トークン価格とアテンション

#1では、トークン価格におけるアテンションの重要性について書きました。本記事を踏まえると、「アテンションの定着によるネットワークの進化」とは、置き換え可能なアテンションとしてのαに支えられていたトークン価格が置き換え不能な定性価値 (α) や定量的な経済価値 (T/MV) として積み上げられていく過程であると再解釈しています。

現在のAI Agentはまさしく置き換え可能なアテンションの奪い合いをしているように見えます。その後、置き換え不能なポジション (α) の確立とそれを正当化するプロダクト経済 (T/MV) が追いついてくると思われます。

トークン価格と絆

トークンを握り締め、価格上昇を喜び、絆を作る。トークンは純粋な財である、そんな空間。自由な選択が無限に存在する現代において、絆は自由を制限することで安心を与えますが、絆というαの一本足打法は詐欺やスキャムと紙一重です。自衛として、自分が何に価値を感じ何に対価やリスクを支払っているかに常に自覚的である必要があります。今後の規制のあり方は、この自由とのトレードオフになるでしょう。

トークン価格と収益還元

良いプロダクトを作りその収益をトークンへ還元することも重要ですが、トークンそのものを財たらしめる意識も重要です。収益還元だけで戦うならば、株式でも良いはずです。収益還元という構造の存在がトークンそのものを財たらしめる要因やナラティブとなる、ということもあり、分けて考えすぎないことが重要です。

ネットワークの本質は「繋がり方」なので、ネットワークを分けて考えると一番見たい部分が見えなくなってしまう可能性があります。複雑なネットワークは複雑なまま考える必要があり、故にクリプトは総合格闘技だ、などとも言われます。これは定式化を思考ツールとしてでも使うことの自戒です。

最後に

本記事で考えてみた内容はあくまでも共通言語を作るためであり、定式化が目的ではありません。実務的には実データをひたすら観察し、相関を取ったりパターンを読み取る必要があります (または直感) 。しかしその観測点の設定には、このような整理が役に立つと個人的には考えています。

何より正解がよくわからない中でこうやって模索できる遊び場であることが今のクリプトの醍醐味だなととても感じます。みんな、一緒に遊ぼう!

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