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かささぎ と うずら


 あるところに かささぎ と うずらがおりました。
 かささぎくんは 背がとっても高くて とっても長い長い
あしをしていて、つんとたった髪型などしていましたから 
うずらくんは、かささぎくんを おしゃれで、かっこいいなあ 
と思っていました。

 一方、かささぎくんは とっても働きもので、
気だてがよく親切で 頭のいいうずらくんを 
たいへん尊敬していました。

 ふたりは 大のなかよしでした。

 ある日、学校がえりに うずらくんは、今自分が かささぎくんと 
楽しくおしゃべりなどして、いっしょに並んで 帰っていることが、
ふしぎに 思われました。
 というのも、二日前 かささぎくんと うずらくんは 
めずらしく、ひどい けんかをしたからでした。
ただ、どうやって仲直りをしたのか、うずらくんは 
すっかり忘れてしまって、思い出せなかったのです。

 すると となりのかささぎくんが、うずらくんに いいました。
「ねえ、うずらくん ぼくたちは この間、どうしてあんな 
ひどいけんかを してしまったのだっけねえ。」
 うずらくんは とても びっくりしました。
だって、うずらくんも 同じように この間のけんかのことを 
考えていたのですから。

 そして、うずらくんは とても感動して いいました。
「かささぎくん、ぼくもちょうど けんかのことを 
思い出していたところ だったんだよ。」
「ほんとうかい。それはびっくりだよ。
ふたりで、同じことを考えていたなんて。」
と かささぎくんも 感動していいました。

「これは ぼくたちのなかよしが とびっきりだ、っていう証拠だね。」
「そうだね、そうだね。とびっきりだよ。」

というふうに、ふたりは ますますなかよくなって 
肩をくんで 歩きました。

 そうして、ちょうど わかれ道にさしかかったところで、
うずらくんは けんかの原因を とつぜん思い出したのです。
そして、かささぎくんに いいました。
「かささぎくん、思い出したよ。けんかになった原因は、
きみが ぼくに げんこつしたせいでは なかったかい。」
 かささぎくんは しばらく考えていましたが、こういいました。
「ああ、そうだっけかあ。おお そうだっけねえ。
それは わるいことしたね。」
かささぎくんは ペコンと 頭をさげて、あやまりました。

 すると、うずらくんは とうぜんのように
「それじゃあ、これで おあいこだね。」
そういって、かささぎくんの頭を コツンと げんこつしたのです。

 その後、かささぎくんの家は、道の右手に、
うずらくんの家は 道の左手の 方角にありましたから、
ふたりはそこで、
「それでは さようなら。」
「じゃあ、また あした。」
と 別れたのでした。

 ひとりになって、かささぎくんは 
何だか気持ちがわるい おもいでした。
おなかのあたりが くるくるして おちつかないのです。
 しばらく歩いて、ちょうど わかれ道から家まで 
半分のところに来て、急に思い出したのです。

 かささぎくんは たしかに うずらくんに げんこつをくれたのだけど、でもその前に、うずらくんが かささぎくんの 
お気に入りの長ズボンを 笑ったのです。
 そのことを思い出したとたん、
かささぎくんは どうしても うずらくんに いいたくて 
たまらなくなりましたから、急いで もと来た道を ひき返して 
うずらくんを 追いかけました。

 ちょうど わかれ道から うずらくんの家まで半分のところで、
かささぎくんは うずらくんに 追いついて、いいました。
「うずらくん。ぼくは たしかに きみにげんこつしたけど、
ぼくが げんこつする前に、きみが ぼくのズボンを 
笑ったんじゃないかい。」
 うずらくんも しばらく考えていましたが、こういいました。
「ああ、そうだっけか。おお、そうだっけね。それは わるかったよ。」
うずらくんも ペコンと頭をさげて あやまりました。

 それからすぐに かささぎくんは
「けんかの原因と さっきの分、これで おあいこだね。」
そういって、うずらくんの頭を コツン、コツンと 
二回げんこつしたのです。
 ふたりは 二度目のサヨナラをいって、また別れました。

 でも 今度は、うずらくんの 気分がわるくなってしまいました。
おなかが くるくる おちつかない上に、
頭もくるくる してきてしまったのです。
だって、二つも げんこつを もらってしまったのですから。

 そうして ふらふらと、うずらくんが 家の前まで来たとき、
急に思い出したのでした。
けんかの原因は、かささぎくんが うずらくんから
借りた消しゴムを なくしてしまったこどだ ということを。
 それを思い出したうずらくんは かささぎくんに 
そのことをいいたくて、いてもたっても いられなくなりましたから、
せっかく 家の前まで来たのに、わざわざひき返して 
かささぎくんを 追いかけました。

 うずらくんが かささぎくんに追いついたのは 
ちょうど かささぎくんの家の前でした。
うずらくんは いいました。
「かささぎくん。一番の原因は、きみが ぼくの消しゴムを 
なくしたことだったんじゃあないかい。」

 すると かささぎくんは 今度は、あやまることはしないで、
「フン」といって、
足で うずらくんに向かって 砂を かけたのです。
 おこった うずらくんは ほんとうだったら、
三回げんこつするつもりが、五回も六回もしてしまいましたから、
かささぎくんは 逆立った髪を もっと逆立てて 
プリプリして いいました。

「うずらくん、きみなんかとは 二度と口をきくものか。
もうぜっこうだ。」

そうして、パタンと ドアを閉めてしまい、それっきりでした。

 うずらくんは、くやしくて くやしくて なりません。
帰り道、思いつくかぎりの かささぎくんの わるぐちを 
大声でいってみましたが、おさまりませんでした。
 それから次に 野原の草を できるかぎり むしって、
空に投げてみましたか、だめでした。
それから次にしたことは 
目につく道ばたの石ころを すべて 蹴ってみたのです。
それは 少しだけ 効果があったようでした。
うずらくんの くやしさは、ちょっと心の痛い、さびしさに 変りました。

 うずらくんが「チェッ」と ポケットに手をいれてみると、
かささぎくんの 返してくれた うずらくんの消しゴムが ありました。
うずらくんが 思い出せなかった 仲直りの理由でした。

 かささぎくんが 放課後まで残って、探して 
返してくれたことを 思い出したのでした。
それから、逆上がりのできない うずらくんに いっしょうけんめい教えてくれて、逆上がりが できるように してくれたことや、
遠足のとき お弁当をわすれたうずらくんに、
のりまきを わけてくれたのも かささぎくんだったことなども 
思い出しました。

 家へ帰ると、うずらくんの やさしいお母さんは、
汗まみれの うずらくんを見て、
「まあ、ずいぶん 遊んだこと。」
と、うずらくんを おふろに入れて洗ってくれました。
 そして、用意してくれた夕食を なんとなく食べて、
なんとなく お母さんにおやすみのキスをして 
うずらくんは、なんとなく ベッドに入りました。

 まっ暗い部屋のなかで、目をあけていると、
ふと ある考えが うかびました。
「ぼくの お気にいりの消しゴム。あの新品の ラメ入り消しゴムを、
あした かささぎくんに あげよう。
ぼくには、かささぎくんが さがしてくれた 
この消しゴムがあるのだから」

 その考えは うずらくんを とても嬉しくさせましたから、
うずらくんは、安心して 眠ることができました。
枕の下には けんかと仲直りの理由の消しゴムと 
ラメ入り消しゴムを ならべて。

 翌朝 うずらくんはいつもより早く、家をでました。
早く かささぎくんに会いたくて、しかたなかったのです。
だいすきな 朝ごはんのお豆も、お代わりしなかったくらいです。
 うずらくんは かけあしで、いつもの待ち合わせ場所にむかいました。

 かささぎくんを 待っているあいだ中、うずらくんは 
そわそわ落ち着きません。
なんだかドキドキもしていました。
 ポケットの中の ラメ入り消しゴムが、なくなっていないかと 
何度もたしかめました。
消しゴムがちゃんとポケットの中にあるのが、わかると、
その度に かささぎくんは 
消しゴムを喜んでくれるだろうか?と 
また心配になるのでした。

 そこで うずらくんは、かささぎくんが おこっていたときに言う
「ごめんね」を 練習してみたり、
消しゴムのわたし方は どんなのがよいか、試してみたり、
そんなことを 何十回もくりかえしていたのです。
 そのうち、むこうから、かささぎくんが やってくるのが見えました。

 うずらくんは、突然、あっ、しまったと思いました。
かささぎくんに 会ったときの 笑顔の練習を しわすれていたのです。
でも、うずらくんの 不安は すぐになくなりました。

 かささぎくんは いつものように
「やあ、おはよう!」
と さわやかな あいさつをしてくれたのですから。

 うずらくんは とても嬉しくなり、天にものぼる気持ちでした。
実際、うずらくんが そら高くとべたら、
きっと どこまでも飛んでいたでしょう。

 そうして、かささぎくんは、昨日 読んだマンガが 
とてもおもしろかったことや、
おとうさんが転んで怪我をしたことなど、
おもしろおかしく、うずらくんに はなして聞かせてくれました。
 その間、うずらくんは、ポケットの消しゴムを 
ずっと、にぎりしめていました。

 心配はいつのまにか、消えています。
かささぎくんは、ぜったいに 喜んでくれるに、ちがいないのです。
だって、ふたりは、いつも通りの 大の仲良しなのですから。
すると、かささぎくんが ふと いいました。

「ねえ、うずらくん ぼくたちは昨日、どうしてけんかを 
してしまったのだっけねえ。」

                             おわり


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