むかしむかし あるところに
幼なじみの夏生とまひるの恋心を描いた
ベリー・ショート・ストーリー
< 人 物 >
木田 夏生 21 都会で働く若者
坂井 まひる21 夏生の幼馴染み
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○ 駅ホーム
田舎の小さな駅のホーム。春先の花々
が花壇にきれいに咲いている。
電車を待つ人がちらほら。
蝶が二羽舞っている。
まひるの声(21)「昔々あるところに、泣き虫の
小さな男の子がいました」
ホームに電車が着きドアが開く。
夏生の声(21)「昔々あるところに、寂しがりやで、
いじっぱりの女の子がいました」
人々が乗り込むと、二羽の蝶も乗る。
○ 電車内
電車静かに動き出す。
二羽の蝶が寄らず離れずに舞う。
まひるの声「男の子は、いつも女の子の後を
くっついては面倒をかけました」
山々や民家や田んぼなどの風景が、
次々と流れるように変る車窓の眺め。
二羽の蝶、つり革に停まっている。
夏生の声「女の子は、いつも独りぼっちだっ
たので、男の子は心配だったのでした」
一羽が飛び立つともう一羽も後を追う。
電車が駅に到着し二羽の蝶が出て行く。
○ 到着駅ホーム
二羽の蝶、改札に向かう。
まひるの声「男の子は大きくなると都会に行
ってしまい、女の子が手紙を出しても、い
つしか返事もくれなくなっていました」
○ 駅改札
まひるの声「女の子は男の子を大嫌い、と思
い、忘れることにしました」
一羽の蝶、勢い良く改札を抜ける。
夏生の声「まひる! おい待てよ」
もう一羽の蝶、前の蝶に追いつく。
○ 丘への道
二羽の蝶、上り坂を進む。
夏生の声「男の子は立派になりたいと思って
いました。立派になって女の子を喜ばせた
かったのです」
○丘の上
遠くに静かな海が広がっている丘。
夏生とまひる、丘に立っている。
海を見つめる二人。
まひる「勝手に立派になんかなるな!バカ!」
今にも泣き出しそうな、まひる。
夏生、まひるを見つめ、肩を抱く。
思い募って、夏生、ぎゅっとまひるを抱きしめる。
二つの影がひとつになり、
再び、二羽の蝶、海に向かって大きく
羽ばたいて消えてゆく。
(了)