決算数値から見る清水エスパルスの足取り(その8) -2020~2023年度(後編)-
今回は、前回に引続き2020~2023年度にフォーカスします。
2024年1月開催のイベント「エスパルスを絶対J1に戻そう」にて、主催者の一人であるIAIの石田社長から「鈴木健一郎会長によるチーム介入」という言葉が飛び出しました。
実は、この手の情報が私にも3年前から複数のルートから届いていました。それを石田社長が覚悟して公にしたので事実なのだろうと思います。
チーム介入は、監督人事、選手獲得、選手起用に及んでいると聞いています。それを匂わす新聞記事も実は幾つか出ていました。
▼スポーツ報知
https://hochi.news/articles/20221118-OHT1T51058.html?page=1
今までは決算数値を通して出来事との関係性を見つけて、その裏側を探っていたのですが、今回は裏側を先に知ってしまったわけです。つまり「解」を得た状態で、その「解」から出来事や決算数値との関わりを見るという逆のアプローチで推察していきたいと思います。
1 スポンサー収入の急伸の意味
(1)スポンサー料に関する仕組み
まず先に知っていただきたいパートナー契約に関する仕組みがあります。
エスパルスのパートナー(スポンサー)契約においては、契約額の多い順でトップ、オフィシャル、プレミアム、クラブパートナーと区分しています。
トップとオフィシャルの区分のパートナーには、ユニフォームにロゴを掲出する権利を与えている事は皆さん承知だと思います。これをパートナー契約上の「大型商材」と通称しているとのことです。
基本的には契約額の多い順に、胸(鈴与)、背中上部(IAI)、鎖骨(ITEC、Taica)、袖(JAL、PUMA)、背中腰部(S-TRUST)、パンツ表(Taica)、パンツ裏(駿河技研)と配置が決まっています。(例外で清水銀行、SSKフーズ、DyDoはユニの掲出をしていません。)
公式ホームページのパートナー企業の紹介ページでは、左上から右下へというように基本的には契約額の大小を配慮した配置となっており、前述のユニの配置順と連動していることが分かります。
▼公式ホームページ
https://www.s-pulse.co.jp/sponsors/partners#official_top_partners
契約額は言うまでもなく鈴与が最上位で2019年付近までは契約額は4~5億円だったと推察されます(この辺りのことは2016年度の回で説明)。
その次がIAIで約1億円です(イベントで石田社長の発言あり)。ITEC、Taicaなどがそれに次ぐ金額となっています。
ユニフォーム上とホームページ上の配置は、近年ほぼ変わっていません。
※2020~2022年度で新規契約したのは駿河技研(2022年)の1社です。スター精密は2023年の新規契約です。
(2)パートナー契約の区分金額
パートナー契約の区分ごとの契約金額帯は明らかではありませんが、以後の話のために推定しておきます。
まず、第1区分の「トップパートナー」を推定します。
鈴与が約5億円、IAIが約1億円で、その下にITECなど数社が属しています。つまり1億円以下の企業も含まれるものと思われ、そこから8,000万円くらいが下限かと推定しました。
次に、第4区分の「クラブパートナー」を推定します。
私と親交があるクラブパートナー企業の社長さんが約6百万円とおっしゃられていました。ホームページの配置を見ると上段近くに配置されています。これから推察して、1,000万円未満だと推定しました。
要するにこの区分は数百万円クラスのグルーブだと思います。(ただし、ホームページではロゴを掲載していないグルーブもあり、この企業さん方は100万円未満のクラスかもしれません。)
第1区分「トップ」と第4区分「クラブ」の金額帯を推定したので、そこから中間2区分のバランスを考えて以下のような金額帯と推定しました。あくまでも仮説でしかありませんが、当たらずとも遠からずだと思います。
(2)スポンサー収入の急伸を支えたもの
前回で説明したとおり、スポンサー収入がこの3年間で「約11億円」伸びています。
この額を達成するには、IAIのような1億円の大型新規契約でも11件必要です。しかし、この3年間の大型商材契約は駿河技研だけです。
そもそも、「大型商材=ユニフォームのロゴ掲出枠」が埋まっているので、トップ、オフィシャルパートナーを増やすというのは難しく、新たな商材を探さないとなりません。その良い例がスター精密のゴールキーパーユニの胸ロゴ(2024年開始)なのです。
このように、2020〜2022年度で新規のトップ、オフィシャルのスポンサー料で11億円の増を積み上げたわけではないことは明白ですし、この2区分での増額契約でも「表面的」には無理だというのは分かっていただけると思います。
ここで、この3年間で公表されているパートナー契約の新規・増額を集計してみました。
新規契約は63件あります。
大きなところではオフィシャル(駿河技研)、プレミアム(春日製紙)です。区分の最高額で仮に計算すると「1億3千万円」くらいになります。
次にクラブパートナーが52社です。
前述した私の親交のある社長さんの契約額が「約600万円」と言われていました。公式ホームページ上において、それより上位に掲載されている企業は数社しかいませんので、52社の多くは600万円より少額で契約しているはずです。仮に平均500万円で計算とすると「2億6千万円」になります。
以上、新規契約のトータルで「約4億円」になります。
増額契約は、なかなか読みづらいところがあります。
トップパートナーの増額1件はTaicaです。増額ではありますがIAIとITECの次の位置で追い抜かしてはいません。これからして1~2,000万円くらいの増額かと思います。
オフィシャル(S-TRUST2回)、プレミアム(春日製紙)の増額も1,000万円レベルかと推定しました。
クラブパートナーは契約上限が1,000万円のレベルなので、増額幅としては100万円くらいでしょうか。65社平均150万円と見積もって「約1億円」です。
以上、増額契約トータルで「1億5千万円」と推定しました。
これらからすると、この3年間のリリースされた新規・増額案件では5~6億円。誤差を多く見積もると7~8億円。少なく見積もると3~4億円かもしれません。いずれにしても、リリースされている契約だけでは11億円には達していないと思われます。
誤差の範囲は大きいのですが、この差額の3~8億円を鈴与グループで増額拠出している可能性を強く感じます。
過去に鈴与が増額したときにもリリースはされていません。また、他の企業さんとは契約額で大きく引き離しており、ユニの胸スポンサーの位置を明け渡すこともないので、金額の変化が目に見えません。
つまり、表面的には分からない「ステルス」な増額契約があり得るのです。
このスポンサー収入急伸の陰には鈴与からの「億単位」の増額があったと推察します。従前が5億円程度でしたので、増額後で8億~13億円になることになります。
他のパートナーは、億単位の新規・増額契約はないので、エスパルスの中では突出した増額であるのは違いありません。
(3)増額契約の背景
鈴与がスポンサー料を増額したのは、まず2020年度でクラモフスキー体制で躓いたことから始まっていると思われます。
そこで、2021年度にあった権田らの大型補強で強化を図ったと思います。その人件費を支えるためにスポンサー料を増額したと思われます。
2022年度もチームが低迷して、リカルド監督らのユニットをブラジルのシーズン中にも関わらず契約解除させて連れて来ています。更にピカチュウ、北川も移籍金を払っての獲得、乾も獲得したので、億単位の資金が投じられたとメディアで書かれていましたが、それを支えたのも鈴与マネーだったと思います。
億単位の増額をできたのも、コロナ禍にあっても鈴与グループが増収増益となったことも背景にあると思います。
会長自分が強く関与・介入して進めたチームづくりが次々と座礁したので、挽回するために、これらの財政的措置をせざるを得なかったと思われます。
「チーム介入」というキーワードを得ると、このスポンサー収入の急伸もチームの低迷も、その他の出来事もなとなく腑に落ちます。
2 執行体制
下表がエスパルスの執行体制です。
代表権のある取締役が健一郎会長と山室社長です。ですが、会長はエスパルスの実質的な大株主です。取締役社長が普通であれば会社のトップですが、エスパルスにはその上の存在がある形態になっています。
株主でもない山室社長は雇われ社長という身分です。GMも同じです。
杉山管理本部長を除くと、他の3名は株主である会社の方です。この構成からして、大株主である会長がチームに強く関与したとなると、社長もGMもほぼ実権がなかった可能性を感じます。
本来は大熊GMがチーム統括責任者です。チーム人件費を大きく投じ続けても降格したのだから、責任を問われてもおかしくない。一番多くの資金を投じている鈴与からすれば許し難いことだったはずが、2023年度も続投させています。
石田社長が「社長もGM,も会長の掌で動いているだけ」との発言がありましたが、大熊GMは会長の意向を実現するため、自身の人脈等を使って選手や監督を連れてきたというのが実態であったかなと思います。
山室社長は、サッカーの素人であるので、チーム運営には関与しないと自身で発言しているように、稼いだお金をチームに投じることをモットーにしています。
そのことからも財政・営業などの分野に専念させられていて、チームへの関与はほぼ無いと思われます。その分、得意分野では能力を発揮していると思います。それは次に述べます。
3 山室社長の貢献度
リアル半沢直樹と称されている山室社長ですが、サポーターの中では社長の手腕でお金を沢山稼いでいると思われているようです。しかし、そうではないと私は推察しています。
この3年間のスポンサー料の急伸の大黒柱は鈴与のはずです。新規・増額案件が約130件あったので、営業部の努力は素晴らしいと思います。
しかし、このうち44件は2020年度の契約ですので、山室体制以前から温めていた案件が成約したものだと思います。要するにこの営業力は左伴前社長時代に築かれていたものだと思います。
物販収入の面では相当努力しているのですが、前回説明したようにファナティックス社にマージンを取られ減益しています。
入場料収入は伸びているのでその点では貢献していますが、物販の減益と相殺されたようなかたちです。
つまり、財政的な貢献度というのは大きくはないと私は見ています。
山室社長が重点的に注力したのはそこではないのです。それは、CS(顧客満足度)の向上、ライト層の取り込みなどに通ずるファン・エンゲージメントの分野です。
スタジアムにロッカーを整備したしたり、旧バスローターリーをスタグル広場に変更したり、スタグルで電子マネーが利用できるようにしたりと利便性や快適性を向上させています。
ラランジャ・ギャラクシアなど観客が楽しめるイベントや来場記念グッズの無料配布などで来場意欲を掻き立て、ライト層も興味を惹く施策も展開しています。
これらのことが相乗効果を出し、入場者数と入場料収入の伸長に繋がっているものと思います。これらは、千葉ロッテマリーンズでの山室社長の経験値がしっかりと生きていると思います。
ファナティック社に物販を委託したのも、グッズの企画・販売に要していた職員の労力・時間を開放し、CS向上やファン・エンゲージメント等の他施策に振り向けたと思います。そこには好循環が生まれていると感じます。
入場者数が増えるということは、パートナー企業への訴求力となりますので、その面では貢献しています。
こうして考えると、財政的には左伴前社長の時代に築いた基礎・基盤のうえに成り立っている。その上に山室社長の得意分野の施策が展開されていると思います。
4 まとめ
あくまでも前述のしてきたものは推察の範囲を超えません。
しかし、健一郎会長が就任してからのトップチーム人件費の伸長からすると、反比例する戦果となっています。
人件費だけなら、J1の湘南、京都よりも上回り、J2では圧倒的な額です。それらからして、やはり異常なことが起きているのは確かだと思います。
エスバルスの足取りを振り返って来ましたが、大きな流れとしては、
▶消滅危機にあったエスパルスを救ったのは鈴与
▶あまり積極的でない経営で財政的に弱体化し、J2降格
▶左伴前社長、小林監督らの手腕と鈴与等のパートナーの大きな支援で昇格
▶左伴改革で収益規模を40億円台に伸ばし、財政的な基礎を構築した
▶山室体制後、収益面では急伸したが、チームづくりは迷走してJ2降格
▶会長のチーム介入が明るみに出る
良くも悪くも、鈴与の影響を大きく受けているエスパルスの歴史だということでしょう。
シーズンイン直前にして楽しいお話ではないので、申し訳ない気持ちもあります。しかし、このような視点からもクラブを見守っていただければと願います。
執行体制や内部のことは置いておき、チームやクラブスタッフらは大変な努力をしているのはこの連載からも分かると思います。ですので、現場には熱い応援を続けていきたいと思います。
8回に亘る長い話にお付き合いいただき、大変ありがとうございました。
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