「ちょっと水だけ飲んでいい?」と言ったのにお茶を飲んだやつ
友人がうちに遊びにきていたときのこと。昼食を買いに3人でコンビニに行こうとしていたときに、そのうち一人が出かける前にこう言った。
「ちょっと水だけ飲んでいい?」
まあ、特に断る理由もないし、なんならこれほど仲でありながらきちんと断りを入れる律義さが彼と長年付き合えている理由なのかもしれないと感じた。
しかしである。私は彼がお茶を飲んでいるところを見てどうしても気になってしまった。
あくまで彼は水を飲むといっていたのであって、お茶ではなかった。もちろんその場には水道水を飲める環境があったし、彼は水道水を嫌うようなグルメではない。にもかかわらず彼はお茶を飲んだのである。
最初からお茶を飲みたかったのであればそう言ってくれればよかった。お茶だったら断ったかと言われればそんなことはあり得ない。
では、なぜ彼は敢えて「水」といったにも関わらずお茶を飲み、私たち2人をあざむくような真似をしたのだろうか。仮説は5つある。
発言時にはあくまで水を飲むつもりだったが、飲むまでの間に気が変わった。(気変わり説)
水分(ないし清涼飲料水)という意味で広義に「水」といったのであって、水そのものを指してはいなかった(解釈違い説)
見かけ上はお茶を飲んでいたが、実は葉で茶葉の成分をろ過していた(濾過説)
水とお茶の区別がついていなかった(アホ説)
実は生来からの大嘘つきだったのがこの時に露見した(嘘つき説)
1の気変わり説については、発言から飲むまでその間わずか10秒程度であったが気が変わった可能性は否定できない。
2の解釈違い説が最も有力であり、水分補給のように、飲み物=水分という表現は一般に広く用いられていることから、水分の分が省略されて飲み物=水という変化が彼の中におこっていたとしても驚きはない。
3のろ過説については、彼の口内を意識的に覗くようなことはしていないので確信は得られないが、そのような特殊な手術を受けたことがあるという話をきいたこともないし、特技として披露されたこともないため、彼にろ過機能はなかっただろう。
4のアホ説は今までの交友関係を踏まえれば、ほとんどありえないと考えていい。世の中的に言えば知的な方に属する彼に水とお茶の区別がついていないとは考えにくい。
5の嘘つき説も可能性は低いだろう。長年の付き合いがあるにも関わらずこれまで嘘つきであることが露見していなかったのに、このような日常のつまらない場面でばれるようなことがあるだろうか。いいや、逆に長年の信頼がある関係性で何気ない発言をしたからこそ、緊張の糸が緩んでほころびを生じたといえるかもしれない。
1~5の仮説のうち可能性が残ったを整理するとこうだ。
1:気が変わっただけかもしれない。
2:水=飲み物全般と捉えていたかもしれない。
5:大嘘つきがいよいよ露見したかもしれない。
そんなことを考えるつつコンビニで昼食を買って帰ってきた。
食べながらどうしても気になり、彼に先の水発言について問うた。
しかし返答は「そんなこと言ったっけ?どっちでもいいじゃん」だった。
まあどっちでもいいのか。
そう思う私の前で、彼はまた「水」を飲みながらパンを食べていた。