在宅医療は、人生のラップ療法だった〜生活の中でエンパワメントすること〜
傷ついたものが、自然に治ろうとする力を信じ、支えること。
目の前の困っている人をなんとかしたくて
初めはコントロールしてあげようと頑張ったけどうまくいかず
常識にとらわれず知識と経験からアイデアを出し、
そして信じ支えることにたどり着いた時に生まれた 褥瘡のラップ療法
その想いも、手法も、結果も、
在宅医療とシンクロしてました。
だから、15年前に出会った時から、ワクワクして来たのかもしれません。
病み、傷んだ人が、自分の力で回復しようとしているのを
コントロールしようとせず
ゆっくりとでも着実にその人のペースで回復しようとしているのを
良い距離感でそっと包み込むような
ラップのような在宅医を、これからも目指します。
写真は、2019年8月3日。軽井沢キッズケアラボスペシャル企画、私たちの滞在拠点で急遽開催していただいたラップ療法レクチャー。ケアラボTシャツでお話ししてくださる鳥谷部先生。
鳥谷部先生、本当にありがとうございました。
「なぜ、内科医である鳥谷部先生がここまで褥瘡にのめり込んだのですか?」
の答えが、近年稀に見るキレのある純粋さで、感動しました。
(すいません、ここでは記載しません。ぜひ鳥谷部先生にお会いしたときに聴いてみてください)
開放性ウェットドレッシング療法(ラップ療法)は
手術や薬をあまり使わない(使うこともあります)で、身体が治そう治ろうとしているのを引き出す(エンパワメントする)というアプローチから、褥創治療法として、「キュア」ではなく「ケア」を促すアプローチだともいわれています。
ただし、ここで気をつけないといけないのは、「ケア」=「あいまいで、優しい、寄り添い」ではない、ということです。
最終的に、優しさや寄り添うこと、不確実性に耐えることは必要ではありますが、その前に理論と技術が必要です。私たちは医療や介護の専門家なのですから。その専門性があるからこそ、患者さんに出会えたわけだしそこにいる意味があります。「家族」とは違うものがたり性を持って、その褥創に出会ったのですから、安易に本人家族に寄り添うのではなく、
褥創を評価し、最善の治療法(ケア法)を選び、実践する方法を考え、多職種で共有し、低負担(本人にとっても(痛くない)、家族にとっても(やりやすい)、家計にとっても(安い)、医療介護職にとっても(手法や評価を共有しやすい、相談しやすい)な方法を十分検討する、ことが必要です。
また、時間軸を持って褥創を評価できる仕組みをチーム内(本人家族含む)につくる必要があります。
ここまでやって、実行して。
それから、寄り添うことにしましょう。大事なとこ、とばさないように。
以下は実際の褥瘡治療について
ラップ療法=開放性ウェットドレッシング療法
身体が治ろうとする液(浸出液)を出して治ろうとしているのをサポートする治療法です。
ガーゼで浸出液を吸い取ってしまう治療法ではなく、キズが液で潤ってる状態を維持します。
そのためにはいろんな方法があります。一番シンプルなのは「ラップ」。ラップは水分を吸収しないのでキズにラップをのせることでキズは潤ったままです。しかも、ラップは粘着性がないので、多すぎる浸出液は脇から漏れてくれます。「フィルムテープ剤」を使うと、キズの周囲の皮膚に粘着してしまうため、浸出液がテープ内に溜まってパンパンになってしまうので、「フィルムテープ剤(オプサイト、テガダーム)」は使いません。
脇から漏れた浸出液を吸い取るためにガーゼやパッドを使うのはありですね。あくまで、余分な水分をすいとるためであり、キズ自体は濡れていないとだめです。
「キュア」アプローチではなく「ケア」アプローチ
キズを治す、のではなく、キズが治るのを支える のです。
というわけで、
キズが治るスピードはキズが治ろうとするスピードに委ねる。
スピード重視なら「縫う」「不良肉芽を削り取る」などの治療法が考えられますが。
人間の身体はキズは治ろうとする方向に向かいますので、それを邪魔しないように支えます。
身体が治ろうとして出している液を吸い取ってしまわないようにガーゼは当てません。
自然と邪魔な不良肉芽は消退し、皮膚が再生していきます。
もうひとつのこの方法の利点は「痛くない」ことです。
ウェットドレッシング療法を行っているキズは痛みが極端に少ないです。
不良肉芽を切り取る→痛いです。
縫う→痛いです(実際は麻酔をしますが。麻酔の注射は痛いです)。
ゲーベンクリーム(殺菌作用あり、不良肉芽対策で使われるDrが多い?)→痛いです。
消毒(細菌だけでなく自分の組織も傷めます)→痛いです。
ごしごし消毒して、ゲーベン縫って、ガーゼを当てて・・・という処置をしている間、ずっと叫んでいた患者さんが、
水洗浄とラップ・・・に変えたらニコニコしているのを何度も経験します。
消毒のいらない理由は、またいずれ。これは外傷によるキズや火傷なども同じです。昔は保健室で消毒されましたよねぇ・・・
もちろん、圧迫の痛みや処置時の体交による痛みなどはありますので、除圧や体交の工夫など、マットやクッション、介護技術といった対応はますます重要ですね。
また、感染が起こると痛みが出ます。褥創周囲などの発赤や熱感、圧痛の発生は感染の徴候ですのでこれららは注意が必要です。
ただ、たとえ便が着いてしまうような場所の褥創であっても、浸出液がちゃんと出ているキズで、水道水で洗うのをきちんとしていれば、(強い感染予防の薬や消毒をしなくても)感染することは滅多にありません。