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制度は超えて、ニーズに愚直に 〜戸枝陽基さんの言葉〜

戸枝陽基さん、から学んだこと。もらった言葉。


来年の海があるかどうかより、来年の海を想う今を支えます。

2013年3月、愛媛松山で開催された、日本在宅医学会。

小児在宅医療を手探りで実践し始めた僕は、小児在宅医療の講演やシンポジウムがあれば、かたっぱしから参加していた。この時も、シンポジウム 「小児在宅医療の展望-医療 と福祉の協働による新しい コミュニティーの創造」に参加していた。

シンポジストとして登壇されている、戸枝陽基さんを初めて見た。

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とにかく、いまだに強烈に記憶していて、今でも僕を支え続けている言葉を聞いた。シンポジウムも終了間際。登壇者一人一人に「最後に一言、どうぞ」と振られた戸枝さんの言葉。

「例えば、余命半年の子どもと一緒に海に行った帰り、心から楽しかったその子が『楽しかったね!来年の夏も海に来ようね!』って叫んだ時に、病状や余命を知っている医師や看護師は、一瞬なんて答えようか迷うと思うんです。でも、僕ら福祉は。先に何があるかより、その時にその子が感じていることに寄り添います。『いいね!来年も必ず来ようね!そうだ!帰り道に来年使う浮き輪を買いに行っちゃおうか!?』って即答できます。来年の海があるかどうかより、来年の海を想う今を支えます。

こんな福祉チームと連携ができるなら、僕にも、小児在宅医療ができるかもしれない。

OrangeKids'CareLab.を勢いで立ち上げて、不安ながらも進んでいこうと決めた頃に出会ったこの言葉は、今も僕を支えてくれている。
そこに寄り添える仲間がいれば、自分は「医者」という病気と医療を専門にする立ち位置から子どもに関わることが許される、そんな感覚です。

出会った一人にちゃんと支援ができなければ、本当に困っていることも本当に必要なことにも気づけない

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その後、熊本地震で、熊本市でサポートを失った医療的ケア児を支援するチームに僕たちオレンジは参加。ここでは、戸枝さんが中心となってサポートシステムを構築していた。

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若くエネルギッシュな戸枝さん率いる“むそう”チームと
医療は便利な道具!を信念に初の被災地支援に入った
オレンジチーム

一緒に避難所を回っている時、ある体育館で、医療ケアが必要な子どもに出会った時、その子が何に困っているか、どういうサポートが要るかを確認するため、そして実際にサポートをするために、3人のスタッフにそこに残るよう指示を出す戸枝さん。
6人で回っている中、3人を1人の子どもに配置する感覚。その即決っぷりにぞわっと鳥肌が立ちながら、その意図を尋ねると

出会った一人にちゃんと支援ができなければ、本当に困っていることも本当に必要なことにも気づけない。この後5人いるかもしれないから20%のエネルギーだ、という支援ではなく、今この1人に100%を注ぐ気持ちを繋いでいく」
行政的なアプローチであれば、全数把握と平等という方法かもしれないが、僕らが行うべき現場の困りごとや支えどころに気づき実践するための支えには、このスピード感と実行力が必要なのだ、と学んだ。

復興ってのは、前よりも良くなることだからね。

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地元メンバーも含めてのミーティング。

復興ってのは、前よりも良くなることだからね。
と繰り返し話す戸枝さん。

戸枝さんたちと共に、僕たちは、医療的ケア児の拠点が、サービスが、サポートが、地震の前よりも多くなり、キッズが自由に遊べる熊本を目標に活動し、新規施設の立ち上げなど行った。

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立ち上げ支援に関わらせてもらった施設の開所式

制度は超えて、ニーズに愚直に

タイトルの言葉、「制度は超えて、ニーズに愚直に」も、戸枝さんが壇上から放った言葉。まさにオレンジもこのマインドを大切に活動しているため、心底納得できました。

制度は、過去のニーズに応えていった結果つくられたもの。今あるニーズを制度の中に押し込めようとすると必ず無理が出る、合わないところがある。一旦、制度からは離れて、現場のニーズにとことん向き合う。そうすることで制度の問題点も新しい解決策も見つかる。そして、制度にはない新しい方法で解決すれば、未来の新しい制度につながる。

戸枝さんの課題との向き合い方とスピード感は、いつだって僕たちの刺激と原動力になっています、ありがとうございます。


今回、戸枝さんから学んだこと、もらった言葉、そのとき思ったこととその後の自分の行動を“勝手に”振り返りまとめました。記憶や活動の中で、もらった言葉は意味を持ち変化していくため、正確に戸枝さんが話した言葉から乖離しているところもあるかもしれません、すいません。

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念願の戸枝さんの本拠地を見学に行った後
名古屋駅付近にて

「ビョウイン」のヒエラルキーを在宅にも持ち込む、進化出来ない医療者は、介護や保育の専門性に尊敬がないから、越えられないバカの壁があります

Facebookに「来年の海」の話を書いたら、戸枝さんからのコメントもらったので、転載。

先日。むそうの看護師が在宅の医療的ケア児の支援に行った時。

その家に来ている訪問看護師が、本人や兄弟の前で、「この子は、後どれだけ生きられるだろうねぇ」と言い放ったと。
本人だってわかっていると私は信じていると、母は泣いていたと。

僕達障害福祉に関わる者は、当事者から、全ての人に最期まで生きている限り意志と尊厳があることを前提に関われと徹底的に言われて育って来ました。

一方で哲学的な、ともすると神学的な世界を大切にするあまり、エビデンスベースの視点が弱いなぁと思います。

「ビョウイン」のヒエラルキーを在宅にも持ち込む、進化出来ない医療者は、介護や保育の専門性に尊敬がないから、越えられないバカの壁がありますが。

多くの在宅を選ぶ、まさに紅谷先生のような医療者は、障害福祉の世界が大切にして来たことに触れた時、病態だけでなく、暮らしや人生に寄り添うという意味を知るという、豊かな化学反応を起こすと思います。

そして、僕達は、医療者の学び続ける姿勢や起こっている事柄の原因を科学的に追求し、取り除こうとする真剣さに学んで進化する。

障害福祉の狭い世界を捨てて、医療的ケア児に寄り添ったのは、梶原厚子さんや、前田浩利先生から学ぶため。

そして、紅谷先生やオレンジの皆さんに出会い化学反応を起こすため。

その結果、在宅医療や福祉を進化させ、たくさんの命を豊かに育てるため。

本当にこの選択をしてよかったなぁと、しみじみ思います!

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