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環境利用打法の男と麻雀した話

※半分くらいフィクションです

始まり

照りつけるという表現が生ぬるく感じるほどの真夏の強い日差しの中、目的地までの電車の時間と約束の時間そして現在の時刻を頭の中の算盤に入れると3時間ほどの余裕がある事に気づいた。

幸い今いる駅は県内で最も大規模な栄えた駅なので猛暑を避け、涼む為の施設に困る事はない。 ファミレスや漫画喫茶など徒歩圏内でいくらでもある。

(まぁでもここだよな)考えてから雀荘の扉を開けるまで3分くらいだっただろうか。        勿論雀荘も徒歩圏内にいくらでもある。

出会い

扉を開けると少しくたびれたシャツを着たお爺さんのメンバーらしき人が2人と作業服を着た男が打っていた。

「初めてですか?」片方のお爺さんが手を止め尋ねてきた。                 「一年くらい前に一回来たような…来てないような…?」暑さのせいかなんとなく煮え切らない返事をしてしまったが、お爺さんは特に気にせず「じゃああちらで少しお待ちください」と卓に視線を戻しながら店の角のボロボロのソファーを手で示した。

ルール表で三人打ち、アガリ2飜、ツモ損なし、オープンは全開け…くらいまで読んだところでお爺さんに卓に案内された。           よろしくですと軽く挨拶するとお爺さんは軽く会釈を返しただけだったが、作業服の男はおう、よろしくなと気持ちの良い返事を返してきた。 

現場帰りなのか少し汚れた作業服にのっぺりとした帽子を被った男の姿は…

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こんな感じだった。             僕は男を心の中でガイアと呼ぶことにした。

ガイアとの麻雀

ガイアは比較的気さくな性格のようで、ほぼ新規の自分に対して、この店はよく来るのかとかこの辺だとどこで打ってるのかなど色々と話しかけてきた。                   麻雀中に人と話すことがあまり得意ではない自分はそうですねぇ…どうですかねぇ…みたいな曖昧な返事しか出来なかったが、ガイアはそれでも笑顔と喋りを欠かさなかった。

(これじゃあガイアというよりノムラだな…いやノムラでもないか)そんなことを考えながらしばらくはガイアとの麻雀を楽しく打った。

ガイアの怒り

その日は調子が良く座っていきなり4連勝を決めた僕は少し浮かれていた。          四戦を終え飛びラスを3回引いた後「ツイてるね」と言ってきた時のガイアの顔が全く笑っていないことに気づかないくらいには。        そして5戦目のオーラス事件が起きる。

5万点弱持った親番で迎えたオーラス      サンマなのでセーフティリードとは言い切れないが自分が親ということもあり放銃さえしなければトップのまま終われそうな局面である。    6巡目に1-4s待ちの聴牌が入る、場には一枚切れており高め4sならタンヤオがつくが1sでは役がつかない、立直するならオープンが必要な手であるダマにして4sツモの時だけアガるという手もあったが1sをイージーに切られることを嫌いオープン立直に踏み切った。             「開けます!1-4sです!」手牌を開け待ちを宣言してリー棒を出す。             麻雀というのは立直をかけたら暇なものでなんとなくガイアの方を見ると僕は目を疑った。 

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鬼のような顔からの、轟盲牌の如き絞るようなツモ動作、毎巡の強打、開けられた手牌を確認しての舌打ち…先程までの気さくなガイアの姿はそこにはなかった。

環境利用打法

変わり果てたガイアの姿を見て僕は激しく後悔した。                    あれほど気のいいガイアがこんな風になってしまう麻雀というゲームの恐ろしさに気づかず、来る好配牌を遠慮なく全てアガリ倒した自分の無遠慮さに対してである。             いっそ追いかけられて捲られてしまえば…そう思いながら山に手を伸ばすと現れたのは4sだった。

震える手で裏ドラをめくり「ツモです…6,000オールの一枚です…」と申告したがガイアは点棒を払わず「…爺さん1-4s手に何枚ある?」「んーと3枚かな」「リン牌引かれてるじゃねぇかよ!!」と叫び自分の手牌を右手で掴み卓に叩きつけた。  リン牌とかいう天牌でしか聞いたことがない用語にツッコむ余裕もなくただあたふたしながら「あの6,000オール… と言いかけると…

バシッ!!!!!!!!!!!

ガイアに点棒を投げられた。

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麻雀というのは心を折るゲームと誰かが言っていた気がする。

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相手の心を折るといっても色々方法はある。  有り余る手材料でアガリまくるのもいいだろうし相手の不意をつくような待ちで出アガリし続けるというのも手だろう。     

だがそんなこと出来ないほど手が入っていなかったらどうする?諦めるのか?

…違うッ!利用するのだッ!自分の手にあるものは手牌でも点棒でもどんな風にでもッ!     普段はゲームの道具に過ぎない点棒や牌も人間の力が加われば…

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つまりそれこそが…

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環境利用打法なのだッッッッッッ!!!!!


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終わり

環境利用打法を使われた僕は点棒でこそガイアに勝っているものの心情的には

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こんな感じである。             正直一刻も早く卓を抜けたいがそれがガイアの逆鱗に触れる可能性は大いにある。       あと3回…あと3半荘でやめよう…そう決めてお爺さんにその旨を告げる。           そして始まるラスト3半荘…




ガイアは3ラスを引いた

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