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2023日本ダービー血統評論

サラブレッドの血統というのは全てダービーから始まる!故にダービーを考える上で血統は非常に重要なポイントなのだ。今回はダービーで注目すべき血統について評論してみた。競馬予想だけでなく、POG選びにも繋がる内容となっているので、参考にしていただければ幸いである。


ダービーと血統

ことダービーにおいて、種牡馬、すなわち血統とは重要なファクターとなる。過去10年の日本ダービーではディープ産駒が6頭、ハーツ産駒が2頭、キンカメ産駒が2頭。10年でダービーサイアーになったのはたった3頭。しかもキンカメ産駒の1頭、レイデオロはディープインパクトと同牝系だ。そう、ダービーを勝てる血統というのは確かに存在するのである。何せ血統の根幹はダービーにあるのだ。基本的に、大半のブリーダーはダービーを目指す(特にノーザン)。ダービー馬はダービー馬から、という言葉すらある。自分的には、ダービー馬はダービーサイアーから、と言う方がより正確な表現だと思うが。
日本なら東京2400mを、アメリカならチャーチルダウンズ1マイルと1/4を、イギリスならエプソム12ハロン6ヤードを見据えて配合すると言うのが馬産の常なのだ。

サンデーサイレンスとディープインパクト

 近代競馬の血統を語るなら、やはりこの二頭に触れないと、何も始まらない。サンデーサイレンスは6頭、ディープインパクトは7頭の日本ダービー馬を送り出してきた。この父と子には同じ舞台での強さがあったが、その産駒の血統はかなり異なる。

彼らについて語る前に、日本ダービーの条件についておさらいしておこう。

東京競馬場(芝)高低断面図 ※JRA公式サイトより


東京芝2400では、スタートから向正面1000mラインをやや過ぎたあたりまでゆったりとした下り坂が続く。向正面半ばで2mの坂を一気に上り、3コーナーにかけて下っていく。400~300m地点の2mの登り坂でスタミナの足りない馬をふるい落とす。最終直線は525.9m。

まとめると、スタート直後に下るため、スピードに乗りやすく、高速決着になりやすいコース設計ながら、2度の坂越えと距離もあり、スピードとスタミナ、両方が高い水準で必要とされる条件である、ということ。
以上を踏まえて、二頭の種牡馬に注目してみよう。
 サンデーのダービー馬は母父を見ると、トニービン、Kris、Alzaoと欧州の名種牡馬の名前が並ぶ。
しかしディープ産駒のダービー馬は対照的にUnbridled's song、フレンチデピュティ、Storm Catとアメリカのカッチリとした血が揃っている。コントレイルなんて、Unbridled's songにTiznowにStorm Cat。二郎系ラーメンくらいコッテリしている。

 ここから言えるのは、サンデーが父のスピード母系のスタミナ、というスタンスであるのに対し、ディープは母父Alzao、もっと言えばウインドインハーヘアの影響が大きいのであろう、スタミナは十分なので緩さをアメリカの血で補うというスタンス。ちなみに、ディープインパクト産駒種牡馬のフィリーサイアーっぷりはアルザオとハーヘアの影響が少なくないのだが、これはまた別の話。
結論から言うと、ディープや日本土着の繁殖、欧州の種牡馬に、エッセンスでアメリカの血をひとつまみ。これがダービーの王道ということだ。
更にアメリカの血が入ると明確に仕上がりが早くなるため、3歳5月に開催される日本ダービーとの相性は抜群って訳だ。

サンデーサイレンスは日本の凱旋門賞信仰の結果重くなっていた血統に、自身の軽い血を与えてやることで日本にベストマッチした産駒を生み出した。
ディープは、サンデーの血が入っていながら、Alzaoらしさ(馬格の小ささ、重馬場への適性の高さ)が強かったため、アメリカ肌で軽さと馬格を与えてやることで日本の高速馬場に対応した。ディープの本質は欧州寄り。それをアメリカ血統で割ることで、ちょうどよく日本に合った馬が生まれるのだ。ディープからダート馬が出にくいのもその為である。

評・ 注目の2023ダービー出走種牡馬

長々とディープについて語ったのだけれども、今年のダービーは、2010年以来のディープインパクト産駒がいないダービーとなる。それどころか、ダービー馬を出した種牡馬さえ、ハーツクライ産駒が二頭いるだけ。
記念すべき第90回日本ダービーは、これからの日本競馬の血統を占う一戦となるだろう。 
 そこで、注目の種牡馬の特徴について、評論していこうと思う。

キタサンブラック

 今が旬の種牡馬。 社台SSの徳武雄三氏曰く、サンデーサイレンスらしさがあるとのこと。配合も、サンデーサイレンスにつけるような想定でやるのがよい、とも。現在、1、2人気がキタサン産駒。生産者だけでなく馬券ファンからの期待も高い。

ドゥラメンテ

2023日本ダービーに出走する種牡馬の中では唯一のダービー馬。2年連続で産駒が牝馬二冠を達成し、2400への適性は十分。1600以上なら大体どこでも行けるが、阪神がすこぶる良い。芝も行けるダートも行ける、米国肌も走る欧州肌も走る。素晴らしい種牡馬なだけに夭逝が惜しまれる。ほんのりフィリーサイアー。

ハーツクライ

言わずと知れた名サイアー。ダービーを目指す上でどのような肌を付けるべきかが分かっているというのは他馬より有利な点。馬体馬格がしっかりしているのでダートでもそれなりに産駒が走る。チャンピオンディスタンスでは自身、産駒ともに覚醒した時は無類の強さを誇る。ハーツコンチェルトは亡き父にタイトルをプレゼント出来るだろうか。

シルバーステート

GIどころか重賞タイトルも持たない中で種牡馬入り。そんな彼だが、初年度から重賞を勝ち、更には何だかんだ2年連続でダービーに産駒を送り込んでいる。名手福永祐一も絶賛したエンジンは本物だったのだろう。産駒の距離適性は、短い競走生活の中で彼が走っていた距離をイメージすると分かりやすいだろう。牝馬の方が距離が短い。あとディープ系の割に悪い馬場でよく走る。

デクラレーションオブウォー

 なんとなくダート馬っぽいけど一応イギリスの芝GIを勝っている。BCクラシックで3着になったこともあるが。生まれはアメリカ、育ちはアイルランド。産駒はフランス2000ギニーやBCジュベナイル、ベルモントダービー、果てはメルボルンカップと、国、馬場、距離を問わず活躍している。日本の産駒は芝ダ5:5といったところ。仕上がりが早いのも強み。

モーリス

父はスクリーンヒーロー、母方はメジロの牝馬やカーネギー、モガミと日本の古式ゆかしい名前が並ぶ。晩成傾向だが、サンデーサイレンスの3×4を作ってやると早い時期からもある程度走るようになる。日本だと1200~2000のイメージが強いが、豪での産駒Hitotsuは2400G1、豪ダービーを制覇。Hitotsuの母父リダウツチョイスはスプリント〜マイルの名種牡馬。モーリスから距離をこなす力を受け継いだとみて間違いないだろう。つまり、グラス最強!

サトノクラウン

マジで知ってる名前が全然いない化石血統。なんで2012年生まれの馬の血統表にプリンスキロの名前があるんだ。父マルジュは欧州3歳マイル頂上決戦、セントジェームズパレスSに勝利。英ダービーでの2着もある。父親の欧州マイルの重厚なスピードにミスワキ、マキャベリアンとミスプロ系なの中でも芝よりの血を足してやることでパワーを手に入れたことが、香港ヴァーズでの大金星、稍重の宝塚記念での勝利、不良馬場の天皇賞秋での強さに繋がった。薄め液として活躍して欲しい。産駒はミスプロ系で強めのクロスを作ってやるとダートや短距離寄りになる。クラシックを狙うなら、マンハッタンカフェ、ハーツクライなど欧州寄りながらサンデーの血を加えられる繁殖との配合が良さそうだ。

サトノダイヤモンド

ディープインパクト産駒種牡馬のうちの1頭。現役時はクラシック時の活躍が目立つ。名伯楽・池江泰寿師をして理想の馬体をしたサラブレッドと言わしめるほど馬体のバランスが優れている。産駒の傾向はアベレージが高く、芝の主要条件だけでなく、非根幹やダートもこなせる、と言った具合。恐らく長距離もいけるだろう。評価としてはジェネリックキズナといったところか。

ロードカナロア

世界のロードカナロア。日本競馬においてスプリントに限れば歴代最強と言っていい名馬。現役時の印象に違わず、スプリントからマイルが適性の産駒が多いが、母系がしっかりしているとアーモンドアイやサートゥルナーリアのように中距離以上もこなせる場合がある。

ハービンジャー

KGVI&QESを11馬身ぶっちぎって勝ち、GI一勝ながらバーイード、モンジューに並ぶレーティング135を獲得した。タフな条件で強いが、欧州志向の血統のせいかダートは苦手としている。牡馬のGI馬はペルシアンナイトとブラストワンピースを出しているが種牡馬入り出来なかった。ハービンジャー産駒にとって日本ダービーは試練の舞台だが、こなせるだろうか。

2023日本ダービー出走馬の血統

ここからが本編。ダービーの出走馬から向いてる奴を選出した。是非参考にしてくれよな

スキルヴィング   向いてる度★★★★★!

キタサンブラック産駒。ロジユニヴァース、ソングライン、ディアドラなどを排出した良牝系。シンボリクリスエス、アドマイヤベガ(サンデー×トニービン)と東京2400に非常に向いた血統。東京2400ならソールオリエンス以上かもしれない。サンデーサイレンスの3×4も嬉しいポイント。

ハーツコンチェルト 向いてる度★★★★☆

ハーツクライ×Unbridled's song という配合は、スワーヴリチャードと同じ。ハーツクライの黄金配合といえる。ハーツクライの強みは、トニービン由来の大箱での強さと馬体のスケール。逆に、弱みは小回りがあまり得意でないことと3歳ではまだ緩さがあるというところ。それを補完できるのがUnbridled's songに代表されるアメリカの血というわけだ。中でも、Unbridled's songは母父としてトーホウジャッカル、コントレイルを出すなど中長距離にも向いている。

ソールオリエンス  向いてる度★★★★☆

一番人気、無敗で皐月賞を制覇。父はキタサンブラック、母父はMotivator。兄弟にはドバイターフ2着のヴァンドギャルド。Motivatorは、モンジュー、サドラーの直系ながら軽いスピードを伝える種牡馬。母父が英国ダービー馬である為か、ダービー時のイクイノックスより完成度が高いように見える。ダービーとの相性は悪くないが、血統的には三冠の中では1番苦手な条件だろう。確勝とまでは言えない。日本競馬全体の話になるが、過去、サンデーの時代には母方欧州血統が有力だったが、サンデー産駒種牡馬、主にディープの時代には母方アメリカ系がトレンドとなった。そして最近ではバランスを取るように再び欧州系を取り入れる動きが見られる。ソールオリエンスは血統のトレンドの最先端を走っている馬といえるだろう。

タスティエーラ   向いてる度★★★☆☆

サトノクラウン×マンハッタンカフェ。サトノクラウンに欧州系のサンデーは多分クラシックに向く成功パターン。胴が長いのが良い。

ファントムシーフ  向いてる度★★★☆☆

ちょっと血統表を見て欲しい。Dansiliの実質2×2である。頭がおかしい。Dansiliをこの世に復活させようとしている。頭がおかしい。Dansiliは現役時はGIには届かなかったもののマイルで活躍。種牡馬としては大成功を収めた。母HasiliはDansiliの他にGI馬を5頭排出。つまりファントムシーフは世界的にも活力のある牝系の出でありしかも名繁殖の全姉妹クロスを持つのだ。ハービンジャーの中距離の土台に濃いクロスとメダグリアドーロの血が入ることでスピードを補っている。ちなみに今年のダービーでサンデーが入っていないのはこいつとトップナイフだけ。サンデーもキンカメも付け放題なので種牡馬になれるよう頑張って欲しい。

シャザーン     向いてる度★★★☆☆

母はクイーンズリング。距離持つカナロアの典型例と言っていい。クイーンズリングの母父AnabaaはDanzigらしいスプリンターだったが、母父になるとトレヴなど中距離以上で活躍する馬も排出した。産駒の距離適性が広いマンハッタンカフェからサンデーを貰っているのも良い

ノッキングポイント 向いてる度★★☆☆☆

モーリス産駒。母チェッキーノはオークスではシンハライトのクビ差の2着だった。当馬もチェッキーノに似た良い末脚を持っている。サウジアラビアRCでルメールが長い距離の方が良いと言っていたこと、エンジンがかかるのに時間がかかる所があるが長くいい足を使うので東京2400変わりはプラス。

ベラジオオペラ   向いてる度★★☆☆☆

先行力のあるカナロア産駒。適性としては2000前後。切れ味勝負になると厳しい。皐月賞では前が潰れるペースに付き合ってしまって直線でいっぱいいっぱいになってしまった。良馬場の東京はこの前の皐月賞よりは向いているだろう。ロードカナロア産駒だが母方はエアシャカールなど活躍馬を多く排出していること、距離を問題にしない柔軟で質の高いスピードを持つ種牡馬が多いこともあり2400も不可能では無いだろう。

競馬は続く、血も続く

2023年の日本ダービーを走る馬からまた、ダービーを走る馬がきっと出てくるだろう。今までも、これからも、血統はそうして紡がれる。血統はサラブレッドの設計図なのだ。遥か遠いエプソムの地から始まり、何十代にも及ぶ淘汰繁栄を経て、サラブレッドは今、走っている。生ける芸術品とも称されるサラブレッドたちに名馬たちの足取りが、人の執念が、形を持って繋がっている。だから、僕はサラブレッドを、競馬を愛さずにはいられない。

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