なんかモヤモヤするとかでも、頑張ったら世界をループさせたっていい「青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない」作:鴨志田一
前作「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」で、先輩の桜島麻衣に愛の告白をした高校生の主人公・梓川咲太。なんとなくイイ感じの仲になったものの、肝心の返事をもらっていないことに気づく。昼休みの食事中、咲太は麻衣を問い詰め、ようやく返事を引き出すことに成功する。
放課後になり、鼻歌気分で家へ帰り、寝て、起きた咲太は、世界が同じ日を繰り返していることに気づく。この繰り返しに、他の生徒や人間は気づいていないようだったが、唯一、咲太の後輩:古賀朋絵も気づいていることが分かる。そして、無意識的にだけど、古賀が能動的に世界を繰り返していることも。
彼女は、自分の友人関係を守るために、友人が好きな先輩から告白される度に、告白されてしまった日をなかったことにしていたのだ。そんな状況をその場しのぎの回避ではなく、打破するためにに、咲太は、"逃げ恥" さながらの偽装恋愛を始める。しかし、演技を重ねるうちに古賀は本当に咲太を好きになってしまい、二人の関係の最後の日を繰り返すようになってしまう。
こういう、チート性の能力を持ってしまった人が、その人にとっては超大事なんだけど、一見些細に思える悩みでその能力を行使するの、なんかいいよね。でも、単なる「しょうもない」悩みで終わらせずに、主人公がヒロインの背景を知り、共感していく過程が丁寧に描かれている。こういう説得力を持たせる、みたいなのって、ちゃんとその作者のプロットというか、そのあたりの気配りがないとダメなんだろうなぁ、と思った。
あと、物語のオチとして、告白して完璧に振られた古賀が、ちゃんと諦めて、咲太が麻衣さんと交際を始める前日まで戻してしまう、という結構すごいことをするのも好き。「一日前までは戻せると思ってたけど、そんな無茶もできるんかい!」と急な設定に突っ込んでしまいそうになる反面、そっちの方が結末としてオシャレだよなぁ、と、納得させられてしまう。
最後に、ちょっとしたことなんだけど、咲太が繰り返す世界を認識できるキッカケとなった出来事が、前作でさりげなく忍ばせているのもよかった。ちょっと強引な気もするんだけど、古賀のまっすぐさと、なんだかんだのイイ奴さが現れていたシーンだったし、個人的にはすごく好き。伏線はやっぱり、後々になって回収されるほどいいよなぁと思う。