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友達や恋人と観れば五倍楽しめる映画「ふれる。」監督:長井龍雪、脚本:岡田磨里
主人公の秋は小さい頃からコミュニケーションが苦手だ。自分の気持ちが伝えられなくてイライラすると、すぐに手が出てしまう結構気難しい奴だ。でも結構イケメンだしすげー身長が高い。たまに無意識に頭をぶつけて高身長アピするくらい背が高い。
そんな秋は、フレルという妖怪的で妖精的でハリネズミ的な小動物と出会う。黄色い毛並みを持っていて、ぬいぐるみ等のメディア展開を意識した可愛い容姿をしている。ちゃんとその性質は妖怪妖怪していて、こいつの放出する糸で人と繋がってしまうと、お互いの気持ちが何も喋らずとも手を触れ合うだけで伝わってしまう。
そのフレルの糸で繋がってしまった秋と諒と優太。お互いの気持ちが文字通り以心伝心するようになった彼らは、三人仲良く幼稚園から大人になるまでを、フレルとともに過ごす。三人とも大人になって、優太は大学に入学するため、諒と秋は職を探して上京し、住まいをシェアできる家に引っ越すところから物語が始まる。
幼稚園の頃から依然として、お互いに手を触れ合うことで楽にコミュニケーションを取る三人。ただ、物語の後半で分かることなんだけど、意思を伝えるフレルの糸は、悪口といった揉め事に発展しそうな言葉を通さない、ある意味フィルターのような性質を持っていたのだ。その事実が発覚するまで、誰と付き合ったとか誰が好きとかお前のそういうところが嫌いとか、そんなセンシティブな話題がお互いに伝わることなく、話が拗れにこじれてしまう。
最終的には、それまでフレルの能力のおかげで喧嘩してこなかった分大いに揉め揉めして、対話して対話して、すげーいい感じに仲が深まって終わる。
フレルを介さなくても、「この本音を伝えたら揉めそうだからやめとこ。。。」と消極的になって、仲の良い友人や家族にさえも本心を伝えられなかった経験ってよくあるよなと思う。嘘も方便という諺があって、その嘘や本音を隠すことによって、友人の仲が潤滑に進むならありだよなと思う。ただ、そんなに消極的に対応してしまうことで、元々の問題が解決されずに持ち越されてしまうことってないか? という気持ちにさせられた。
ヒロイン的な子に、人の気持ちを察してしまう子:奈南がいる。それに加えて、自分の言葉で人を傷つけてしまうことが嫌いで、誰に対しても人当たりよく接してしまう。いわゆる『全陰キャに勘違いさせてしまう系キャラ』だ。そういうキャラをしっかりと定義して、アニメの中に登場していることって結構すごいことだと思う。そういう、人の気持ちを察してしまう分、傷つけたくなくて相手を色んな意味で勘違いさせてしまう子って、中学や高校のときに結構いた気がして、そういう系の解像度がすげー高くてびっくりした。その人なりの苦悩があったんだろうなぁと感じる。こっち側からすると、罪な女ということになってしまうのだけど。
奈南とその友人のやり取りの中で、本当の意味で相手との気持ちを通じ合わせることって不可能で、どれほど仲が良くても、相手の気持ちを想像して補間しながら、分かった気になって対話をするしかない、という話が登場する。本当にそうだよなと思う。だから勘違い野郎とかストーカー野郎が現れてしまうのだ。ただでさえ相手の気持ちが分からないのに、自分が伝えたいことって、自分と相手が持つ二重のフィルターを通して伝わるものだから、よくこんな滅茶苦茶な方法でコミュニケーションが取れたりしているなと思う。その難しさに対する意識って、仲が良い人ほど疎かにされがちで、だからこそ仲が良い人ほど、コミュニケーションの取り方が雑になってしまわないようにしないといけないなと感じた。
それに加えて、自分のことを想像しながら喋ってくれているだけでもありがたいと思わなきゃだし、「自分の気持ちがわかってくれない。。」と悲しむのは、なんで傲慢なわがままなのだろうと感じる。
YOASOBIの主題歌のサビで言っているように、相手の足りない情報は想像しして補間しているから、僕たちはほとんど異なる世界で生きていると言える。だから、その世界を少しでも縮めるために、相手の気持ちを理解する精度を高めたいと感じる。何事も経験だとは言うけれど、誰一人として同じ人はいない訳で、むしろ人と触れあえば触れあってしまうほど、新しい人と接したときに、「今まで会ったことのある、その人の雰囲気と似ている人」を重ねてしまって、その決めつけが、相手への理解に対するノイズになってしまう気がする。でも、「こういう人なんじゃね?⇛全然ちゃうかったわ。。」という経験をフィードバックするためには、やっぱり経験が物を言う訳で、やっぱり人と会って対話するのが一番なのかな、と思う。
そういう話を友達と喋れるので結構オススメです。
あと、物静かな主人公が饒舌に喋れる相手がいて、「なんであの子やったら自然と喋れたんやろ」と一緒に観た友人に振ったら「その子が先に自己開示したからじゃないかな」って言っててほんまやなと思った。あと、奈南が主人公を好きな理由が「イケメンで高身長だから」なのもいいなと思った。そういう身も蓋もない感じ、なんかいいよね。
全然話の本筋とは違うんだけど、あるキャラの声優さんの演技がちょっと拙くて最初は「おいおい、大丈夫か……?」と思ってた。後ろの方でずっとブチブチ喋っている迷惑お客さんもいて、色々な意味で静かに戦慄していた。ただ、その人の演技がめきめき上手くなってきてすげーって感じたし、推しの子二期のあのシーンを思い出して、全然話の本筋とは関係ないのになんだかグッときてしまった。戦いの中で成長している……。