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マンドローネのこと(小穴 雄一氏より寄稿)

マンドローネ Advent Calendar 2020、13日目の記事は、アンサンブル・アメデオより小穴 雄一氏に寄稿いただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。

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マンドローネのこと

自分は正式なるマンドローネ弾きではないが、マンドローネをこよなく愛している。その、深い音、どこか谷底から遠吠えのようにひびきわたる、その響きそのものが美しくまた愛らしい。

自分はローネ弾きではないのでマンドローネの音を遠くから聴くことができる。実際ローネの音は遠くから聴こえるのがいい。そういえば昔オルセー美術館の引越し展覧会を訪れたとき、天井までもあるような巨大な点描画が目に留まったことがある。近くでみると何を描いているの皆目見当もつかない、単なる点の連続でしかない。しかしながら20メートルほど離れて見ると、まばゆい光が差し込んでくる鬱蒼とした庭が一面に広がっていたのであった。この画家はいったいどうやってこの絵を描いたのであろうか?長い棒の先に筆を括りつけたのであろうか?いまだにどうやって描いたのかわからない。それとローネとどういう関係があるのだろう?おそらく何の関係もない。ただ、遠くで聴こえる音の心地よさをどうやって引き出すのか?ひょっとしたら何か通じるものがあるかもしれない。大きな絵を感じながら仕込むのである。それこそローネ奏者の至芸の極意かもしれない。

ところで、ローネの良さといえば、やはりブンであろう。ここぞというところでブンとやる。これが絶妙のタイミングで最適に放たれたとき、恍惚となる。このブンはローネでしか表せないものだ。ずっと休んでいてブンとやることもある。しかしそのブンのパワーは甚大なものだ。その一発の威力たるや、計り知れない。ローネ弾きはみなそこにやりがいを感じているに違いない。その深い音、たかがブンに過ぎないされどブンなのである。昔ローネでチャイコフスキーの白鳥の湖にローネで出演したことがあった。数少ないローネ演奏の機会のひとつである。そのときは前奏曲を弾き終わったところでブンを炸裂したところがなんと1曲目にして慢心壮麗のエネルギーを使い果たしダウンしてしまった。再起不能状態に陥った。そんなこともある。撃沈というやつだ。しかしそこで放ったブンはおそらく会場になり渡ったことに違いない。その手応えは感じとることができた。あぁ、やはりローネはブンである。ベルッテイというジェットコースターのように上がったり下がったりする作曲家がいるが、黄昏前奏曲という作品を弾いたときもこのブンがモノを言った。ピックで弦を擦ってもブンは鳴らない。弦でピックを放つように弾かないブンは薄っぺらい音になる。最近は弦でピックを弾く奏法に夢中になっている。ピックで弾くのではなく、ピックと弦の双方でジャストミートさせる。そうすれば最適な音が舞い上がるのである!

ローネのメリットは4度調弦という点。これで機動力が高まる。素早い動きも可能となるのである。もう一つはなんといっても響きが持続すること。トレモロなど施すときに、犯してはならないというのは響きを止めてしまうこと。だからトレモロは相当トロトロになる。とろりトロリー奏法である。響きを紡ぐようにやる。これは糸で布を縫うようでもあるからソーイング奏法ともいうべきであろう。

ローネパートは大概オーケストラの最後列にいる。その上に低周波なので音の立ち上がりというのが埋もれてしまうというリスクがある。そこでオケとしてど真ん中から底上げするように、その芯となるところからググッと音を押し上げなければない。オケの音が立ち上がるときに下に潜り込んで、そこから底力を発揮する。そうするとオケの響きがゆるぎなきものとなるのである。やはりローネは、底力なのである。

今年実現した8人のローネによる合奏はまさに夢のようなことだった。やはりマンドリンオケにとってローネは8人が最適ということが明らかとなった。

夢を見続けることができるといいのだが。コロナが駆逐された暁にはその日が再び訪れることを夢見続けよう。

2020年12月13日
小穴 雄一(マンドリン愛好家)

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小穴 雄一氏 プロフィール

1957年東京生まれ。5歳のときロンドンにてピアノをオックスフォード大学の教授Ms. Hedgesに師事。慶應義塾高等学校入学後はマンドリンクラブに入部。当時マンドリンクラブの顧問だった服部正氏の指導に圧倒され、全身に稲妻が走るのを覚え、すっかりマンドリン音楽の虜になった。以来マンドリンは人生の友、生涯の道楽。マンドリンを竹内郁子並びに田原靖彦の各氏に師事。指揮法を久保田孝氏に師事。大学卒業後、アマチュアの合奏団の指導をしつつ、作編曲を行っている。
主な作曲作品は「マンドリンアンサンブルのためのソナチネ」(1978年)、組曲「やさいのパーティおおさわぎ」(1989年)、「児童合唱とマンドリンオーケストラのためのマザーグースファンタジー」(1995年)など25作品。編曲作品は、クラシック453曲、ポピュラー425曲(2013年現在)。著書には「マンドリン教本」(1993年)ならびに「マンドリンヒット集」(1993年、絶版)(いずれもドレミ出版)がある。
アンサンブル・アメデオ 常任指揮兼編曲担当、レディース・マンドリンクラブ(LMC) 常任指揮、プレクトラム・ソサエティ 常任指揮、慶應義塾マンドリンクラブ三田会オーケストラ 音楽監督、他客演多数。

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