見出し画像

患者さんの心理的側面を理解する FIFE(かきかえ)

医療面接において、患者さんとの信頼関係を築くことは、適切な診断や治療計画を立てる上で欠かせません。医療面接の技術を学び実践するには、具体的なフレームワークが役立ちます。今回は、医療者が覚えやすく使いやすい「FIFE(かきかえ)」のアプローチをご紹介します。最後には、これらを活用した実際の会話の実践例もあります。ぜひ参考にしてください。



FIFE(かきかえ)とは

FIFE(かきかえ)はOPQRSTやSAMPLEの様に問診項目の頭文字です。
患者さんの心理的側面を探るためのフレームワークです。

  • Feelings: 感情

  • Ideas: 考え・解釈

  • Function: 生活機能への影響

  • Expectations: 期待

質問はオープンエンドクエスチョン(自由に答えられる形式)を意識して、患者さんが話しやすい雰囲気を作ることが大切ですが、FIFEの項目は具体的に問診しなければ得られない情報である場合があります。ラポールを形成する一歩として、聞いてみましょう。

FIFE(かきかえ)を聞くメリット

  • 患者の心理的・社会的な問題を早期に把握できる。

  • 患者との信頼関係が深まり、治療方針への満足度が向上する。

  • 治療の個別性が高まり、より良い治療結果につながる。

FIFE(かきかえ)の各項目の説明

FIFEのそれぞれの頭文字を入れ替えると「かきかえ」となります。覚えやすい方を使ってください。

  • : 感情

  • : 期待

  • : 考え・解釈

  • : 生活機能への影響

Feelings(か): 感情

患者さんが抱いている感情を理解することを目的としています。
病気や症状に対して、患者さんは恐怖、不安、怒り、悲しみ、あるいは無力感などさまざまな感情を抱いている可能性があります。これらを医療者側から尋ねることで、患者さんの心理的な苦痛や不安を緩和する助けとなることがあります。患者の感情に寄り添うことで、安心感信頼感を生み出し、ラポール形成に繋がります。

「この症状について、どのように感じていますか?」
「何かご不安なことはありますか?」
「これまでの経過で、一番つらかったことは何ですか?」

Ideas(か): 考え・解釈

患者さんが病気や症状についてどのように考えているかを把握することを目的としています。解釈モデルを聞くこととも言えます。
患者さんは独自の仮説や信念を持っていることがあり、ご自身で症状や病気について調べていることもあります。患者さんの考えを理解することで医療者と患者さんの認識のギャップを埋めることができます。そうすることで、効果的な説明や治療方針の共有に繋がります。

「ご自身では、どうしてこの症状が起きたと思われますか?」
「この病気について、何か特別に思うことはありますか?」
「これまでにどんな情報を得て、この病気について考えられましたか?」

Function(え): 生活機能への影響

病気や症状が患者さんの生活にどのような影響を与えているかを探ることを目的としています。
病気が日常生活、仕事、家族関係、趣味などに及ぼす影響は患者さんにとって非常に重要な関心事です。症状の社会的影響を把握することで、治療の優先順位や患者さんのニーズを正確に理解することができます。
具体的に患者さんの日常生活を聞くためには、日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)を参考にするとよいです。

「この症状のせいで、普段の生活で困っていることはありますか?」
「仕事や家事、趣味などに影響はありますか?」
「お風呂に入れていますか?浴槽には入っていますか?」

Expectations(き): 期待

患者さんが医療に対して何を期待しているのかを確認することを目的としています。
患者さんは治療に関して具体的な期待や希望を抱いている場合があります。これらを明らかにすることで、治療方針が患者さんの希望に沿ったものとなり、治療への満足度が向上します。患者さんの期待を確認することで、治療のゴールを明確にし、患者さんとの信頼関係を築くことができます。

「この症状について、どのような治療を期待されていますか?」
「今回の診察で何を知りたい、あるいは解決したいとお考えですか?」
「治療をすることで、どのような状態になることを考えていらっしゃいますか?」

FIFEを実践するポイント

  1. 患者中心の視点を持つ
    医療者の視点ではなく、患者さんの視点に立つことで、患者さんの背景や価値観に寄り添ったケアが可能になります。

  2. オープンな質問をする
    「はい」か「いいえ」で答えられる質問ではなく、自由に話してもらえるような質問を心がけます。

  3. 患者さんの話を傾聴する
    患者さんの感情や考えを否定せず、相づちや視線などでしっかり話を聞いている姿勢を示します。

  4. 共感を示す
    患者さんの不安や考えに共感を示し、安心感を与えることが重要です。

実践例

FIFE(かきかえ)の項目を聴取する例を見てみましょう。医療面接の一部として、OPQRST法など診断に迫る問診ではなく、患者さんの症状に寄り添った会話例を提示します。

ケース1: 40代の男性、腰痛を主訴に受診

医師:「今日は腰の痛みで来られたんですね。つらそうですね、どのくらい続いていますか?」(共感を示す)
患者:「2週間くらいです。特に座っているときがきついです。」
医師:「2週間も続いていると、しんどいですよね。座っているときが一番痛いんですね。」(復唱し共感を示す)
患者:「はい、特に仕事中がつらいです。」
医師:「それは大変ですね。仕事に支障が出ると、気持ちの面でも負担が大きいですよね。」(共感を示しつつ)
「この痛みについて、どんなお気持ちですか?」(感情(Feelings(か))を引き出す)
患者:「正直、不安です。このまま治らなかったらどうしようって思います。」
医師:「そうですよね、不安になりますよね。原因が分からないまま痛みが続くと、誰でも心配になりますよね。」(患者の感情に寄り添い)
「ご自身では、どうしてこの痛みが起きたと思いますか?」(考え・解釈(Ideas(か))を引き出す)
患者:「重い荷物を持ったときに腰に違和感があったので、そのせいかなと思います。でも、こんなに続くとは思っていなくて…。」
医師:「重い荷物を持ったときに、腰に負担がかかったのかもしれませんね。」(患者の考えを肯定)
「この痛みのせいで、普段の生活で困っていることはありますか?(生活機能への影響(Functions(え))を引き出す)
患者:「仕事中に長く座っていられないので、作業が進まなくて困っています。それに、休みの日もゆっくりできなくて…。」
医師:「お仕事も大事ですし、休みの日くらいはゆっくりしたいですよね。それができないのは、本当に大変だと思います。」(患者の困りごとに理解を示し)
治療に関して、どのようなことを期待されていますか?」(期待(Expectations(き))を引き出す)
患者:「とにかく痛みをなくして、普通に働けるようになりたいです。あと、またこうなるのが怖いので、予防法も知りたいです。」
医師:「なるほど、痛みをしっかり治すのはもちろん、再発防止の方法も知りたいということですね。お話を聞いて、これからの治療方針が明確になってきました。一緒に解決していきましょう。」(復唱し共感を示す。共通基盤を作成する)


このように、患者さんの感情や困りごとを聞きながら、共感や理解を示す姿勢を持つことで、患者さんとの信頼関係を深めることができます。


ケース2: 63歳の女性、健診で高血圧を指摘され受診


医師:「検診で血圧が高いと言われたんですね。ご自分ではその後、何か気になる症状などありましたか?」
患者: 「特に症状はないんです。でも、『高血圧』って聞くと怖い気がして…。」(感情(Feelings(か))の表出)
医師:「そうですよね、症状がなくても『高血圧』と言われると不安になりますよね。」
(共感を示しつつ、不安な気持ちを確認する)
どんなところが特に怖いなと思いますか?(考え・解釈(Ideas(か))を引き出す)
患者:「やっぱり、脳卒中とか心臓の病気につながるって聞くと心配になります。でも、薬を飲みたくはないんです。」
医師:「そうなんですね。高血圧が続くと脳卒中や心臓病のリスクが高まることは確かにあります。それを心配されているのですね。」
(患者の不安を受け止める)
「でも薬には抵抗があるんですね。どうしてそう思われますか?(考え・解釈(Ideas(か))を引き出す)
患者:
「薬を飲むと、一度飲み始めたらずっとやめられないって聞いたので…。あと、副作用も怖いです。」
医師:「なるほど、一度始めたらやめられないと思うと、少し身構えてしまいますよね。それに、副作用のことも気になるのですね。」
(患者の考えを尊重して、次の質問につなげる)
「薬を飲むとした場合は、生活がどのように変わりますか?何が大変だと思われますか?」(生活機能への影響(Functions(え))を引き出す)
患者: 「毎朝飲まないと行けないんですよね?朝は早く出ないと行けないので、飲むタイミングが無いかもしれません。」
医師: 「そうですか。飲み続ける習慣を作るのは大変なことですよね。」(共感を示す)
「たとえば、薬を飲まない場合には、どんな方法なら試してみたいと思いますか?」(期待(Expectations(き))を引き出す)
患者:「そうですね、できれば食事とか運動で何とかしたいです。でも、具体的にどうすればいいか分からなくて…。」
医師:「食事や運動なら取り組めそうだと感じているんですね。それは良いアプローチですし、実際に効果が期待できる方法もありますよ。」
(患者の意向を肯定しつつ提案の準備をする)
「例えば、減塩を意識したり、軽い運動を取り入れたりすることで、血圧を改善できる場合があります。それに、薬が絶対必要かどうかは、もう少し経過を見て判断することもできますよ。」
患者:「そうなんですね。少しならできるかもしれません。でも、本当にそれだけで大丈夫なんでしょうか?」
医師:「良い質問ですね。薬を使わずに生活習慣を改善して血圧が下がるケースは実際にあります。ただ、数値によっては薬も必要になることがあります。そのときは、なるべく負担の少ない方法を一緒に考えましょう。」
(患者の疑問を受け止めて説明を加える)
「まずは、生活習慣を見直して、それでどのくらい血圧が下がるかを一緒に確認してみませんか?」
患者:「それなら試してみようかな。少しずつ取り組むならできそうです。」医師:「素晴らしいですね!無理なく続けられる方法を一緒に考えていきましょう。気になることや不安があれば、いつでもご相談ください。」


この会話例では、患者さんの薬に対する抵抗感を尊重し、生活習慣の改善という代替案を共に考える姿勢を示しました。患者さんが主体的に治療に取り組めるよう、共感しつつ提案を行うことが大切です。


いいなと思ったら応援しよう!