発作の鑑別 VAPES
発作性の疾患は、診断が難しい状況の一つです。発作が収まった後に症状・所見が残っておらず、患者さんのお話から推定するしかないこともあります。
幸い、発作を起こす病態は限られています。症状の内容に関わらず、発作というだけで考えるべき鑑別診断を絞ることができます。
発作性の疾患を網羅的に考える方法としてVAPESをご紹介します。
VINDICATE+Pと同様に、病態を網羅的に整理するためのアプローチです。
VAPESとは?
発作の病態を挙げるための略語です。
V (Vascular) : 血管
(例 : 一過性脳虚血発作 (TIA), 不整脈, 狭心症)A (Allergy) : アレルギー
(例 : アナフィラキシー, 蕁麻疹, 気管支喘息)P (Panic) : パニック発作
E (Endocrine) : 代謝内分泌性
(例 : 低血糖, 周期性四肢麻痺, 褐色細胞腫)S (Seizure) : てんかん
睡眠時無呼吸症, ナルコレプシーの睡眠発作を含めても良いです (Sleep)
一般的な教科書では「発作」という症状の特徴でまとめられることは少ないです。「循環器疾患」, 「アレルギー性疾患」などの病態や、「胸痛」, 「呼吸困難」などの症候で分類されることが多いです。
「発作」でまとめられたVAPESをおぼえておくと、通常は思い浮かびにくい鑑別診断を挙げられるようになるかもしれません。
救急外来で出会うけいれん発作は、Seizure (てんかん) を想定しがちですが、TIAや低血糖の可能性は?
精神科外来の発作の訴えは、Panic (パニック発作) を考えがちですが、代謝内分泌疾患などの器質的疾患の可能性は?
参考 : VINDICATE+P
VAPESは、病態を網羅するVINDICATE+Pの一部から成り立っています。参考として復習してみましょう。
V (Vascular) : 血管
I (Infection/Inflamation) : 感染/炎症
N (Neoplasm) : 腫瘍
D (Degeneration) : 変性
I (Intoxication) : 中毒
C (Congenital) : 先天性
A (Allergy/Autoimmune) : アレルギー/自己免疫性
T (Trauma) : 外傷性
E (Endocrine) : 代謝内分泌性
P (Psychiatric) : 精神
(VAPESの "S" はVINDICATE+Pの "D" として脳機能由来の異常に分類されそうです。)
OPQRST・SAMPLEとの組み合わせ
SAMPLE (基本情報) やOPQRST (症状の全体像) で聴取する周辺情報があると、さらに診断に近づきます。
発作の誘因 (OPQRSTの "P")
発作の頻度・長さ (OPQRSTの "Q")
既往歴 (SAMPLEの "P")
食事との関連 (SAMPLEの "L") → A (アレルギー), E (代謝性)
実践例
実際にVAPESで鑑別診断を挙げる例を見てみましょう。
発作症状のためVAPESにそって動悸、胸部症状をきたす疾患を挙げてみましょう。
V (血管) : 不整脈, 一過性脳虚血発作 (TIA)
A (アレルギー) : 喘息, アナフィラキシー
P (パニック発作)
E (代謝内分泌性) : 低血糖, 褐色細胞腫, 甲状腺機能亢進症
S (てんかん)
精神的ストレスがある状況や、過換気症候群の既往などからは、精神疾患 (パニック発作) が最も疑わしいです。
しかし、VAPESで鑑別診断を挙げることで、実は器質的疾患でも説明可能であることに気づけます。次に行うべき問診や検査も明確になってきます。
症状の追加確認
麻痺・呂律の問題は? (→ TIA, てんかん)
息苦しさに喘鳴は伴う? (→ 喘息)
食事との関連は? (→ アナフィラキシー, 低血糖)
検査
心電図 (→ 不整脈)
血液検査 (→ 低血糖, 甲状腺機能亢進症)
VAPESは、発作という特定の状況において、とても強力な働きをしてくれます。現場での判断に役立てて、見落としのない診療を目指しましょう!
参考文献
Ishizuka K, Ohira Y, Uehara T, et al. VAPES: a new mnemonic for considering paroxysmal disorders. Diagnosis (Berl). 2023;10(2):203-204. Published 2023 Jan 19. doi:10.1515/dx-2022-0132