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泣き虫は嫌いだった話。#0

自分のことで精一杯なのに、人に構って慰めるとか。キャラじゃない。
昔からそうだった。
道端で転んで泣いている同じクラスの子を見ても「転ける自分が悪い」「注意して歩けばいいものを」と冷めた目で見てきた。
もちろんそれは他人に厳しいと分類されるような性格で、そして自分にも同じように厳しかった。

人に自分の事をとやかく言われるなんて1番気に触るし、言わせるつもりはさらさらない。

三つ子の魂百まで。昔からそうなのであれば、ずっと変わらない。ずっと。


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「また今日もそれですか先輩」

オフィスの1階、社員用のコンビニ。いつもだいたいこの時間に降りてきて、ふらっと入って辺りを見渡しつつも手に取るのはガッツリ系のお昼。
で、3、4行前に現れたこの声の主は、2つ下の後輩。

『またって言うなよ、美味いんだぞこれ』
「私はこっちの方が好きなのでいいです」

実に憎たらしい。素直に頷いて同じものを買えばいいのに。…………なんでそう思った…?

いつもなら今頃レジのおばちゃんと他愛ない言葉のラリーをしながら財布の小銭を探しているはずなのに、今日は何故かまだ棚のライトに照らされている。

「あ、私の選んだパスタサラダが気になった感じですか?」
ヘルシーなパスタサラダと、横の棚から取ってきたジュースを手にして戻ってくる後輩。

『別に』
「素直じゃないですね〜だからモテないんじゃないですか?」

びっくりして顔を上げた時にはもうレジに向かっていて、ただただそれを見送ることしかできない瞬間だった。
……正直、今まで人を下に見てきたであろう自分が、まさか、あんな憎たらしいやつにズバッと言われるなんて。


もうレジのおばちゃんと何を話したか覚えていない。

ただ、レジ横に置いてあった可愛いキャラクターのお菓子まで手にしてエレベーターに乗っている時点で普通じゃないのは確かだった。

三つ子の魂百まで?

調子が狂った音が、微かに。

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