Colabo返金処理と都の綻び

 東京都若年被害女性等支援事業にて購入した備品についてWBPCから未償却残高の返金が都になされた。また、補助金が使われている事業であり、都も国庫への返納手続きを進めているようである。
 少額であることから軽く扱う向きもあるようだが、裁判での都の主張立証と論理矛盾が生じており、都の進退が窮まった感がある。


1.住民訴訟で言われての後付返金

(1)住民訴訟の経緯

 住民訴訟において財産性備品の全額負担は不適切と指摘された後に、「自主返納」と称して返金を行った。

住民訴訟における財産性備品の扱い

 令和4年度の契約に絡めたcolaboとの覚書が令和6年8月と契約終了後1年以上経ており、住民訴訟での令和6年8月の裁判所の訴訟指揮をうけて体裁を整えたものと考えられる。契約期間後の使用に関して東京都は「一々貸し借りするのは手間だった」等の釈明をしているが、委託費で取得した財産の扱いに関する資料が令和6年8月以前に一切存在せず、都のその場しのぎの虚構の可能性が高い。
 なお、令和2年度まで受託してたライトハウスが平成30年度に10万以上のプリンター複合機と電動アシスト付き自転車2台を購入していることが判明しており、当該備品についての処理の文書を開示請求中である。東京都の「知ってたけど手間だった」のが事実であれば、ライトハウス購入備品の返金処理や国庫への返還に関して厚労省との協議がされてなければならない。

(2)契約外の覚書

 返金の覚書は、R5.3.31が履行期限で1年以上前に検査、完了届、精算が終了した契約を根拠としている。契約事項は全て終わっており受発注者には一切の残債はない。検査、完了届、精算が終了した契約に基づく覚書を交わすことは、「令和4年度の検査、完了届、精算」に不備があったことの証明にしかならない。

覚書の契約上の根拠?

 効力が切れてる契約書の条項を引っ張り出すなら、契約書に基づき「備品の無償貸与」の書面を引っ張り出すのが先決であろう。

2.2600万を超えるのに何故に返金?

 colaboは、備品の未償却残高として65万円の返金を行った。しかし、都が再調査で委託事業の経費とした2,713万円から仮にR3から全額差し引いても2,649万円となり委託費2,600万円を超過している。裁判での都の主張からすれば損失は発生してないことから返金は不要となる。

令和5年5月11日 東京都準備書面(1)

 しかしながら、備品返金はcolabo以外のWBPも実施しており、若草及びBONDについては2,600万をショートし、損失発生となる可能性が高い(両団体の備品が何年度購入なのか不明なため確定ではない)。
 都の損失確定を回避するため、2600万以上なのでセーフ理論を展開せずcolaboにも返金させたと思われる。

東京都点検結果

 この返金がR3の委託費2,600万とどう関わるのか、都の村上秘書への回答でも裁判の書面でも判然としない。都としては責任逃れのため、2,600万の委託費の外との整理を試みるのではないか。厚労省に対してどの年度の補助金に対して返金するのか注視する必要がある(全額令和4年度分とするのでは)。

村上ゆかり秘書のツイート

 なお、補助金適正化法の返還は、各省各庁の長の命令による履行を意味し、「自主的な返納」が補助金の適切な使用を示すものではない。

3.返金額計算と無償貸付の成立

 私も考えが二転三転したが、今回の返金額算定計算は以下に基づくものと考えられ、無償貸付契約が締結されていたのかが今後の争点となろう。

(1)前提条件

 備品については購入費が対象であり、受託者側資産を前提とした購入備品の減価償却分を支払うという仕組みは存在しない。また、購入費の一部のみを負担し区分所有する仕組みも存在しない。

(2)返金額の計算

 前提条件に基づき購入備品の全額を事業費で負担し、都に所有権があるものとして返金額の計算を行っている。R3のPC2台については都に提出の実施状況報告書の15万円ではなく、合計33万を対象としている。

住民訴訟 乙第22号証の3(都の証拠)

(3)無償貸付と補助金交付要綱違反

 2年目以降については都財産の無償貸付との整理であり、無償貸付の契約が成立していれば減価償却分の減額は問題ないと考える。しかしながら、無償貸付の成立は、都の規程等からの推定でお気持ち表明しているだけであり、当該契約で無償貸付を約した直接的証拠はない。

住民訴訟 東京都準備書面(4)

 「必要であれば無償貸付できる」と「無償貸付をした」は異なる。東京都は、無償貸付に至った理由を色々と主張している。

住民訴訟 東京都準備書面(3)

 しかし、契約上必要なのは契約書第1条第4項に基づく無償貸付の書面である。

東京都被害女性等支援事業 契約書

 また、国庫補助の要綱において間接補助事業者に取得財産の善管注意義務を条件づけることとされているが、東京都の要綱や契約書等において当該条件は付されておらず、要綱違反である。

国庫補助金交付要綱

(4)委託により取得した物品の継続利用

 東京都は契約後の無償貸与を正当化するために農水省や会計検査院の原子力委員会への指摘を援用する。しかし、これら契約期間後の無償貸付は公的機関を対象とするものであることに注意が必要である。

委託事業により取得した物品の管理等について 会計検査院報告

 東京都は条例の「財産の交換、譲与、無僕貸付等 に関する条例第8条第1号に基づく譲与等に関する基準」を援用しているが、「可能」であることと「履行した」ことは異なることから、関連資料の開示請求をした。

(5)R3事業企画競争に際しての便宜供与

 今回、R3だけでなくR2以前の購入備品も明らかとなった。R3事業に際して都は企画競争で団体を公募している。この企画競争において都は特定の競争参加者であるcolaboに便宜を図ったことになる。

企画競争に際しての便宜供与


4.補助事業での備品処理との矛盾

 東京都若年女性被害者等支援事業は、令和4年度まで委託契約を行っていたが、数々の問題噴出により令和5年度から補助事業化された。裁判で東京都が状況証拠として活用した「財産の交換、譲与、無僕貸付等 に関する条例」等は委託契約でも補助金交付でも同じである(といより補助金交付向け)。このため、補助事業化にあたり備品の扱いを変更する必要性は全くない。東京都の言う通り公益性があるのであれば、補助終了後も継続的な貸与が都の利益になる。
 しかしながら、「備品」の項目さえ削除し0万円分の負担も不可とした。後付けで創作した無償貸与シナリオさえ不適切であると自ら証明している。

東京都若年被害女性等支援事業の補助に関する Q&A

5.監督・検査と実施状況報告書

(1)ペラ紙の実施状況報告書の検査でOK?

 東京都は、BONDとの訴訟において、ペラ紙の事業計画書の履行を実施状況報告書で確認できれば2,600万の費用が推定されるとした。

BOND訴訟 裁判所求釈明への都回答(暇空氏note

 内訳は不明であるが、BONDからも975,749円の返金を受けている。東京都の主張が正しければ、事業計画書と実施状況報告書より今回の返金が「推定」されるはずである。しかし、10万以上の備品はR3の布団しかない。colaboも「エアコンでなくてパソコン」は実施状況報告書では15万とされていたが、再調査や自主申告では33万とされた。

BONDの事業計画書及び実施状況報告書

 事業計画書と実施状況報告書からは都の財産管理さえできないことは、今回改めて購入備品を自己申告させたことでも明らかである。自己申告はいくらでも隠蔽、虚偽報告が可能であり、そのため監督・検査で証憑や給付の確認が必要となる。
 今から領収書をチェックしたとて「これは他事業分です」と言われれば確認しようもない。検査時に形式的なペラ紙実施報告書だけでなく2,600万の範囲を特定しておかないと、受託者の言いなりになるしかない。
 工事の請負契約では最終的な建造物の検査だけでなく、建設途中の監督も要求される。鉄筋の省略等の手抜きをしてもコンクリート打設後の検査では確認できないためである。費用に関して利害の対立関係にある受託者を鵜呑みにすることは、発注者責任の放棄でしかない。

R6.8.29  覚書と対象備品の自己申告

 
  また、東京都はBOND訴訟のレインボー求釈明に対して以下のように嘯く。

レインボー求釈明回答

 都との協議を経ず事業計画書とは異なったペラ紙実施状況報告書になっており、そのような実施状況報告書や自主申告を用いて2,600万を推定することはできない。「相手の言いなりになってチェックをしない」のと同意であり、地方自治法の監督・検査は不要とでも言いたいのであろうか。

6.エアコンではなくパソコン

 村上秘書のツイートによればR3の「エアコンではなくパソコン誤記」について以下の説明があったとのことである。役所の慣習からするとこれだけ具体な内容を口頭で伝えられたとは思えず、東京都からはメール等による返答があったと考えられる。東京都は未だに書面を確認することなく、すぐに矛盾が発覚するその場しのぎの対応を繰り返していることになる。

都への住民監査請求でも既に指摘されているが令和3年度の実績報告書において、令和2年度の実績報告書をコピペで使用したため、令和2年度のエアコン購入費を消し忘れて提出されていた。これをパソコン、及び金額もパソコン購入費に修正されたものと承知している。

村上秘書への厚生労働省回答

 令和2年度には構成は異なっているが、事業計画書にエアコンがあり今回の自己申告にもエアコンがある。しかし、実施状況報告書にはパソコンの文字しかない。これまでの実施状況報告書では都財産の確認さえできないことの左証である。
 なお、R3事業計画書の時点でR2に計画してた窓用エアコンを想定していた可能性はあるが、エアコンをパソコンに修正するのを忘れたとは考えにくい。colaboは他と異なり事業計画書の支出額に則り実施状況報告書を作成している。修正手続きが不明若しくは億劫だったというのが理由ではなかろうか。

まとめ

 今回の返金処理では、返金額よりもその返金に至る論理構成が乱暴であり、容易に現実の履行との乖離が見つかる。東京都は「書類がない」ことを奇貨として様々なストーリーを後付で作り上げているが、住民訴訟の対象が4団体あるため、4団体の挙動の差異をカバーできるようなストーリーは思いつかなかったようである。
 都が「成果物もなければプロセスもチェックしない」を正当なものとして、ストーリーを組み立てても裁判所の心象は悪化するだけだと考える。契約に関する住民訴訟の裁判例等を色々と読んではみたが、これほど杜撰な契約管理の事例は見当たらなかった。引き続き今後の住民訴訟の行方に注視していきたい。

変更履歴

  • 2025/1/14  「4.補助事業での備品処理との矛盾」追加

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