若年被害女性等支援事業の調達方法比較と東京都への提言(無料)
若年被害女性等支援事業の委託契約については、東京都以外に札幌市及び仙台市が実施しており、3者の契約形態を比較検証し、東京都に提言を行う。なお、仙台市と札幌市の発注については以下のサイト情報を参考とした。
・札幌市のサイト
・仙台市のサイト
契約の相手方の選定方法
東京都の選定委員会方式
東京都はcolabo等の団体の選定過程を公表しておらず情報が錯綜しているが、暇空氏のツイートにある「選定委員会方式の企画提案」が、状況と一致する。東京都の若年被害女性等支援事業は同じ仕様の4事業の受注者選定を同時に実施している。「同条件の4業務について4団体を同時期に選定する方式」は、国交省が行っている一括審査方式(通称、一抜け方式)があるが、各4業務に4団体が入札することになる。現在そのような情報はなく、4団体から提出された企画提案を選定委員会で選定したと考えるのが妥当であろう。
「選定委員会方式*1」は聞き慣れないので調べたところ、「東京都指定管理者制度に関する指針」にて用いている。指定管理者は公法の契約とされてきたもので、前の記事のとおり東京都は「公法上の契約」として位置づけているのではなかろうか。企画競争は地方自治法上の随契とするのが一般的であるが、入札情報を有償サービスしているNJSSでは入札としてるとのこと。特定後に形ばかりの1社入札をしたのかもしれない。
蛇足ではあるが、近年プロポーザル等で「価格提案」を評価項目とする事例が見受けられる。プロポーザルは随契であり、価格の評価が可能(=随契理由がたたない)なら総合評価による入札とするのが自治法の原則である。
*1:総合評価の審査は「技術審査委員会」
選定方法の比較
東京都、仙台市、札幌市の選定方法を以下に比較する。なお、東京都については選定プロセスが公開されておらず、詳細は不明である。札幌市、仙台市ともに見積書を提出させている。恐らく、団体を選定後に見積書を再度提出させ、設計書*2及び予定価格*3を算定しているものと思われる。
業務中に追加の検討事項等が発生した場合も設計書をベースとして変更額の算定がなされ、コスト管理のための重要な資料であるが東京都は作成していない。
*2設計書:発注者が「この業務は●円ぐらい」と算定(積算)する見積もり明細のようなもの。【参考:横浜市の排水管設計業務の設計書】
*3予定価格:設計書に基づき発注者が算定した業務価格で、この価格を超えて契約することはできない。
支払い方法の比較
支払い方式についての比較を下表に示す。
仙台市は通常の請負型の委託契約と同様に総価での支払いを想定していると思われる。ただ、成果品が活動報告書しか作成できないと考えられ、それをもって費用に見合ったものかを確認するのは困難と思われる。札幌市は実費精算としているが、東京都と異なり他事業との人件費の按分方法を明記している。
通常の請負型の委託契約にするには「アウトリーチの声掛け1人あたり●円」といった歩掛(人工ベースの積み上げ費用)を作成する必要があるが、場所や状況によって著しく異なる。このため、支払いは準委任の経費精算とするしかないであろう。
なお、準委任の経費精算ベースの委託契約は契約書や事務規定等がない自治体もあると思われ、厚労省等がひな形を提示する必要がある。
対象事業の範囲
事業範囲の設定方法の比較を下表に示す。3者とも企画提案若しくはプロポーザルとして事業内容に関する提案を求めている。
札幌市は全ての事項を実施することになっており柔軟性が低く、結果的に参加者が少なくなる恐れがある。東京都は(1)〜(4)を実施としながら(1)①は必須とちぐはぐである。仙台市は提示額に見合った事業範囲を提案させるため、最も柔軟性があり、各団体の特性を反映できると共に競争も働く方式である。恐らく、団体を特定後に提案内容に沿った仕様書を作成し契約を締結していると考えられる。
利用者の個人情報
利用者の個人情報は、発注者にとって委託事業を実施したかどうかを確認するための基本的な事項である。これが受注者のブラックボックスになると数字を適当に取り繕った架空の報告を提出されても確認手段がない。これが現在の委託事業の不透明さを醸し出している要因の一つである。そこで、仕様書における利用者の個人情報の扱いの比較を下表に示す。
東京都及び札幌市について、関係機関の協議に個人情報を扱えるように予め利用者に同意を得ることになっている。東京都及び札幌市に対する利用者の許可を得ることはその前提となっていると考えられる。当時の仕様書は未見だが仁藤氏は平成30年に利用者の個人情報を許可なく教えないとしており、現在もこの運用をしていた場合は仕様書を満足しない可能性がある。札幌市の受注者の質問は札幌市と利用者の個人情報が共有されることを前提として、関係機関における個人情報の扱いを確認したものである。
委託契約における受発注者間の個人情報の扱いについて法的な検討が必要であると共に、受注者は発注者への個人情報提供に対する許可を利用者から得るよう努力しなければなるまい。
東京都への提言
競争環境の創出
受注者が固定化しており競争もないことから、受注者のほうが強い立場になってしまっており不健全な関係にある。競争による一定程度の緊張は必要であり、以下の対策をとることが考えられる。
1.既存4団体で受注金額を差別化する
例えば委託事業を5000万×2件、3000万×2件とし、国交省の一抜け方式を参考にしながら企画提案の評価の高い団体から大きい金額で契約する。
2.既存4団体の選定契約後に1枠や2枠の新規発注を行う
全予算を4業務に割り振るのではなく、例えば1500万枠2事業を残しておく。既存団体選定後に、新規2枠の公募を開始する。仕様は仙台市のものを参考に柔軟なものとし、新規参入を促す。
事業範囲及び支払い方法
事業範囲は現行の仕様書から選択の上、見積もりと共に提案してもらい、選定後に提案内容に沿った仕様書とする。見積書をベースとして設計書及び予定価格を算定する。前項のとおり受注金額に差をつける場合は複数の見積もりと提案が必要となる。
また、実施事業に対するアウトプット目標も提示してもらう(例:バスカフェ●回)。アウトプット目標未達時は次年度の公募時にマイナス点を与え、額の大きな枠に選定されにくくする。
なお、支払いは経費精算とさざるを得ないが、自主事業ときちんとした区分をするのは当然。また、個人情報の扱いを検討の上利用者のリストの確認を行うのが望ましいが、無理なら抜き打ちチェック等を仕様書に明示し、拒否した場合はマイナス点を与えて次年度の企画競争時に反映する。
研修や相談対応弁護士の切り離し
そもそも「ノウハウを有する」が故に委託している団体職員の研修費を公金で賄うことは矛盾している。やるのであれば、東京都が別途研修プログラムを調達し4団体以外にも開放して研修を行うべきと考える。また、相談対応弁護士も団体個別で用意する必要はなく東京都で調達し派遣するといった運用をすれば透明性が向上する。