教育を通じて誰もが生きやすい社会を目指す〜大野智久
先生インタビューの第三弾は三田国際高校で生物を教える大野智久さんです。大野さんは都立の新宿山吹高校や国立高校などを経て、今年4月に現在の私立三田国際学園中学校・高等学校へ移りました。国立高校在籍時にはアクティブ・ラーニング形式の授業を公開し、全国の教育関係者が見学に訪れました。
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近未来 小林 大野さんは、なぜ高校の先生になったのですか。
大野 人の成長に関われるからです。特に、高校は学問的にも深い部分、大学で教えるようなことまで伝えることができます。また、進路に直結する時期であることも理由のひとつですね。
近未来 小林 時々他の先生からは、中高生のころに素晴らしい先生に出会ったから、という動機を聞きますが。
大野 僕自身は、ロールモデルとなるような素晴らしい先生に出会いませんでした。でも、そんな存在を求めていました。だから、自分がそういう先生になりたいと考えるようになりました。
近未来 小林 目指したい人がいなかったから、逆にそういう存在になりたいと。
大野 中学生、高校生だった過去の自分を救いたいという思いからですね。そして、子供たちが自分の考えを伝えられる相手がいる、そういう環境をつくるのが理想なんです。
誰もが生きやすい社会
近未来 小林 教育において大切に思っていることは何でしょう。
大野 「誰もが生きやすい社会」を自分の教育理念として掲げています。もともと、よく言われる「夢や希望を叶えよう」といった言葉に違和感がありました。夢がない人もいるし、それはそれで構わないと思うのです。
一方、誰でも大なり小なり生きづらさを感じています。教育を通じ、物の考え方やスキルを伝えることでそれを少しでも減らしたい。
近未来 小林 どんな考え方やスキルがあると、生きづらさが減ると思いますか。
大野 一番伝えたいのは「人に頼る力をつける」ことですね。もちろん他にもたくさん伝えたいことはあるのですが、限られた時間でしっかりと届けるとしたら、この言葉です。
きっかけとなったのは東京大学の安富歩さんの著書『生きる技法』です。本の帯に「助けてください、と言える人は自立している」と書かれています。なんでも一人でやろうとすると無理がでてきます。そうではなく、人に頼れば頼るほど自立できるというマインドセット、考え方を持つ。いままで人に頼らないことが自立だとされてきたので、考え方の大きな転換です。そして、どのように頼るかがスキルになります。
当たり前を疑え
近未来 小林 学校の現場で意識していることはありますか。
大野 現状維持のバイアスを取り除く、当たり前を疑うということです。先日、定期テストをやめた公立中学校がテレビに特集されました。
近未来 小林 たしかに定期テストは、誰もが疑わずに実施するものですね。
大野 去年も実施したから今年もこの行事を開催する。言われたからその仕組みを実施する。学校に限らず、組織では目的は何かを明確にしないまま実行されていることが多くあります。きちんと現状を批判的にみて、課題を発見し、その課題を掘り下げていくことを意識しています。
能力よりも資質を鍛える
近未来 小林 高大接続については、何か意識していることはありますか?
大野 生徒の「能力」よりも「資質」を伸ばして、大学へ渡していきたいですね。
近未来 小林 資質と能力の違いはどのような点ですか。
大野 「資質能力」とひとつの言葉のように言われますが、まったく異なります。能力は「今何ができるか」で、資質は「子どもの持つ可能性」です。
資質を伸ばすことは、子どもの可能性を信じ、その潜在的な可能性に気付かせることだと思います。これから大学の研究室に入ったり、社会人になる時にどれだけ伸びる可能性を広げてあげられるかではないしょうか。今できないことが多くても、素直で吸収力があれば必ず伸びていきます。
人を採用する側の立場から考えても、経験豊富だけれど頭が固い人より、人の意見を素直に受け入れ、成長が期待できる人のほうが、一緒に働くイメージがしやすいし、受け入れやすいですよね。
近未来 小林 まさにそうです。その土台となる、資質の部分を育てることを大切にしているんですね。
大野 はい。生きていく中で、知識、スキル、マインドセットの3つが必要といわれます。ここでもっとも重要なのがマインドセットです。次にスキル、そして知識です。知識はいつでも得ることができるし、知識を持っている人とつながればいいんです。小林さんはそんな生き方をしていると思いますが。
近未来 小林 大野さんのおっしゃる通り、私は何かあれば知識のある方にすぐ相談しちゃいます(笑)。
大野 それがまさにさきほどお話した「人に頼る力をつける」ということなんです。
外の世界を見に行こう
近未来 小林 高校生は忙しいというイメージですが、最近の高校生で気になることはありますか。
大野 前の学校の子どもたちは部活、文化祭、勉強と、とにかく忙しかったですね。ただ、今の学校の生徒たちは、そこまでつめこまれてないです。
近未来 小林 時間的には少し余裕があるんですね。
大野 そうです。あと最近の傾向というよりも、自分が経験を積んで思うようになったことは、高校生にはぜひ「外へ出て行ってほしい」です。近未来ハイスクールのような学校以外の場に赴いてほしいんです。
そして単に「参加して面白かった」で終わりだと、受け身でテレビをみているのと一緒です。近未来ハイスクールに行った時にも伝えていますが、行動に移してほしい。例えば、話を聞いた人に興味をもったら、その人の著書や薦めた本を買うのでもいいのです。
課題発見と課題解決を
近未来 小林 10月13日のイベントで期待することは何かありますか。
大野 せっかくこれだけ多様な先生が集まるのであれば課題発見と課題解決をしたいですね。例えば自由研究。高校の生物の教員である私に相談してもらったら、いろいろアイデアがあります。
近未来 小林 夏休みの自由研究にはつらかった思い出しかないです。立教大学 中原淳さんのブログにもありましたね。
小学生にとって身近な植物や虫の観察などの自由研究を、高校の生物の先生とコラボすると、深みのある興味深いものになりそうです。
新たな課題をみつけ、そして解決のための連携が行われたり、それぞれの先生にとってパワーアップするような場になると、とても嬉しいです。
(オプンラボ 小林利恵子)
大野智久さん 私立三田国際学園中学校・高等学校教諭(生物科)
高校教諭の中でも特に積極的に、アクティブ・ラーニングを授業へ取り入れる。未来の教育をけん引すると教育業界から期待される高校教師。近未来ハイスクールの発起人の一人でもある。共著『すぐ実践できる! アクティブ・ラーニング 高校理科 (ACTIVE LEARNING教科別実践法シリーズ)』『教師のための「なりたい教師」になれる本!』
■近未来ハイスクール https://www.kinmirai.co/
変人と高校生をつなぐキャリアのプログラム
10月13日(日)に先生と語る近未来ハイスクール
先生と語る近未来ハイスクール 「保幼小中高そして社会との“接続”というよりむしろ“ゆるくつながろう” 主体的な学びの支援と外部連携」
■オプンラボ https://www.opnlab.jp/個人と企業を学びの場を通じてステージアップとブランディングを支援する
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