エール ―若き画像研究の旗手へ― 第4回 画像研究界を絵巻物的疾走中!旗手の青木義満先生
1.序
慶應義塾大学青木義満先生の話しぶりは『鳥獣人物戯画』の絵巻物を鑑賞するときにも似て,時空の展開が混ざり面白い。いつの間にやら絡めとられ,心地よく納得させられる。理にのみに走らず理の隙間までみせてくれる感じである。注視と周辺視がつねに混ざり合い,スライドのコマとコマの隙間の,独特な連続性に気遣っている様子が筆者には聞こえ,映っている。デジタルなロジックの物語(ストーリー)がアナログテイストに実装(マウント)されている,といった佇まいである。この稀有な営みは,画像研究世界でもDX全盛の今こそ貴重ではないだろうか。
この青木先生の魅力が,画像研究界にいよいよ発揮されてほしいと願い,心からエールを贈りたい。青木先生はもはや画像研究界のトップランナーのお一人であり,若き友人というとお叱りの声もあるかもしれない。しかしこのような佇まいの旗手は寡聞にして知らず,また,現今の画像研究界にとってその佇まいは不可欠と思われる。
写真1は,先生のLINE壁紙のデザインである。偶然にしても何とも微笑ましいエピソードにて恵贈いただいた。青木先生の佇まいを映して余りある。
2.はじめに
青木義満先生はいろいろな学術舞台にて,もはやど真ん中におられる方である。だから若き友人にエール,というのもそろそろ憚られそうである。しかしこれが許されそうな個人的な理由はなくもない。青木先生は筆者の長年の友人である橋本周司早稲田大学名誉教授のお弟子さんでお若いころから懇意であったこと,二つは画像センシング技術研究会を創始された筆者も長くご指導いただいた故高木幹雄教授に芝浦工業大学にて仕えられたこと,そして青木先生が慶應義塾大学への奉職に際してご縁をつくられた中島真人慶應義塾大学名誉教授に,私は画像センシング技術研究会などで弟のごとく大事にしていただいている。つまり,青木先生所縁(ゆかり)のお三方の権威に乗った気分が手伝い,ご登場いただいた次第である。
さて,先生の佇まいを映すのが写真2である。青木先生がラガーマンであった(ある)ことは知る人ぞ知ることであり,大切にされている“信条”は「ONE for ALL,ALL for ONE」であることは間違いない。よって本稿では,画像研究界の確かな事例のなかでこの信条に裏打ちされた学術への取り組みとその疾走の模様を素描することに疎かであってはならない。
話を始めるまえに青木先生のご略歴をここに共有させていただくとともに,稀有な略歴を裏付ける秘密の人脈を,教授就任特別講義時の謝辞の中に見つけたのでここに補遺しておきたい。
3.画像技術研究の絵巻物―デジタルのアナログ的・絵巻物的実装―
今時,画像技術はデジタルでしかない。デジタルでしか実装できない宿命を克服するには物質現象に寄り添うアナログなセンスを大事にするしかない。研究の実際に即して,この難業をみごとに実現しようと疾走中の青木先生に学び,そしてエールを送りたい。
そして,いの一番に共有したい大事なメッセージを私はすでに発見している。それは,教授就任時吉例(2017年6月14日)の特別講義にて公的に話されたものである。画像技術研究へのお考えを宣明しているので,ここに刮目したい。これが,本稿エールの基軸かもしれない。
“実学の精神”/現場から → 本質的基本問題(fundamental)と先端的課題(cutting edge)
この画像技術研究における“実学”の精神と実際の試みをお聞きして,その姿を垣間見たいと考える。現場と本質的基本問題(fundamental)と先端的課題(cutting edge)の三点セットのワードに何かが潜んでいるのではないだろうか。
(1) 実学/顔認識の現場と顔学
顔にカメラが向けられて顔画像が世界に溢れて,画像技術に期待が寄せられている。1995年3月7日には日本顔学会(JFACE:Japanese Academy of Facial Studies)が世界に先駆けて誕生した。当時,確か青木先生は学部4年生であり,この日本顔学会誕生の洗礼を受けたに違いない。写真3はその動かぬ証拠である。ここに見る顔の発見,顔パーツ認識,形状記述についての技術開発もさることながら,その先に来る個人認証やエージェントとしての顔メディア生成技術などの難題に注目されていたことは想像に難くない。あえて言うと,この顔研究事始めには,
“実学の精神”現場/身辺の日常 → 本質的基本問題(fundamental)と先端的課題(cutting edge)/顔学
なる青木式“実学”のスキームが見え隠れしているひだりひだり
(2)実学/日本の画像技術の曙,リモートセンシング画像処理の現場
1970年代に気象衛星NOAから地上を俯瞰した画像群に触れたとき,筆者は非常に驚いた。当時,東京大学生産技術研究所では高木幹雄教授がまさにリモートセンシング(リモセン)画像処理を日本で初動させたのだ。時を超えて,この歴史的画像研究に青木先生もかかわられたことにまた静かに驚いた。写真4がその証拠である。現今の青木的画像技術“実学”につながる,極めて得難い薫陶がそこにあったと察する。
“実学の精神”現場/地球,global → 本質的基本問題(fundamental)と先端的課題(cutting edge)/デジタル気象学
(3)実学/サッカー,ラグビーの現場
スポーツに寄せる画像技術的関心も実績も,アスリートである青木先生には一日の長あり,である。よって,産業界からの期待に応える熱意も広がりも,顕著であり続けている。
“実学の精神”現場/ゲームフィールド → 本質的基本問題(fundamental)と先端的課題(cutting edge)/物体検出と機械学習深層学習(DL)技術
ほんの一例であるが,写真5はアメリカンフットボールでのフィールド上の全選手の実時間追跡の実装を成功させたときの一コマである。この技術をラグビーにも展開し,写真6のごとく画像センシングシンポジウム2017(SSII2017)でデモンストレーション賞を受賞された。この“実学の精神”がSSIIフロアのこころに届いたのだろう。
(4)実学/デジタルサイネージの視線推定の現場
青木研究室の関心は人の営みの微細部に及んでいる。微細部とは画像技術に避けて通れない,視覚を司る注意(attention)と意識(awareness,consciousness)のセンシングあたりの現象である。
“実学の精神”現場/顔と視線 → 本質的基本問題(fundamental)と先端的課題(cutting edge)/注意と意識の見える化
写真7のように,顔画像解析と瞳認識のその先に,視線の先のどこにどのように注意意識を向けて関心をもっているかを伺い知ることを目指した顔センシング研究である。
この研究は立ち止まっていない。キャリブレーションフリー視線推定では(2017年),モデルベースによる眼球追跡と学習ベースによる推定を統合して立ち位置拘束を解除し,さらに新規被験者を即座に追跡できるよう現場の要望に応えている。
4.研究コミュニティ創出へのエール ―アナログのデジタル的・絵巻物的実装―
学会の創出や運営はそもそもアナログ,すなわちペルソナ由来である。アナログでしか実装できない宿命を克服するには,コンピュータとネットのデジタル現象をさばくべく,さりげなくこれを実装するセンスを大事にするしかない。この難業をみごとに進める青木先生のありようを辿りたい
(1)主戦場SSIIの青木会長のバックヤード
青木先生は現在,画像センシング技術研究会の若き会長として疾走中である。
素描1/SSII会長
青木先生は,SSIIの初代高木会長と第2代中島会長のもとで学び働き,3代目会長(筆者)の時はステアリング・コミッティ(運営)委員長を務め,これを経て画像センシング技術研究会会長 2024/2023 2022/2021 2020/2019 2018/2017(4期)を目下務めている。この稀有すぎるキャリアに,まさに鳥獣人物戯画を見るに似た感動を静かに覚える。
(2)もっとある,画像技術研究コミュニティ
素描2/ViEW(IAIP)の実行委員長
青木先生が運営委員に連ねる精密工学会画像応用技術専門委員会(IAIP)は画像センシング技術研究会と浅からぬご縁がある。長年に亘って築かれたであろうトロイカ的盟友,佐藤雄隆博士(ViEW2019-2020)と加藤邦人教授(ViEW2021)とのコラボとも拝察できるビジョン技術の実利用ワークショップ(ViEW)の運営への進め方は青木先生の力量を感じさせるに十分であった。
素描3/計測自動制御学会パターン計測部会ほか
計測自動制御学会(SICE) のパターン計測部会,映像情報メディア学会のメディア工学研究会,ロボット学会,応用物理学会など隣接の諸学会での青木先生の疾走ぶりは多くが知るところである。例えば,IAIPとメディア工学研究会が交互主催するサマーセミナー(SS)の実行委員長を双方から担ったのは今のところ青木先生が唯一である。
素描4/ラボ運営と学会運営と
学会運営と研究室ゼミ運営は非なるも似ている。私の知る限り青木研究室のような,全人的,鳥獣人物戯画的に活発なインフラを学生・院生に提供して余りある例を他に知らない。写真8にそのリーダシップの雄姿を見て取れる。知る人ぞ知る逸話も少なくなく,ごく最近では2023年東京マラソンの記録(3時間13分!)をお聞きした。ゼミ運営における青木先生の諸指導は,もはや範を示すレベルをはるかに超えて,素晴らしすぎると思った。
5.むすび -画像技術界のよき予兆-
足腰の確かな〝実学の精神″のもとに「ONE for ALL,ALL for ONE」の信条を駆動力にして,画像技術研究界を疾走する青木先生にエールを送った。
この「エール」のむすびに代えて,半私的なエピソードを是非ともちょっと紹介したい。もって,そのような出来事があちこちで頻発する,そんな画像技術研究コミュニティの良き予兆を夢見つづけたいと願う。言うまでもない,青木先生にこそ,この願いも引き続き叶え続けてほしいと改めてエールを贈る次第である。
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(1)エピソード/半私的「還暦シンポジウム“H2K2008”」開催!事件
2008年3月某日,橋本周司早稲田大学教授,秦 清治香川大教授と筆者の研究室がこぞって,こんな粋な学術的プレゼントをくださった。青木先生はもちろんその首謀者のお一人であった。「一回性の科学」(橋本教授),「学術の現場主義」(秦教授),「ベルクソンと情報科学」(筆者)などやりたい放題の講演ができる贅沢な時間を貰ったのだった。これらの三題はどれも,青木先生にとっても決して悪影響にはならなかったと信じている。その証拠に,繰り返しになるが教授新任時の特別講義(2017年6月14日)にて,
“実学の精神”/現場から → 本質的基本問題(fundamental)と先端的課題(cutting edge)
と宣明されたからである。
(2)エピソード/デジタル化理論でコンタクト事件
情報科学と画像技術の深みの一つが「デジタル化理論」であると思い,標本化と量子化の理論を2002年ごろから模索している。この件で,青木先生からメールがあったのは2022年9月13日22時だった。不意のことで驚いたが,直後には“実学の精神”(青木)的に納得した。何より嬉しかったのは,この画像技術研究DX時代にあって,このような未だ解けぬ課題に向けて,若き俊英から学術的アライアンスの兆しを贈っていただいたからである。大学院の講義にてこれをアピールし,またこれを研究テーマとするべく大学院生を募集中とのことである。
(OplusE(Web) 2023年6月2日掲載。執筆:輿水大和(ひろやす)氏。ご所属などは掲載当時の情報です)
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