DRIES VAN NOTEN COLLECTION MODEPALEISの感想
去年くらいにドリスの香水が出るぞー!と発表されたとき、「日本での発売は未定」の文字にがっかり。本国の通販サイトを凝視するも日本へのシッピングがnot availableであることを知り、またがっかり。
ところが、BUYMAは信頼しないがメルカリの香水オタクは信用する私は、香水ジャンキーが1,2プッシュで飽きてしまった日本未発売品を大量に並べている中に、ドリスのディスカバリーが燦然と輝いているのを発見した。
そういうわけで、今年4月の日本発売よりも1年近く先駆けて入手してはいたものの、当時舐達麻にハマりすぎててCannabis Patchouliだけ試して満足してしまった。本当に欲しいものはもうすでに俺の手の中。
あらためて試していくと、有名調香師を集めているだけあってどれもいい香り。両手首に違う香りをつけても不思議と調和するのは、柄×柄といった足し算の美を得意とするドリスらしさがある。
あと、画像ではディスカバボトルにも模様がついてるように見えるんだけど、実際は透明なボトルの下に柄の紙を敷いてるだけ。やっぱりガラス製の美しい瓶を実際にこの目で見てみたくなる、あざといデザイン。
Jardin De L’Orangerie
「ジャルダン」も「オランジュ」も香水界ど定番ワードなので、正直期待値0だった。とくに「フルールドランジェ」みたいな名前がついた香水は大体苦手なことが多く、これもなんかうす甘い花粉におっさんの靴下をそうと気づかないレベルまで薄めたような匂いがするんだろうと思っていた。が…
あれっ……オレンジの花って、こんなにいい香りだったんだ……
ジャルダンというほど庭感はなく、どちらかというとオレンジとネロリごと出荷用の木箱に閉じ込められてしまったかのような濃厚さ。イランイランのいい仕事により、フルーティージューシーな甘さが半日近く持続する。こんな夢のような香りの庭があったら行ってみたい。
閉じ込められたで思い出したけど、フレデリックマルの公衆電話みたいな試香部屋やばない?
閉所恐怖症だったら発狂すると思うけど入ってみたい。試香中に地震が起きて閉じ込めらるとしたらどの香りで死にたいかを決めておくまでがセット。
フレデリックマルがドリス(デザイナー自身)をイメージして作った香水もシャリマーfeat.スパイスパウンドケーキって感じで好きなんだよなあ……
ドリスのオレンジの話に戻る。いったいどこの神調香師の仕事なんだろうと思ったら、ダニエラアンドリエ。ドリスは香水の説明ページに調香師の名前と言葉をでっかく載せてるのがいいですね。
ダニエラアンドリエといえば、BULYの「ヴァルパンソンの浴女」やゲランの「アンジェリークノアール」の人。どちらの香水も初嗅ぎで衝撃を受けた大好きな作品。浴女は本当~~~にお湯の匂いがして、しばらく気に入ってつけていたが、ある日上司のおっちゃんが同じ匂いをさせていて、それ以後使ってない。朝シャンの人が隣りにいると気まずくなる諸刃の剣。いや何が言いたいかっていうと、これは調香師買いしてもいいやつってこと。
Neon Garden
ミントとアイリスなんて嫌いなわけないじゃん🧡と思ったけど、こちらのミントはグリーン感がほぼなし。自分はゲランのハーバフレスカが大好きなので、踏み潰した草感がないとちょっと物足りない。
ミントのすっきり感がその後オリスとムスクの甘さに明るさを与えていて、なるほどネオン感。
ミドルラストは外国香水にありがちなスパイシーさが出て薄めたサンタル33っぽくなるので自分は苦手。サンタルほど拡散しないし、ルラボっぽい香りが好きな人はきれいに使いこなせそう。
Rosa Carnivora
ダフネ・ブジェといえばルラボ作品でよく見る人。ROSE31がめちゃくちゃ男らしい乾いたローズなので、勝手に坊主頭で褐色のバスケ選手みたいな男性調香師なのかと思ってたが、めちゃくちゃキレイなお姉さんだった…
ローザカルニボラは、華やかでしっとり濃厚なローズに、ピンクペッパーのチクチク感が濃い目の影を落としてドリスの服の華やかさにピッタリな印象。無地の生成りのワンピとかに合わせてもそれはそれでギャップがあって好き。こんな強気な香りをさせている女性にひれ伏したいが、自分でつける感じではない。布団に吹きかけてクンカクンカしながら、愛する女に去られた悲しみを楽しむ花袋スタイルなら(なお44000円)。
Raving Rose
調香師はレイジーサンデーモーニングの人。めちゃくちゃスター揃いやんけ……完全にスマブラのテンション。ルイーズターナー参戦!!(画像略)
トップはベルリンの少女に似てる。うわっ鉄と血だ……となるダークファンタジーなオープニングを超えて、ペッパー戦争が終結すると、晴れたバラ園でローズ同士がささやきあう平和な世界へ。個人的にペッパーが苦手なので刺さりませんでした。公式ノートには書いてないけど、ラストがスモーキーウッディな気がする。
Cannabis Patchouli
ボトルからザ・メンズ向けな雰囲気を感じるが、メンズ香水が苦手な自分でもこれは好き。トップのローズマリーがピリッと爽やかで、青山フラワーマーケットのカフェでフレッシュハーブティーを飲んでいるかのよう。ドリス南青山店から徒歩2分くらいなのでハシゴしてください。
ミドルからパチュリが都会的な輝きを放って素敵。大麻をやったことがないので、どのへんがカンナビスなのかはよくわかんないです。落ち着いたハーバルが好きなら。
Santal Greenery
フィグもサンダルウッドもそこまで好きじゃないので、試すのが最後になってしまった。が、つけてみてびっくり。これシリーズの中で1番か2番めに良いッ! ジョーマローン香水でよくある、高級スパのお風呂上がりのようなラグジュアリーな湿気(伝われ)が感じられます。
トップの柑橘がいい仕事をしていて、フィグ香水特有ののっけからあま~い感じが一切ない。ミドルもバイオレットリーフがメインなので、フィグのフルーティーさを爽やかに包み込んで、ラストまで瑞々しく、まるで5月の早朝に散歩をしているかのような気持ちよさ。
ドリスの店員さんに感想を聞かれ上記を早口で語ったところ、「そうですね…」と言いながらカンペのバインダー(ノートのピラミッドにクソデカゴシック体で「ベルガモット」「グレープフルーツ」「バイオレットリーフ」と書いてある)を見せてくれた。おいそれ客に見せてええやつなんか!? ドリスのお店が、壁面に巨大絵画が飾られていたり、季節のお花がところどころに活けてあったり、服も柄物と無地を交互に配置する計算ぶり、ポムフィオーレ寮に迷い込んでしまったのかと錯覚するパーフェクト世界観で緊張がやばかったが、こんなクソダサカンペを見せてもらってちょっと安心した(エルメスがエルメッセンスのミニボトルの在庫袋にテプラを貼っているのを見たときと同じ安心感)。
Voodoo Chile
ジミヘンのVoodoo Childという曲からインスパイアされているらしい。私は令和生まれなのでジミヘンとかよくわかりませんが……
カンナビス・ローズマリー・パチュリの要素が「Cannabis Patchouli」とモロかぶりしているにもかかわらず、全然香りの印象が違う。カンナビス・パチュリはハーブティーのように爽やかだが、ブードゥーチリはひたすらにダークで重い。じっとりと苦いローズマリーと年季を感じるウッディが、汗とタバコの匂いが染み付いたギターの叫びを思わせる。人々の熱気がうずまく地下のバー、合法非合法を問わず濃厚な煙がたちこめる暑い夜の香り。
Roch The Myrrh
トップの数秒だけ洋酒漬けのパウンドケーキっぽさを見せるので、可愛い系の香りかなと思ったら以後ドライ&スパイシーなウッディ。
朝、娘が食べ残したフルーツパウンドを片付けると、着慣れたツイードのジャケットを羽織り、ターゲットの元へ向かう殺し屋。内ポケットで出番を待つ銃と、手に染み付いたグリップの木の香り。
でもラストがちょっとベリーっぽい。父の素性を知らず無邪気に「パパおかえり」と出迎えてくれる娘のよう。
Fleur Du Mal
瓶からもうワル丸出し。ボードレールの詩のように「マムシの塊を生んだほうがマシ」とオカンにはクソなじられ香水瓶は干からびてベトつき道端の死体にはウジが湧きひたすら魔王に祈りを捧げる地獄の釜みたいな香りがするのかと思ったが、全然そんな禍々しい香りじゃなかった。
モダンでマニッシュな香ばしめのスエードがかっこいい。スエード8割で、たまにふわりと正体不明の柔らかい香りがするときがあり、これが金木犀とかピーチジュースなのだろうか……?
上下黒スーツなのにインナーはピンクシフォン的なあざと味(あじ)をかんじる。詩人の心を乱す悪の華になりたいなら。
Soie Malaquais
チェスナッツとココアってこんな甘い香りがするのか……ローズの酸味がほのかに汗っぽくてセクシー。瓶の鳥さんがカワイイですね。
甘々一辺倒じゃなくて、ブラックカラントの仕事なのかそこはかとなく湯上がりのようなみずみずしさもあり、様々な表情を見せて飽きさせない。
これ嫌いな人はいないと思うので一番売れそう。冬なら買ってしまうかも…
店頭にオードトワレ2種もあったので、そちらも肌のせで試してきた。
Sur ma peau
あなたの肌の上で……!?!?? エッチやね。ベルガモット&バニラとのことなんだけど、私の肌ではムスクを強く感じ、柑橘の酸味が長持ちする印象。この夕焼けみたいな美しいグラデのボトルだけで34210円もするのに、公式ビジュアルからはソワマラケ(44000円)とセットで買わせたろ! という悪魔的な企みをかんじる。何と重ねてもいい仕事しそう。
Orange Smoke
みんな大好きアニックメナード作。同じ調香師作のゲランのボワダルメニとルラボのパチュリ24が好きなので、もうこれは良いに決まってる。2作品とも激スモーキーだし、もはや煙の申し子である彼女が名前にわざわざSMOKEと冠するからには、さぞかし自信作なんだろうと期待がマックス。エンドレスにチェーンスモーク。
ところが、自分の肌では全然スモークしない。オレンジブロッサムが優しく香って終わり。これ34,210円で買うならジャルダンドランジュ1本買えばいいな。
というか、トワレのサイズが200mlってデカすぎないか? 写真だときれいなガラスだなあ~としか思わないんだけど、店頭で見るとレンガ的重量感にビビる。落としたら瓶が割れるよりも先に床が抜ける。
怖くなって「香水200mlって一生使い終わりませんよね…!??」と店員さんに聞いたら、「1年くらいで使い終わる想定です」と言われてマジか感。飲むのか? まあたしかにウォッカの携行缶に似ていなくもない。
しかし、ドリスの映画を見たらなんとなく納得した。ドリスの家の無造作なようで計算された配置の大量のインテリアや、丁寧な暮らしぶりの美しさはイメージ通りだが、とにかくいろんなものがデカい。
まずドリスん家の庭がデカい。100エーカーの森。家に飾るための花を自分で庭から持ってくるんだけど、なんか木を一株持ってきてる。で部屋のドア通らなくてつっかえてるし、活ける花瓶も瓶っていうか壺なんよね。
オフィスもデカ広い。千葉県警並みの陳列術で美しいファブリックが敷き詰められている。私の前職場なんか、4畳半の会議室で常に肩に壁が触れている状態で仕事してたのに……生まれ変わったらドリスが飼ってる犬になってオフィスを駆け回りたい。
そういうわけで、デカい環境で過ごしている人間からすると、30mlとかのボトルだと、美しいものを集めて膨張し続ける宇宙の中で簡単に見失ってしまうのであろう。
店員さんによると「ヴィンテージのボトルをイメージしてデザインされているそうです」とのことで、確かに梅干しとかハブ酒とかに耐えうる丈夫さだが、この実家の床下収納から出土しそうな無骨ボトルを見ても「使い終わったらデイジーを活けたいわ」くらいのバイブスであらねばならない。
というわけで、最終的に選んだのは。
ジャルダン ドゥ ロランジュリー。こういう紙製のぴったりパッケージってゲランもやってたよね。実際はこの上からさらに厚いダンボールで包んであるので、プラスチックレスではあっても本当にエコなのかは謎。
リフィルが2倍量の200mlというのも、使い切るまでに劣化するし……これって消費者のためでも地球のためでもなく、単純に売りやすいってだけじゃね? ボブは訝しんだ。
本体よりもリフィルの容量が多いのって今後のスタンダードになっていくのかな? 使い切ったらリフィルをリピせずハブ酒を漬けます。