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眼科治療の費用対効果

眼科に行くと、様々な医療機器を用いて「診察」や「検査」を行い、医師は診察や検査の「所見」に基づいて「診断」を行い、眼科であれば点眼薬、手術などの「治療」を行います。
「診断」は各種ガイドラインや、診断基準などに従って行われ、その中には、治療として勧められているものが記載されています。

治療効果の定量化指標

ガイドラインや診断基準では、診断根拠となる検査や診察所見、治療効果等は記載されていますが、治療に対する費用対効果が記載されていることは滅多にありません
そこで、眼科分野で治療をすると、支払った費用に対して、どれだけの効果(費用対効果)があるのか、調べてみることにしました。

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眼科的治療の費用対効果について

今回読んだ論文は、2014に掲載された、Current Opinion in Ophthalmology (当時のIF: 2.500)のレビューです。
本レビューは、「価値に基づく医療(value-based medicine)」の費用効用分析(cost–utility analyses)において、医療的な介入が患者さんにとってどの程度の費用対効果(return-on-investment; ROI) があるか分析した内容です。
眼科の治療は点眼や手術など多岐にわたり、代表的なものを挙げると、
・加齢黄斑変性に対する硝子体注射 (ranibizumab)のROI:450%
・白内障手術のROI:4,500%
・開放隅角緑内障の点眼治療のROI:4,000%

となっています。

そもそもの医療費の考え方として、介入に必要な費用であるDirect medical cost(薬代や手技代、検査代など)、Direct nonmedical cost(患者を介護したり、疾患のため発生した新たな生活費など)、Indirect medical cost(患者が眼疾患があることで、収入に影響するコスト)があります。
Direct medical costに関して、全health care costの30.5%は病院に関わるコスト、20.4%は医師に関わるコスト、医薬品代は8.9%と算出されています(National Health & Expenditureより)。
Direct nonmedical costの大部分は、介護者に対する費用ですが、患者さんの良い方の眼の視力が、20/80 = 矯正視力(0.25) 以下になると、direct nonmedical costが跳ね上がることが知られており、20/250 =  矯正視力(0.08) 以下になると、direct nonmedical costが年間58,000USDかかると言われています。これは、視力低下により、生活必需品の購入ができなくなり、住居の清掃や服薬、手紙を読む、生活費を払う、清潔を保つなど、日常生活が送れなくなることからくる費用です。
Indirect medical costに関して、興味深い事にmild vision lossの患者さんは、健常者 (月間収入中央値; 2,724USD)と比較して平均の45%しか収入がなく(月間収入中央値; 2,207USD)、severe vision lossの患者さんは、健常者 (月間収入中央値; 2,724USD)と比較して平均の40.5%しか収入がない(月間収入中央値; 2,564USD)ということがわかりました(中央値と平均値が逆転していてわかりにくいですね)。
これら、Direct medical cost、Direct nonmedical cost、Indirect medical costより費用対効果(ROI)が以下のように計算されます。
新生血管を伴う、加齢黄斑変性に対する硝子体注射 (ranibizumab)のROIは450% (direct medical cost expended/net dollar gain = 230,910/51,303 USD)、
緑内障に対する点眼治療(チモロール1剤のみ)は3,957% (direct medical cost expended/net dollar gain = 436,770/11,039 USD)、
白内障手術(最初の眼)は4,567% (direct medical cost expended/net dollar gain = 121,198/2,653 USD)。

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眼科では、様々な治療を行いますが、治療に対して、どれぐらいの費用対効果があるかを定量的に勉強したことはなく、非常に興味深い論文です。
特に緑内障の点眼治療は、外科的治療ではなく、内科的な処方だけなので、早期発見早期治療に非常に重要と感じました。患者さんから、治療に対してどれぐらい効果があるか?というご質問をいただきますが、費用対効果の側面から説明するのも、これからは大事だなと思い、明日から使える論文内容でした!

Citation

Brown MM, Brown GC, Lieske HB, Lieske PA. Financial return-on-investment of ophthalmic interventions: a new paradigm. Curr Opin Ophthalmol. 2014 May;25(3):171-6. doi: 10.1097/ICU.0000000000000040. PMID: 24638114.

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