市民オペラに参加するということ 6
練習の行われる小学校に行ってみると、3年半前まで何度も通った場所なのに、どこの教室で練習していたのか忘れている。まあ適当に歩いていればわかるかな、と思っていたら、欅の会の会員がやってきた。以前から居た会員だ。私は「よろしくお願いします」と声を掛けたが、相手は私が誰だかわからなかったようだ。それはそうだ。マスクをして顔の大半を隠しているのだから。「今日から参加の方ですか?」と聞かれたので、そうです、と答えて、会場の教室を教えてもらう。
先生の到着が若干遅れておられるらしく、それまでの間、ラジオ体操をやる。前にもそんなことがあったな、と私は思い出す。オペラの練習は、本番直前までピアノ伴奏によって行うのだが、ピアニストがラジオ体操の音楽を生で弾いてくれて体操するのだ。なんとも贅沢なラジオ体操。
そうこうしているうちに先生が到着され、練習が始まる。初めは発声練習。私はもう2年くらい全く歌っていないので、果たして歌えるのか心配になるが、歌えることは歌える。ただし、個人レッスンで教えてもらったとおりに発声できているのかどうかは、かなり怪しい。次回までにいちど、家で発声練習をして、復習してみたほうがいいだろう。
マスクを着用して歌うことについては、意外に問題ないことがわかった。マスクがズレて話にならないんじゃないかと思ったのだが、そうでもない。息を吸わないと歌えないので、マスクをして息を吸い込むのには心理的に抵抗があるが、普段年から年中マスクをしているのだから、もう慣れているのだろう。
発声練習が終わると、「愛の妙薬」の音取りが始まる。音取りというのは、各パートごとに伴奏者がピアノを弾いて、それに合わせて各パートごとに練習することだ。私はパートがソプラノなので、いちばん初めに音取りをする。だから楽譜を初見の状態で歌わないといけない。歌の楽譜なんて単音だし、難しくないのだが、それでも初見で歌詞をつけて間違えることなく歌えるほど、話は簡単ではない。しかし同じ箇所を何度か繰り返し練習するので、そのうち歌えるようになる。人間は、難易度がちょうどいいことに挑戦するときが、もっとも楽しいらしい。簡単すぎることは退屈だし、難しすぎることはやる気になれない。そういう意味では、音取り練習は、私にとってちょうどいい難易度だ。あっという間に時間が過ぎていく。