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閉じきらなかったとびら
ある、昔気質の職人さんとの最後の思い出。
その職人さんのご遺体が安置されている棟に行くには、自動扉を2つ通らなくてはいけない。
扉と扉の間は駐車場につづく中庭のような造りで、外の空気が吸える空間になっている。
扉センサーを避けて、病院内のコンビニで買った缶コーヒーを立ち飲みしていた。
曇天だった空から大粒の雨がぽつぽつと降り始め、強風で桜の花びらが舞い散る。
厳かな気持ちになり、故人に思いを馳せながら空を眺め、またコーヒーを口に運ぼうとしたところ、
ガーっと音がして、コンビニから安置所に向かう1つめの扉が開いた。
缶コーヒーを飲みかけた手を止め、目の端で人の気配を追う。
誰もいない。
静かに締まる扉。
完全に締まることなく、再び扉が開く。
舞い上がる桜の花びらの奥で、ガーっと無機質な音を立ててドアが開き、閉じきる前にまた開く。
まるで、扉のこちらと扉の向こうへの、行ったり来たりを繰り返すように。
開いて閉じかけてを4度繰り返し、扉はぴたりと動きを止め、それ以降は雨と風、桜の花びらの静寂な時間が戻った。
1つ目の扉はプッシュ式なので、コンビニ側から、つまり内側からボタンを押さないと開かない。
内側に、人の姿は無かった。
それとも霊安室側からコンビニ側へとすり抜けて、律儀にも正面玄関をくぐって外に出ようとしていたのだろうか。
生前は冗談ばかり言っているひとだった。
きっぱりした性格のひとだった。
迷いのない人生を送ったひとだろうと思うのだけれど、残していくひとたちに、去っていくこの世に一筋の心残りがあったのだろうか。
この季節が廻り、桜の花を見るたびに、思い出すだろうと思う。
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