青森ねぶた新時代ー2023青森ねぶた振り返り
今年の青森ねぶたは明るい話題ばかりだった。
・4年ぶり“フルスペック”開催
・プロクレア参入、2001年以来の23台出陣
世代的に、ずっと22台で育ってきたのでまさか23台になる年が来るとは思っていなかった。運行の関係で22台からは増やさないとも聞いていたし、コロナ禍で出陣しなかった団体がこのまま撤退もあるのでは…と危惧していただけにこのニュースは驚いたし、これまでの団体も全て揃うのが嬉しかった。
・新人ねぶた師3名デビュー
これも驚きである。同じ年に3人のデビューが重なるのは史上初。しかも全員違う流派というのもポイント。メディアでもしっかり取材されていたが、経歴や表現の仕方は三者三様だが、ねぶたへの想いは共通していた。
・第七代名人竹浪比呂央誕生
4月27日、突然飛び込んできたニュース。史上7人目、実に11年ぶりの名人誕生。竹浪先生は大型制作歴30年以上、大賞/最優秀7回以上、後継者輩出といずれの基準も満たしており、さらに製作委員長やコロナ禍での鍾馗百図の取り組みなど、千葉作龍名人に代わりねぶた界を牽引してきた。あとはどのタイミングでなのか…と思っていたが、おそらく野村先生のデビューが決まったこともあっての今回の顕彰なのだろう。次の名人は当分先になることでしょう…。
さて、そんな明るい話題が多かった今年はまさに「青森ねぶた新時代」スタートの年と言えるだろう。
そしてこれからの新時代がどんなねぶた造形の流れになっていくのか。
今年の審査結果が、今後の青森ねぶたの舵取りを担うことになるだろうと私は考えていた。
〜〜〜〜〜
近年の青森ねぶたのトレンドは『豪華絢爛』であった。2007年の「聖人 聖徳太子」(北村隆作)や2009年の「水滸伝 樊瑞、公孫勝に挑む」(北村蓮明作)など、大胆な背景や周りを囲む水や炎や龍などの装飾をできる限り凝縮した作品が上位を占めるようになった。
しかし、流行は回るものである。令和に入り、世の中ではレトロブームが到来。ファッションも90年代前半のリバイバルが流行。ねぶたの世界においても例外ではなく、「昭和のねぶたを想起させるような、人物本位のねぶたを」という動きが出つつある。
その筆頭が竹浪比呂央名人である。
テレビのインタビューでは「昔のねぶたに表現を戻すと言いますか、そういうことに今回あえて挑戦しています」と発言している。
一方で、これまでの豪華絢爛を極める路線が北村流派の先生達。特に北村春一先生は「雷を放つ半面半鬼」「インドの祝舞」とこれまでになかった表現を開拓。見るものを圧巻するねぶたを制作した。
〜〜〜〜〜
そして審査の結果。
竹浪名人がワンツートップ。
春一先生は3位4位。
そしてデビューの野村昂史先生が5位で優秀制作者賞受賞の快挙達成。
(以上、制作点の順位)
竹浪名人の「牛頭天王」(青森菱友会)は燃えるような赤の牛頭天王の力強さが見るたびに増していく傑作。また「強弓 島の為朝」(JRねぶた実行プロジェクト)も昭和期のねぶたを想起させる通泣かせの作品。
そして今年デビューの竹浪名人の弟子・野村昂史さんも赤が映える力強い不動明王を造形し、デビュー作にして優秀制作者賞を受賞する快挙に至った。
一方で北村春一さんのねぶたもますます造形の精緻を極め、インドの世界観、人から鬼へと変貌する瞬間を描き出し、ねぶたの可能性を更に拡充させた。
表彰式では、成田敏審査委員長より竹浪名人のねぶたに対して、以下のような発言があった。
この発言からも、今後は人物の迫力を重視した流れが来るのではないかと思われる。一方で、北村春一さんのねぶたが次点になったことからも、まだまだ豪華絢爛路線も続いていくだろう。
なお、今回のねぶた大賞受賞により、竹浪比呂央名人は佐藤伝蔵名人以来史上2例目の最高賞4連覇達成。青森菱友会はJRねぶた実行プロジェクト以来の団体4連覇達成。同一団体・同一制作者による最高賞4連覇は史上初の快挙。
これからの「青森ねぶた新時代」がどのように進んでいくか、今から来年のねぶたが楽しみである。