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仙人との猥談「角打ちピエロ」

30超えるとクリスマスに一人で町をぶらつくことそのものに大した抵抗はなくなり、それより寧ろ大晦日や正月に私と同世代ぐらいの男が奥さんと幼子を連れて買い物をしている光景の方が、ずっと胸にくるようになります。

生まれた年代だけは近いですが、別々の親に育てられ、別々の教育を受け、別々の恋愛をして、その積もりに積もった結果が如実に現れるのが大晦日、正月の買い物と言えるでしょう。


親戚の集まりなんかで「お前いつ奥さん連れてくるんだよ~」とイジられた20代と異なり、「あいつホモなのでは」と後ろ指を刺されだし、挙句の果てには「サウナに一緒に言った時のあいつの目つきはおかしかった」だの「一緒にキャバクラ行った時も女の子とじゃなくて俺にばかり話しかけてきた」だの噂される始末です。


そんな寂しい中年男性でも孤独感を抱くこと無く安く酒を楽しめる角打ちが新大久保にあるとの情報を得たので、早速足を運んでみました。


新宿駅から少し歩くと大久保公園という都内屈指の売春スポットが存在します。

一時は未成年者を含む多数の若い女性がスマホ片手に突っ立って、おじさんが「遊べる?」と声をかける光景がいたるところで目撃されていましたが、2024年後半に一斉検挙があり、多数の助平おじさんがパクられ、不良少女が補導。現在は勢いを取り戻しつつあるとはいえ、どこか寂しい絵面です。


件の角打ちは大久保公園から徒歩数十秒という好立地に堂々と佇んでおりました。

角打ち(かくうち)とは一般的に、店で買った酒を店内で飲める酒屋のことで、通常の居酒屋のように席料とかお通しとか、そういうシステムがございません。アテは店で売っているチータラや駄菓子などを定価で買って、用意されたスペースで楽しむことが出来ます。


店内に足を踏み入れると女性店員が「いらっしゃい」と出迎えてくれました。氷結とサラミと謎の饅頭を購入し「ここで飲んでいいですか?」とカウンターを指さしたら「…はぁ。どうぞ」と、女性店員にあからさまに嫌な顔をされました。

いきなり強めな先制攻撃を受け、居心地が最悪になったので外の喫煙スペースで立ち飲みを開始。そこにはハリポタのハグリットを少し不潔にして薄毛にした、年齢不詳の落ち武者が紙タバコを咥えながら、仙人のように佇んでいました。

面食らったのが、落ち武者は人差し指の第2関節ぐらいまで穴に突っ込んで鼻クソをほじっていたのですが、ヒゲのせいでそう見えたのか、単純な人体の不思議なのかは定かではありません。


この喫煙スペースは店のスペースでもあるので、何かしらの酒を購入するのが暗黙の了解となっているのでしょうが、この仙人は鼻くそとタバコ以外手ぶらでございます。しかしこれだけ堂々とタバコを吸い続けることができるのはおかしい、まさかこの仙人は自分にしか見えていないのではないか、と怖くなりました。


「えみ子、今日いねえなあ」


仙人が大久保公園の立ちんぼロードを見つめながら呟きました。

面白そうだったのでお話を伺うと水を得た魚のように語ってくれました。


この辺に立ってる女は全員抱いた、えみ子は名器だ、あの子はいくら、あの子は値切れる、あれは中国人、いや韓国だったかな、あれはチンポがついてる、と立ってる女性の詳細をラップバトル並の早口でまくしたてます。


「兄ちゃんはどの子がいい」「あの子がタイプです」「ありゃやめとけ。すぐ帰ろうとするぞ」と思ったより話が盛り上がり「よかったら何か飲みます?」「黒霧頼むわ」と酒を奢ってしまうぐらい私も楽しんでしまいました。


その後、酒、風俗、政治の話を4巡ぐらいして、最終的に「小池百合子と安倍昭恵のどっちとヤリたいか」というテーマが会話がピークになったあたりで、落ち武者は「そろそろ夕飯だ。嫁はメシに遅れると怒る」と呟き急にドロン。


既婚者だったんかいという驚きと、あんなんで幸せな家庭を築けるのに俺は一体、という虚無感に包まれながら帰路につきました。

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