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おしみんまる×渕野右登【ぼうけんのしょをけしますか?】

【 ぼうけんのしょをけしますか? 】 

作 羽鳥愛美







【 人物設定 】

【 ゲームの中のふたり 】
はる(一応ゲーム名) おしみんまる

男性。ゲームがめちゃくちゃ上手

みつき(一応ゲーム名) 渕野右登
男性。あんまりゲームがうまくない



【 現実のふたり 】
はる(27) おしみんまる・女性

仕事も順調、特にこれまで重い病気にもかかったことない。
数年前までなんともなかったけれどここ最近調子が悪く検査に行くと急遽入院することに。
病名不明・治すことが不可能な難病と診断され余命わずかと言われている。ゲームをやっている時は元気でいられる、素の自分を隠せるよりどころとしている。

みつき(25) 渕野右登・女
大学まで順調に卒業したけれど、流れ流れて今の仕事をしているOL。
仕事にこだわりはない、なんとなく今の仕事をしている。
言われてことをやるのは得意。
ゲームをやっている自分は好き、どんな自分にもなれるから楽しい。








【 本編 】

【 ゲームパート 】

みつき「うわー、またやられたー」

はる 「よわすぎ。何回ここで死んでるの?」

みつき「このボスが、強すぎる」

はる 「いや、みつきが学ばなすぎる。このボスは毎回こうやって横から出てくるのがわかっているんだから一度引くモーションから剣を出してそのまま前にでて剣を振りかざすって、キャラコンが必要なの、わかる?」

みつき「すいません…」

はる 「いや、謝るならちゃんとやって、ね。何回ここやればいいと思ってるわけ?」

みつき「はい、すいません…」

はる 「あのね、僕はレベルを落としていいって言ったよね?このボスじゃまだみつきには強すぎるから、階層を落として今のレベルに合わせたところに、そこである程度操作に慣れてから、そのレベルになってはじめて今のボスに挑めばいいって。ねえ!!??」

みつき「はい、そういわれました」

はる 「ねえ!!!???」

みつき「はい、すいません」

はる 「ねえええ!!!!!!???????」

みつき「ゲームでガチ切れじゃん、超こわ…」

はる 「(おばさんの説教みたいなイメージ)
いや、あのね。こういうこと言うの、違うと思うけど。ゲームの中でちゃんとできないやつは、現実でも何もできないよ。だいたい今の若者は、若いっていうのを武器になんでも無鉄砲に挑戦すればいいと思っているんだけど、無鉄砲にやって自分じゃなくて人様にも迷惑かけてたら、それはただの邪魔。こっちに迷惑になるわけ?わかる?」

みづき「すいません…」

はる 「あとさ、なんで、直前でセーブ忘れた?」

みづき「すいません…」

はる 「セーブはこまめにしないと…。ちゃんと分岐で、やりなおせるようにしておかないとさ。」

みづき「つい忘れてまして…」

はる 「つい!?ついで、許されると思ってるわけ?みづき、正直さ、ゲームがうまいわけじゃないよね?だったらなおのことじゃない?そういう細かいところ、忘れちゃだめだよね?」

みつき「すいません…本当に。……あのさ…ちなみに、はるって20代?」

はる 「え…?(口ごもる)…う、うん…」

みつき「絶対うそじゃん、その感じ。なんか言葉遣いが、年を感じるというか…どう考えたって、
( 実際に横にいるおしみさんの容姿をいじる感じ )
40代後半の中年男性で、中肉中背って感じの、おじさんって感じで、知らないけどなんかちょっと主張が激しめのめがねをかけてそうだし、元々同じ大学の知り合いとコンビ組んでいてコントの賞レースじゃ結構いいところいっていてなんかよくわからないけどいつのまにかピン芸人とかになってよくわからない、芸名つけてそうだし」

はる 「(後半のセリフ食い込むぐらいで)ねえ!!!????」

みつき「…」

はる 「なんか、ゲームの中とかじゃなくて完全に僕の見た目、みているみたいなこと言ってない?しかも、元々同じ大学の知り合いとコンビ組んでいてって、どうやってわかるんだよ。ゲームの中だけなのに、ゲームのプレイスタイルだけでその人が、元々知り合いとコンビ組んでいてって情報を読み取れるんだよ。逆にすごいよ、君の見立て…」

みつき「でも、だいたいあってるでしょ?」

はる 「(一度返答迷う)うん?いーーや、あってないから!!」

みつき「迷ってるじゃん、図星じゃん!」

はる 「うるせ!」

みつき「いいから、もう1回、あのボス倒しに行こう。もう1回はじめから」

はる 「今日はもういいや、また明日にしよう。」

みつき「えーーー、まだいいじゃん」

はる 「なんか、疲れちゃった…」

みつき「まだ10時なのに?」

はる 「また明日、明日また8時にね」

みつき「わかったよ、それまでに風呂入って寝る準備して、ばっちり用意しておく」

はる 「(ちょっと意味深に)う、うん…」

みつき「じゃあ、おやすみ」

はる 「おやすみ」


みつき「(語り)
ぼくとはるは、毎日夜の8時にネットでロールプレイのゲームをしている。僕はけっこうへたくそだけど、彼はけっこううまい。いろんなゲームを一緒にやったけど、どんなゲームもそつなくこなす。休みの日には1日中ずーっと同じゲームを、ずーーっとずーーっと一緒にやっていたりもした。ちょっと前まで。ここ最近、いつも疲れたと言って早めに終わる。3時間、2時間と、短くなるとともに、毎日はゲームをすることはなくなった。この日は無理だとか先に言ってくれればいいが、何も言わずゲームにログインしてこない日もある。でもぼくたちはお互いチャットでしか会話をしたことないし、もちろん連絡先なんてしらない。だからチャットで呼びかけても、彼から連絡がないと僕は待つことしかできない。
ただある日、彼からこんなチャットが来た。
会って話したい事がある、明日の夜11時にここに来てくれないかと。
おお、今っぽいと最初に思った。ゲームのチャットで、それでしか話したことない人と実際に出会うのかと。でも僕はなんだか、会わないといけないと思った。ネットでしか話したことがない人と会う怖いという感情より、なんか会わないといけないと思った。こんな時間にとか、そんな感情はなかった。そして僕は、彼に指定された場所に、行くことにした。

その場所は………


701号室、とある病院の病室だった」



【 現実パート 】

はる 「ごめん、こんな時間に…」

みつき「あのさ」

はる 「うん」

みつき「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、その前に聞きたい事があって」

はる 「いいよ、なんでも答えるよ」

みつき「はるって」

はる 「うん」

みつき「女の子?」

はる 「そうだよ」

みつき「まじ?」

はる 「みつきもそうじゃん。びっくりした」

みつき「ごめん。ゲームの中だから、嘘ついてた…」

はる 「私も人の事言えないけど」

みつき「お互いに女の子だったんだね、びっくりした…」

はる 「名前って」

みつき「わたしは本名だよ、みつきって。男の人でもそういう名前の人いるから、行けるかなって思って。ゲームキャラっぽい名前だし、けっこう気に入ってる」

はる 「私もそうだよ、はるって。私4月生まれで、お母さんが夏生まれで夏子だから、娘にも季節の名前を付けたって。
(可愛く)でもどうせなら、【さくらこ】とかにしてほしかったな…」

みつき「(ツッコミっぽいテンション感で、わざとらしく)いや無理がありすぎるだろ!!」

はる 「え?」

みつき「え?」

はる 「え??」

みつき「え??」

はる 「え!?」

みつき「え!?」

はる 「みつき…」

みつき「うん?」

はる 「それはダメだ。人の名前にどうこういうのは、ダメ。」

みつき「いや、ボケたのかと思ったんだけど」

はる 「いや、大真面目なんだけど…」

みつき「(きまずそうに)あ、あああー…ごめん、ごめん、悪気は全くないよ。ごめんごめん。なんか最近ツッコミ癖みたいなの、できちゃったのかなー、はは、はははは…」

はる 「なんかでも、はるって感じする。ゲームの中で感じた、優しくてでも時々出ちゃう素の天然な感じというか、真面目な感じというか…」

みつき「そっか。なんか、ならよかった」

はる 「うん、私もそんな【みつき】でいてくれてよかった…」




みつき「あのさ」

はる 「うん…」

みつき「なんで、ここに私を呼んだのか、聞いてもいいかな。」

はる 「そう、だよね。ごめんごめん」

みつき「なんか、病院ってこんな時間でも自由に入れるんだね、
個室だから?セキュリティー激アマって思っちゃったけど…」

はる 「うん、それは私、だからかな」

みつき「うん?」

はる 「あのね…結論から言うとね………………私、もう死ぬの」

みつき「え?」

はる 「うん、年内はもたないって言われてる。なんかよくわからないけど、どんなに頑張ってもこれ以上よくはならないんだって。手術もしたし薬もたくさん飲んだけど、もう無理なんだって。年内って今日が7月30日だから8、9、10、11、12月って5カ月しかないけど、まあ5カ月あるからいろいろ準備していけば間に合うかなと思って。お医者さんにはね、病院で治療受け続けてもいいし、緩和ケアって言って、痛みを、より苦しくないように楽にすごす治療法もしていいからって言われてるから、家に帰ってもいいって。でも家に帰ったところで私1人暮らしだし、両親に迷惑かけたくもないから、病院にいればまあ面倒みてくれるし。いいかなーとは思ってるけど」

みつき「(かなり小さく)待って。」

はる 「こんな夏の暑い日に、家に帰ったって暑いだけだし、病院にいればさ、クーラーガンガンで、家にいる時よりなんだかんだ快適だなって。
知ってた?病院って水・お茶・お湯はタダで飲めるマシーンがあるんだよ、売店まで買いに行けない人もいるから、最低限そこらへんはサービスとしてあるんだって。」

みつき「(小さく)待って。」

はる 「ちょっと前さ、けっこう頻繁にゲームしてたじゃない?1日中やってる、なんて時もあってよねー。あの時はね、一時的に外泊が大丈夫だったから家に帰ったの。でもやることないから、結局ゲーム。平日は8時まで待ってればみつきが来てくれて。でも急に体調悪くなってさ、入院とかなるとさ、ちょっと時間の感覚取り戻せなくて、自分の体調もその日その日に変わるからさ。出来たりできなかったりをずっとずっと繰り返している感じでさ」

みつき「(前のセリフ食い込むぐらいで)待ってってば!!!!!」

はる 「…」

みつき「私にも話させて」

はる 「無理」

みつき「なんで?」

はる 「話すのをやめたら、私泣いちゃう…初対面であった人の前で、泣きたくない。無理、いやだよ」

みつき「今更いいじゃん、こうやって話てくれたわけだし」

はる 「この話、信じるの?私全部うそばっかり羅列して言ってるだけかもしれないのに」

みつき「うん、【はる】ってうそつけないって私も普段から知ってるし。なんか私にだからこんな話をしてくれている気もするから、信じる。本当は、動揺したのを抑えきれないくらいには、驚きはしたけど、うん。信じる。
つらいだろうに、話してくれて、ありがとう。」

はる 「うん…うん…うん…うん…うん…」

みつき「なに?」

はる 「ううん、みつきをここによんでよかった、私の見立ては間違ってなかったなって、本当にそう思っているよ…」

みつき「なんか、よかった。私も、ここに来るかすっごく迷ったけど、来てよかった。はるにちゃんと会えてよかった」

はる 「それでね、本題として私が言いたい事はね、」

みつき「何?」

はる 「みつきは、私が死にたいと思った時に死んでもいいと思う?それでも頑張って生きた方がいいと思う?」

みつき「え?」

はる 「今はいいよ、君にこの2択を選んでもらいたいし、君の選択が聞きたい」

みつき「…」

はる 「君は素直だね、こういう時人は、頑張ってでも生きた方がいいって言うと思うよ。死んでいい、なんていえないよ。普通。君は私のことをちゃんと考えて、思ってくれて発言しようとしてる。だから、すぐに発言しないんだね」

みつき「…」

はる 「私、自分のことだからなんとなくわかるんだけど、もう動けなくなると思う。今はまだこうやって話せるけど、なんか疲れたーって思う時もあるから。自分の身体がだんだん自分で制御きかなくなっている感じというか…無理しない程度に、また私に会いに来てくれたら嬉しい」

みつき「わかった。また来る、次は昼間にちゃんと来る




みつき「(語り)
毎日ちょっとの時間でも彼女に会いに来ていた、面会時間のギリギリまで話して、帰るのを頻繁に繰り返した。彼女と、もっともっともっと話せる。当たり前に、そう思っていた。年内って今はまだ8月だから、先だろうと思っていたけど、2週間もしないうちに、彼女は全く別人のようになっていた。」


はる 「(話すのが苦しそうな感じ)あり、がとう…今日も…来てくれて」

みつき「(わざとらしく、元気な感じで)いいよー、今日も暑いよ、まじで今年の夏、乗り切れる気しない」

はる 「そとは…そんな、に…あつい、んだね…」

みつき「40度とかなったら、自分の体温より暑いよ…もう無理だよそんなのね」

はる 「う、ん…そう、だね…」

みつき「話すの苦しい?」

はる 「…ちょっと。でも、はな、し、たい、みつき、と」

みつき「いいよ、うなずくだけでも、首降るだけでも。」

はる 「(うなずく)」


みつき「(語り)
そこからの日々、はるは、眼はこっちをみているけど、声を発するのが苦しそうだった。なにがなんだかよくわからないけど、点滴やら、管やら、いろんなものが彼女の周りに、埋め尽くされるようになった。よくわからない色の薬がたくさん彼女の周りにあった。次第に彼女は、わかりやすく元気がなくなっていった。」


はる 「(頑張って目を見て話そうと首を傾ける、でも首を動かすのがつらそう)」

みつき「いいよ無理しなくて」

はる 「(うなずき、目を閉じる)」

みつき「寝ちゃってていいよ、私もう今日はそろそろ帰るから、また明日来るから。明日は、はるが好きそうなアイスでも買ってくるから、ね?」


●立ち上がり帰ろうとした時


はる 「…まって」

みつき「(振り向いて)うん?どうした、なんか飲む?」

はる 「…ち、がう…」

みつき「なんだ?なんか取って欲しい?暑い?うちわであおぐ?タオル交換する?」

はる 「(首を横に振る)」

みつき「どうした?話せる?」

はる 「(うなずく)……………いま、きみに、選択、して、ほしい」

みつき「え?なんのこと?」

はる 「…くるしい、しんどい、いたい、つらいよ……。だから、もう死にたい…。死にたい…。君は、どう、選、択、する?」


みつき「(語り)私はこの時、思い出した。前に彼女が言ってた。」


( 回想パート )

はる 「みつきは、私が死にたいと思った時に死んでもいいと思う?それでも頑張って生きた方がいいと思う?」

みつき「え?」

はる 「今はいいよ、君にこの2択を選んでもらいたい、君の選択が聞きたい」

みつき「…」


みつき「(語り)
私は、この時のことを聞かれたのだと理解した。だから私は選んだ…」



【 選択パート 】

A 苦しそうな君が望むなら「死んでもいい」と優しく言う

B それでも「生きなきゃダメだ」と励ます



【 A・苦しそうな君が望むなら「死んでもいい」と優しく言う 】
選択の場合

みつき「私は、そんなきれいごとは言えない。苦しいさや辛さの度合いをそんな世の中の当たり前の尺度で、いうことはできないよ。君が望むなら、私はこういう。死にたいなら、死んでもいい。」

はる 「…あり、が、とう。きみなら、そう、いってくれる、とおも、った、よ」

みつき「でも、本当は、君とまだ一緒にいたいという私の気持ちもあるんだからね。」

はる 「(微笑む)」


みつき語り
「その日から2日後……彼女は死んだ。
私は「死んでもいい」なんてことを言いながらも、今の医学であれば病気は治るとも思っていた。でも治らなかった。死んでもいいといいながらも、まだ彼女は生きてくれるだろう、なんて甘い考えを持っていた。医者は神様でどんな病気も治してくれるだろうと勝手に思っていた。でも違う、医者も神様ではなく人間なのだと。

そんな医者に対して、一瞬でも怒りをぶつけてやろうかと思った自分が、
ばかなやつだったな、と後から思えた。私はたぶん、一瞬でもこの医者という名の神に、すがろうとしたのかもしれない。

でもそんな私は、一番無知で無力な人間なのだろう…

【 ぼうけんのしょをけしますか? 】

みつき語り
「その日から幾年が経ち私は今、最後にみた彼女のほほえんだ顔を思い出し、止まらない涙を、止めようともせずこの文章を書いている。
人にみせるのだろうか?いや、みせたくない。
いつかこのお話がお芝居になったりするだろうか?いや、ならない。だろう…。そんな妄想を、ここに書き記して置く。

あの時、2人でゲームをやっていた時、ぼうけんのしょがきえ、物語をやりなおせたように、私の記憶もゲームのように消えてやりなおせたら、いいなと思う。当たり前であるが、そんなことはできもしない。
それは、私が生きている。その限り…(微笑む)」


【 ぼうけんのしょはきえました 】


【 Aパート完 】




【 B・それでも「生きなきゃダメだ」と励ます 】
選択の場合

みつき「君は、可能性を信じないの?生きている限り、どんな可能性が起こるかなんて誰もわからない。だから、どんなにつらくても頑張って欲しい。そんな私の望みだけを君にぶつけてはダメかな…?」

はる 「………もう、じゅうぶ、ん、がんばった、よ…これいじょ、う、つらいのに、がんば、らない、と、だめ?つかれた、くるしい、つらい、しんどい、いたいよ…」


みつき「(語り)彼女の発言に、私は言葉がでてこなかった。ただただ自分の目からこぼれるものは、悲しみといううより悔しさを体現化するような涙だったのかもしれない…」

【 ぼうけんのしょをけしますか? 】


みつき「(語り)
ゲームのデータは、消せばなくなる。まっさらな状態になる。自分の人生において、記憶というデータを消せたらいいのに、と思ったことがある。当たり前ではあるが、消すことはできない。
消せない記憶と、私は向き合って、それでも生きていかなければならない。あの会話をして以来、彼女は目を覚まさない。話しかけても答えはない。
いつ目を覚ますかなんて、誰もわからない。しかし私は、私の望みを彼女にぶつけた自分に対して、向き合わなければならない……
目を覚まさない彼女から、私は目をそらしてはならない…」

【 ぼうけんのしょはけせません 】

【 Bパート完 】


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