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AIと書く短編小説「海坊主」

 父は毎週末ひとりで釣り道具を手にし、防波堤へ向かい海釣りをすることを趣味にしていた。私は父と子供の頃に一緒に釣りをした楽しい記憶がある一方で、父の不思議な話は心の奥に不安を抱かせた。

 その晩、父はいつものように防波堤で釣りをしていた。22時頃までは、周囲に人影がちらほら見えていたが、時間が経つにつれて、釣り人たちは次第に帰っていった。静寂が海を包み、波の音だけが響いていた。月明かりが水面にきらめき、父はバケツ一杯、魚がたくさん釣れることに心を躍らせていた。

 しかし、父はその晩、何かがいつもとは違うことに気づいていた。周りの静けさが不気味に感じられ、風が冷たく体を包み込む。ふと、後ろから声をかけられた。

「魚は釣れていますか?」

 振り返った父の目に映ったのは、初老の男性だった。白髪交じりで、顔には優しそうな笑みを浮かべていた。しかし、父がその人を見上げた瞬間、彼の下半身が透けていることに気づいた。まるで、海の中にいるかのように、足元が消えていたのだ。

 恐怖が父の心を締め付けた。言葉にすることもできず、ただその場から逃げ出したかった。男性の笑顔が、まるで悪戯っぽい子供のように見えた。思わず後ずさりし、近くにあった古びた納屋に飛び込んだ。

 納屋の中は暗く、ほこりをかぶった道具が無造作に置かれていた。父は心臓がバクバクと音を立てるのを感じながら、壁に背を寄せ見つからないように息を潜めた。静寂の中、耳を澄ませば、外からは波の音とともに、男性の声がかすかに聞こえてくる。「魚は釣れていますか…」と繰り返すその声は、まるで海の中で響いているようだった。

 時間が経つにつれ、恐怖は冷静さに変わった。しかし、どうしてあの男性は下半身が透けていたのか、そしてなぜ自分に声をかけてきたのか。父はその疑問が頭を離れず、心の中で渦巻く思いをどうすることもできなかった。

 明け方になると波の音も穏やかになり、外の世界は静寂に包まれた。父はいつの間にか眠ってしまったようで、恐る恐る納屋の扉を開け外の様子を伺った。  
 朝日は昇り始め海面がきらめいていた。しかし、心の中に残る不安は消えなかった。

「釣った魚はどうなっただろうか」

 バケツの中を覗きにいくと釣ったはずの魚が1匹も入っていなかった。

「いったい、何が起こっているんだ…」

 父が呆然と立ち尽くしていると「魚は釣れていますか?」その声が再び響いた。驚いて振り返ると今度は、朝から釣りに来ている男性だった。「はい、たくさん釣れていたはずなのですけどね。」

すると、釣りに来た男性が「おや、夜中に海坊主に会いましたか。釣れ過ぎるときは魚を海に返さないと出てきますよね。」

 それを聞いて、父は心の中の恐怖が薄れていくのを感じた。なんだか昔話の海坊主と似ている。防波堤なので柄杓で船を沈めることはないが、魚を釣るのが好きで海で亡くなった人なのだろう。

 そして、その晩の出来事は、父にとって特別な思い出として刻まれることになった。

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