米国不動産鑑定士(MAI)#1
まえがき
皆さんが気になるのは「ライセンスの取得方法」や「必要となる英語力」等の試験に関する情報だと思いますが、その前に、まずはそもそも「米国不動産鑑定士(MAI:Member, Appraisal Institute)」、「米国不動産鑑定士協会(AI:Appraisal Institute)」とは何ぞや?という点について書いていきたいと思います。この辺りは特に興味の無い方も多いと思いますが、そもそも論も一応は触れておいた方が良いと思いましたので、少々お付き合いくださいませ。
米国鑑定評価基準の策定主体
まず、米国では不動産評価に限らず、資産評価の大枠として民間非営利の8評価団体から構成される「鑑定財団(TAF:The Appraisal Foundation)」といわれる組織が存在しておりまして、当該財団が自主規制として「米国鑑定業務統一基準(USPAP:Uniform Standards of Professional Appraisal Practice)」を策定、公表のうえ運用しています。また、TAF は、「鑑定基準委員会(ASB:The Appraisal Standards Board)」 と「鑑定士資格委員会 (AQB:The Appraiser Qualifications Board)」 の2つの部門を通じて業務を行っており、AQB は鑑定士免許の最低要件を定めており、ASB は USPAP を管理し、偶数年の 1 月に更新版を発行しています。
基準(USPAP)の対象
ところで、USPAP の対象となる資産は何も不動産に限ったことはなく、機械設備等の動産、企業、美術品、宝石等を対象とする評価等もその範囲に含まれてきます。なお、日本と同様に評価自体は鑑定人以外の者によっても広く行われますが、USPAP が対象とする鑑定評価は「鑑定人として、専門能力に基づき、外部から独立して、公正中立に、客観的事実に基づいた鑑定評価を行うこと」が期待されています。また、連邦政府、金融機関等が関わる一定の不動産金融取引には「州のライセンス」を持つ鑑定人の評価が必須とされています。ちなみに、米国の不動産鑑定評価書では、末尾の付録(Appendices)の一部に(CV:Curriculum vitae) として州のライセンスの写しや評価人の写真、経歴が添付されていることがよくあります。欧州、中国の評価書でも評価会社によっては添付されていますが、東南アジアは付いていないことが多い気がします。日本でも取り入れても良いのではないかと思います。
不動産評価に関するライセンス
さて、不動産評価に関する米国のライセンスには「州資格」と「民間資格」が併存しており、一定の不動産鑑定評価業務を実施するためには州認可又は州認定のライセンスを保有していなければなりません。これから説明する「米国不動産鑑定士(MAI:Member, Appraisal Institute)」は民間資格ではありますが、不動産鑑定士としての権威付けの意義があります。州のライセンスが「運転免許」だとすると、MAI は「ゴールド免許」で、より Prestigious な印象があるのではないかと感じています。参考までに、米国では評価専門家のうち「8%」が AI Designation を受けているようです。この数字をどう解釈して良いかは分かりませんが。なお、USPAP は不動産以外の資産についても規定していると記載しましたが、動産、機械・設備、事業評価については「米国資産評価士(ASA:American Society of Appsaisers)」というライセンスがあります。日本では動産評価に関する資格が無いため、こちらを日本人で取得されて動産評価等の分野でご活躍されている方もいらっしゃるようです。私は ASA を保有していないため詳細は不明ですが、MAI を保有する日本人の数よりは圧倒的に多そうな印象です。
米国不動産鑑定士協会(AI)とは
話を不動産評価の世界に戻しますと、米国では不動産評価の専門団体として AI(Appraisal Institute)が存在することは先ほども触れた通りですが、AI とは「世界約 50か国に 約16,000 人を超えるプロフェッショナルを擁する世界的な不動産評価の専門家協会」になります。私もそのうちの1人です。1991年1月に前身となる「米国不動産鑑定士協会(AIREA:American Institute of Real Estate Appraisers)」 と「住宅鑑定士協会(SRA: Society of Real Estate Appraisers)」が合併して設立された経緯があり、AIREA と SRA はそれぞれ1932年と1935年に設立されています。従いまして、前身から起算すると今年で約90年近い歴史を有する協会という位置付けになります。日本の不動産鑑定協会は1965年10月1日の設立とのことで、当然ながら米国の方が歴史としては長いということですね。
米国不動産鑑定士(MAI)とは
ようやくここまで辿り着きましたが、上記 AI が認定しているライセンスの中に日本人に馴染みの深い MAI があります。その他、SRPA、SRA、AI-GRS、AI-RRS、SREA、RM もありますが、これらは「住宅専門」だとか、「レビュー専門」だとか、より細分化した一部の業務についてのライセンスとなります。日本人の場合は、現地で実際に住宅評価を実施したりするのではなく、自己研鑽、英語学習、権威付けの為に取得するケースがほとんどかと思われますので、以降は AI の認定するライセンスの中でも「全般上位」として位置付けられる MAI に限定して話を進めていきたいと思います。
あとがき
長らくお付き合い頂きましてありがとうございました。それでは、次回の投稿から MAI を取得するための具体的なプロセス、内容等についてご紹介していきたいと思います。
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