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【参考】鬼来迎(きらいごう)
千葉県横芝光町の鬼来迎は、毎年8月16日に広済寺境内にて披露される。
国の重要無形民俗文化財に指定されているだけでなく、仏教劇(地獄芝居)としても大変珍しいことから、毎年多くの観客が会場を訪れている。
今回は2023年に取材した内容をもとに、鬼来迎の概要や見どころについてお伝えする。
■鬼来迎とは何か■
鬼来迎は虫生(むしょう)地区の町民によって演じられる仏教劇で、演者が鬼の面をかぶることから「鬼舞」とも呼ばれる。
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現在では使われなくなった面も多数存在する
由来は鎌倉時代にまでさかのぼる。
石置(せきおく)という名の禅僧がこの地を訪れた折り、妙西信女という娘の霊が地獄の鬼に責められる夢を見た。
霊はこの地の領主・椎名安芸守の一人娘であった。
話を聞いた安芸守は自らの悪行を悔いて広西寺(現在の広済寺)を建立。
菩提を弔ったところ、娘の霊は菩薩に救われたという。
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舞台は画面右側
舞台前に観客席が置かれ、報道陣のカメラスペースは後方(画面左)
石置は地獄の呵責と菩薩による救済を来世に残して大衆の教化をはかるべく、鬼の面を作って僧徒とともに演じてみせた。
これが鬼来迎のはじまりだといわれている。
■現在の構成■
仏教における因果応報の理を説き、大衆を教化する。
鬼来迎はそのための地獄劇でもあり、その構成は、
・地獄の責苦(四段)→大序、賽の河原、釜入れ、死出の山
・広済寺建立縁起(三段)→和尚道行、墓参、和尚物語
の組み合わせからなり、上演は約1時間30分。
ただし現在は広済寺建立縁起が省略され、約1時間の上演となっている。
それでは鬼来迎の様子をダイジェストで見ていこう。
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死面をつけた亡者が舞台の四方に塩をまく
大序
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倶生神は人の一生の善悪を記録し、閻魔大王に報告する
ここで劇はいったん中断し、幼児の虫封じが行われる。
鬼婆が幼児を抱くことで悪い虫がつかないようにするまじないである。
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後ろの閻魔大王があわてているようにも見える(笑)
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倶生神が罪状を読み上げ、二鬼が亡者を連れ去る
(亡者は白装束姿でうずくまっている)
賽の河原
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一重積んでは父のため、二重積んでは母のため
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そこへ地蔵があらわれて鬼たちを追い払う
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釜入れ
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「黒公ゆだったぞ」
「首でも切って喰らおうか」
死出の山
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そこへ観音菩薩があらわれる
(亡者は観音菩薩の足下に這いつくばっている)
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黒鬼「そもそもこの罪人と言っぱ」
赤鬼「娑婆国中の大悪人なり」
などの問答が続く
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画面右手に卒塔婆が現れる
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一人残った黒鬼は卒塔婆を引き抜く
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さては成仏いたせしか」
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■観覧ガイド■
・横芝駅から広済寺までの距離は約4km。バスの便は悪い。
・駐車スペースにも限りがあるため、早めの対応が求められる。
・2023年の上演開始は15:30頃。鬼来迎は施餓鬼会の後で行われる。
・観覧席はある。ただし前列は来賓席となるため注意が必要。
■鬼来迎が意味するもの■
最後に、鬼来迎という題目に込められた意味について考察しておこう。
来迎とは、仏や神がこの世におりて来ることを意味する。
なにゆえ、鬼が来迎するのか。
舞台の幕を見たときに、その答えがわかった。
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ツノがない鬼は神とたとえられることもある
地獄の鬼は亡者を痛めつけ、釜ゆでにし、喰らおうとさえする。
しかしながら、劇中のセリフにもあるように、地獄に落ちた亡者は生前に罪を重ねた大悪人であり、鬼は自分の使命を果たしているに過ぎない。
大悪人をも救済する仏の教えが際立つ格好となるわけだが。
そんな仏の教えを大衆に広めんとする仏教劇において、鬼の役割は重要だ。
最後に卒塔婆をたたきつけて悔しがる姿が示すように、この劇の主役は鬼である。鬼なくしては地獄も救済も成立し得ない。
それゆえの、鬼来迎である。
[2023年8月16日取材]