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賢治ゆかりの地をめぐる。②

開館時間が来たので記念館へ。

記念館は胡四王山を登った場所にある
斜度10度超えの坂はきつかった
徒歩での来場者に向けて階段もある

ふと、入口前の植物が目にとまった。

ガガイモ(ごまざい)である

ガガイモ、聞いたことあるぞ。なんだっけ?

あ、スクナヒコナ(少彦名命)だ。

波の穂より天の羅摩船(あまのかがみのふね)に乗りて(中略)帰り来る神あり。

天の羅摩船は解説文等によるとガガイモのさやでできた舟なのだとか。

実物を見るのははじめてだな。

全長数センチほど
よくも波にのまれず着岸できたものだ
↑神さまですから

古四王神社の祭神つながりなのだろうか。珍しいものを見せてもらった。

■宮沢賢治記念館■

入口で山猫がお出迎え
机の上のだんごは『雪わたり』のきびだんご?
常設展示
天体モチーフの室内
壁にはパネルで賢治の業績をテーマ別に展示している
賢治は1896(明治29)年8月27日に生まれ、1933(昭和)年9月21日に亡くなった
パネルは明治、大正、昭和に起きた出来事と賢治の活動とを照らし合わせている
遠野を見てきただけにどうしても気になる
遠野物語の語り部である佐々木喜善との親交はこの作品からはじまった
愛用のセロ(チェロ)
K.M.のイニシャルが書かれたラベルが貼られているとのこと
賢治って仏像について言及してたかな?
画像は阿修羅像のレプリカ
仏語における増上慢とは「悟りを得てもいないのに得たと思い込む慢心」
そうでなくとも、思い上がりには気をつけねば
この期間の特別展は「二冊の初版本」
『春と修羅』『注文の多い料理店』について
『春と修羅』は賢治が生前に出版した唯一の詩集
本人は「詩ではなく心象スケッチである」としている

ちくま文庫版の全集では『春と修羅』は全三集+補遺で、番号がつけられているのは1092編。

このうちノートに書き残されていた詩稿については全集では「詩ノート」としてまとめられている。

常設展示に「詩ノート」付録の「生徒諸君に寄せる」の草稿を見つけた

〔断章二からのつづき〕
歪んだ時間と粗野な手引きがあるだけだ
彼等は百の速力をもち
われらは十の力を持たぬ
何がわれらをこの暗みから救ふのか
あらゆる労れと悩みを燃やせ
すべてのねがひの形を変へよ
〔中盤を削除して断章三へ〕
新しい風のやうに爽やかな星雲のやうに
透明に愉快な明日は来る
諸君よ紺いろした北上山地のある稜は
速かにその形を変じよう
野原の草は俄かに丈を倍加しよう
あらたな樹木や花の群落が

と、全集では断章八まで続く。

これ見つけたときは感激したなあ。

特別展に戻って『注文の多い料理店』の初版本。

もりおか賢治・啄木青春館(盛岡市)のアンケートでもぶっちぎりの1位だった。

直筆原稿を見たいと思ったのだが、現時点で残ってはいないとのこと

1945年8月10日の花巻空襲時に、賢治の遺品は蔵に収めていたが、それでも焼け焦げたり水濡れしたりして、無事だったものだけがこうして公開されているのだ。

『月夜のでんしんばしら』のイメージ絵
もはや多才の一言ではいい尽くせない

記念館はこんな感じ。次行ってみよう。

■宮沢賢治童話村■

関連施設は記念館の他にも「賢治の学校」「賢治の教室」「イーハトーブ館」などがあってややこしい。

それぞれの関係がわかる案内図を見てみよう。

関連施設全体がある場所を「賢治の森」と呼ぶ

国道456号を境に東西に分かれ、西側に古四王神社と記念館、東側に花巻市博物館。さらには童話村の名称で施設が集中している。

天空の広場を抜け「賢治の学校」へと向かう

賢治の学校

こちらが入口
ファンタジックホールに「賢治の椅子」
ここから「宇宙の部屋」「天空の部屋」「大地の部屋」を通過する
出たな、カマキリ男!
ここがショッカーのアジトだということはわかっていたぞ(笑)
↑大地の部屋です
「水の部屋」を抜けると何やら展示が
賢治童話ミニチュア人形の世界とな?
『注文の多い料理店』より
腹を空かせた紳士二人は西洋造りの料理店の中に入っていくのでした
この後、ひどい目に遭わされるとも知らずに
『セロ弾きのゴーシュ』より
今まで見てきたゴーシュの中でもっとも原作に忠実
ゴーシュはどちらかといえばパワー系
こんな場面は原作にないけど大団円ということで

『ゴーシュ』の結末についてよく取り沙汰される、カッコウには謝ったけど猫には謝らなかった件について。

いろんな人がいろんなことを語っているけど、そんなに難しい問題かなあ。

ゴーシュとはフランス語で「下手くそな(gauche)」の意。

粗野だけど繊細なところもあって、音楽団の団長にいじめられたことを思い出してひとり涙にくれたりもする。

この時点では感情のコントロールが未熟な状態。

夜な夜な動物たちが現れてはセロを聴かせてほしいとせがまれ、ゴーシュは嫌々ながら演奏しつつも、最初の頃は乱暴に追い返してしまう。

被害に遭ったのは猫→カッコウの順で、その後のタヌキやネズミの親子とはそこそこ良好な関係を築いていた。

で、猫とカッコウとの比較論だけど、猫は「おみやです」といってゴーシュの畑から盗んだトマト(まだ青い)を渡そうとしたり、シューマンのトロメライを弾けと言ったあげく、「ひいてごらんなさい。きいてあげますから」と上からの物言いでイラっとさせている。

カッコウの場合は「ドレミファを教へてください」と現れて、教えを請う下からの態度を終始とり続けているのがポイント。

演奏に合わせてカッコウが鳴く声を聴いているうちに、ゴーシュは「弾けば弾くほどくゎくこうの方がいゝやうな気が」して劣等感にさいなまれ、ついには「出て行かんとむしって朝飯に食ってしまふぞ」と激昂する始末。

驚いたカッコウは逃げだそうとして窓ガラスにぶつかり、くちばしの付け根から流血までしてしまう。

ゴーシュは夜中の演奏(練習)の甲斐あって団長や仲間にもほめられ、ある種の劣等感からは解放される。

結末はこんなセリフで締めくくられる。

「あゝくゎくこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんぢゃなかったんだ」

カッコウに劣等感から当たり散らした自分の感情を客観視できるようになれたのも上達のきっかけを与えてくれた動物たちのおかげではあるけれども、基本的に動物たちを下に見ているゴーシュの性格そのものが変わったわけではない。

だとすれば、謝罪の対象となるのは無礼な態度をとった猫よりも、何も悪いことはしていなかったカッコウということになる。

『セロ弾きのゴーシュ』も好きな作品なんだよね。

おみやげに賢治の直筆複製原稿を買った。

禁複製で載せられないのが残念。

賢治の教室

童話村が童話世界をモチーフにしているのに対し、こちらは賢治が探求してやまなかった「石」「鳥」「星」「動物」「植物」の5テーマを個別にログハウス内で展示している。

各棟は横並びだが「石の教室」だけ離れた場所にある
石っこ広場の奥にあるので見逃さないよう注意したい
「石の教室」内部
ステンドグラス調のきらびやかな内装
賢治作品に登場する石についての解説がある
花巻農学校を辞した賢治は羅須地人協会を設立
酸性土壌の改良に石灰を使う方法などを指導した
残る4棟は階段をのぼった場所に並んでいる
こちらは「鳥の教室」
「星の教室」より『銀河鉄道の夜』にも登場する南十字星
本州以北からは見ることができない
こちらでどうぞ(笑)
「動物の教室」内部
と見せかけて幻獣も紹介されている
いや、賢治にとっては等しく動物なのだ(多分
「植物の教室」内部
ツメクサの説明
童話『ポラーノの広場』に登場するのはクローバーのシロツメクサ
なにげに創作秘話が記されていて見入ってしまう

賢治さんは、夏の夕日が沈む瞬間、ツメクサの緑の葉がさっと赤く輝き、夕やみの中で白い花がほんのり浮かび上がる光景を見逃しませんでした。そして、この花のあかりがともる魔法の野原を、ポラーノの広場と名付けました。

教室群の最後の棟は森の店っこや(土産物店)
ここでしか買えないグッズもあるぞ

■花巻市博物館■

もちろん博物館にも行く。

とくに賢治と関係があるわけではないので軽く触れるにとどめる。

外観
特別展「アニメージュとジブリ展」を開催していた関係で来場者は多かった
時間ないのでパス
出土品関連で気になったのがこれ
コンセイサマ、ではなく石棒と土偶
『ゴーシュ』のミニチュアを見た後なのでネズミに見えてしまうが土偶である
ゴーシュのセロ演奏で病気が治ったようにも見えるが土偶である
蕨刀はエミシの武器(定説
やっぱり強そう
花巻市街地(大正9年ごろ?)
花巻市街地ミニチュア
花巻電鉄の駅舎(画面中央奥)も見える

■その他■

童話村を出て国道の南側にも関連施設がある。

宮沢賢治イーハトーブ館

記念館よりも研究者向けの施設
賢治にまつわる出版物を閲覧できる
(館内撮影禁止)
ホールでアニメ化作品を一日中みていたかった
シアタールームになっていて居心地最高!

宮沢賢治設計 日時計花壇

日時計の周りに花壇を配置している
花巻温泉遊園地に設置予定(諸事情で実現できず)だったものを設計図をもとに再現

南斜花壇

賢治は花壇の設計も多く手がけている
昭和2年に教え子にあてた手紙では種苗の数量や価格、取り寄せ先にいたるまで詳細に指示してあったという

よし、賢治の森は一通り見てきたぞ。

まだ時間はある。めざせ、イギリス海岸!

[次回、花巻編ラスト ③につづく]

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