鬼と仏と。 秋田→青森④
しんばんぐみ 『りんこう!』
わたしは菅江真澄、高校1年生っ。
夏休みを利用して、秋田県にやってきました。
わたしと同姓同名の江戸の旅行家・菅江真澄さまが旅をした、その名も菅江真澄の道。
この道をたどって、わたしも旅をしようと思ってます。
旅の相棒は、折りたたみ自転車のカラクルSスポーツrev.4エアリアル(80台限定生産)ガンメタリック仕様。
長いからカラちゃんで(笑)。
この夏、わたしは冒険の旅に出ます。
わたくし、菅江真澄はこの夏、北海道をめざしますっ!
(青空。アバンはじまりからサブタイ、OPへ)
第1話 「ひと夏の冒険」
どこまでーもー つーづくー そーらをー♪
バイクでー 追いかけーるー 季節ー♪
って、ちょっと待て!
誰も知らないと思ってメタルファイター♥MIKUの主題歌(風になるまで)とか勝手に使ってるんじゃありません。名曲だけど。
菅江真澄資料センターの入口で「おっ、真澄ちゃん」などとつぶやいて写真を撮っていた不届き千万な奴がいたことは絶対に内緒だからなっ。
■津軽の鬼に会いに行く■
6月28日(金)。3日目は青森県弘前市である。である(汗
3日目と4日目はチャレンジステージだ。目的地まで自転車で踏破する。
先にルートを説明しておこう。
農村環境改善センター前バス停発13:15の路線バスに乗れば、14:15に弘前駅前に到着する。
14:46発のスーパーつがるに乗って青森方面に抜ければ、夕方のラッシュに先んじて下北半島までたどり着ける。
鬼神社(きじんじゃと読む)の周辺で「鬼の土俵」「鬼の腰掛け柏」と呼ばれる場所を見つけるのに手間取らなければ、じゅうぶんに間に合う。
総走行距離は40km超え。岩木山周辺のアップダウンが不安要素ではあるが、どうってことない。やるだけだ。
08:11 岩木山神社
五神の祭神のうち顕國魂神(うつしくにたまのかみ)は大日本国主を意味する。
つまりは国つ神だ。実にいい。
坂上田村麻呂がらみだったのか。
どこかのお城の鬼門よけではなく、日本という国の北門だったんだな。
ここはかつて、岩木山の北側にあったと。
十腰内の里には、これから行く巌鬼山(がんきさん)神社がある。
二社の関係性がわかったぞ。
ネットの情報では狛犬として紹介されているようだけど、三本爪を強調しているあたり、ツノがない邪鬼のようにも見える。
逆立ちしてこちらを見ている様なんかも、まさに天邪鬼っぽい。
ツノがない鬼はイコール神だ。
坂上田村麻呂がらみということならよくわかる。
鬼だからという理由で排除するのではなく、重要なポジションを与えて協力を求めることで懐柔しようとした。
狛犬は神社を守護する霊獣だ。
改心した邪鬼が守護者としての役割を与えられ、狛犬となって神社や人々を守っているのだとするのはうがった見方だろうか。
坂上田村麻呂に関する資料をまったく読まずに書いてるけど、彼こそは優しい世界の立役者なのだと思う。
(鬼の手形とムカデ姫①岩手県立博物館・木造兜跋毘沙門天立像の項参照)
すごいぞ、岩木山神社。
ここに来ただけで、弘前市が素晴らしい場所なんだってわかる。
元気出てきた。次、行くぞ。
09:54 鬼の土俵
鬼神社をめざしつつ、その周辺にあるという鬼の土俵を探す。
ところで、なぜ土俵なのか。
大人というと巨人伝説があげられるが、さすがに巨人と相撲はとれない。
弘前市HPの解説では鬼の正体について、
堰をつくるなどの優れた技能を持った者としての大人とみるべきだろう。
10:10 鬼の腰掛け柏
空気が澄んでいて、緑もまぶしい。
これ以上何もいうことはないけれど、強いてあげるならば鳥居の向きかな。
腰掛け柏がある場所とは違う方向を向いている。
鳥居の正面に立って、ピンときた。
鳥居の正面からは木々が生い茂っているため、山容がよく見えない。
でも、この鳥居はお山の遙拝所だったんだろうと思う。
10:27 鬼神社
きたぞ、第2目的地。
しめ縄は蛇とする見立てがある。何に巻きつくかが重要だ。
中央がこんもりと太いのは、お山なのかな。つまりは、岩木山。
他にもっと重要な、まじない的な意味があるのかもしれないけど。
ツノがない鬼は神であると考えている。
この土地では、心優しい鬼だからツノがないのだとされている。
もちろん後者の説を尊重する。優しい世界が築かれるのであれば、それでいい。
優しい世界を見せてもらった。
朝廷にとっては、大人はまつろわぬ民であるかもしれない。
そうであっても、この土地の人々にとっては心優しき鬼なんだ。
土地をひらいてくれた神なんだ。
そのことがわかっただけでも十分だ。
じゃなくて、3つめに行こう。すぐ行こう。
11:39 巌鬼山神社
岩木山神社との関係性について、いま一度整理しておこう。
岩木山山頂に建立された岩木山神社の奥宮を坂上田村麻呂が再建したのは延暦19年(800)年。
先がけること延暦15年(796)年に西方寺観音院が開かれたことが巌鬼山神社のはじまりとなり、津軽における山岳信仰発祥の地とされる。
当初は岩木山神社の奥宮に対する下居宮の位置づけであったが、寛治5年(1091)年に岩木山神社が勧請されたことで、同神社の祭祀からは外れる。
明治時代の神仏分離令により西方寺観音院は廃寺となり、明治6(1873)年に巌鬼山神社として再出発した。
現在の岩木山神社が日本の北門鎮護の役割を担う一方で、巌鬼山神社は霊峰・岩木山をずっと祀り続けている神社という意味合いがある。
津軽における山岳信仰発祥の地か。
たしかにそういう匂いがするな。静けさの中にもきびしいたたずまいがある。
手水舎の龍も狛犬も、姿勢を低く構えている。
つまりは低姿勢。腰が低いんだ。
でも、身を乗り出して遠くを見ようとしている。
目線はあくまで高い位置に向けられている。
要するに、「腰は低く目線は高く」の教えなんだな。
目線は高くというと上から目線みたいな感じだけど、そうじゃなくて志を高く持ちなさいということ。
そういう人間は得てして傲慢になりがちなので、周囲に感謝の気持ちを忘れず謙虚に生きなさい。
そう教えてくれているのかもしれないな。
さすがは山岳信仰の霊場だ。一つひとつに教えがある。
よし、ミッション終了。
40kmも走ればけっこう疲れてくるはずなのに、今日はまだまだ元気だ。
お山のパワーのおかげだな。六根清浄!
■下北半島へ■
当初の予定では、1の「鳥居の鬼コ」を見に行こうと思っていた。
鳥居に木製の小さな鬼が座っているという。
鳥居は神域の目印。
鬼が腰掛けているということで、この地における鬼の扱いがわかるというものだ。
2と3を優先する都合上、今回は見送らざるを得なかった。
でも、そのおかげで心優しい鬼の存在に触れることもできたし、弘前市は素晴らしいところだということもわかった。
だから、また来よう。何度でも来よう。弘前城もあるし。
予定通り13:15発のバスに乗って、弘前駅14:46発の特急列車で青森駅へ。
青森駅からは青い森鉄道に乗り、野辺地駅で乗り換えて下北駅に到着したのは17:58だった。
[恐山にアタック! ⑤につづく]