背負いきれない重い十字架を背負い生きなくてはいけない男の物語。
タイに行って死んでこいや!!
場所は、関空 ちょっとした親子喧嘩に、カッとし、言ってしまった言葉。
母親は、その言葉を静かに聞き何も言い返さなかった。
そのまま 二人は別れた。
まさか、この言葉が本当になるなんてお互い心にもとめてなかった。
夜中に電話がなった。お母さん、亡くなったの!!タイに来て!!
彼は、頭が真っ白になった。急いで お兄さんとパスポートを作りタイに向かった。
飛行機の中で、彼は重い口を開いた。
にーちゃん、俺が、おかん殺した…。
タイ行って死んでこいや!!って言った。
お前…。
タイにつき、直ぐには、母親とは会えなかった。死亡解剖があったのだ。
直ぐに会えると思った彼は 今すぐあわせろ!!と現地の警察と揉めた。
その瞬間 銃を頭に突きつけられた。
撃つんやったら、撃たんかい!!
彼は、母親の死のショックと怒りと自分への自責の念に囚われていた。
俺が、あんな事言わなければ…。
その事ばかりが、頭を巡った。俺が殺した…。
母親は、昔の人で、小学校しか出てなかったから、夜間中学へ行き その卒業旅行で、タイ人の友達の家にみんなで旅行に来ていたのだ。
死因は、私は、詳しくは知らない。
ただ、朝 起きてこなかった母親を心配して呼びに行った時には、もう亡くなっていた。
その時の写真を見せてもらった。
笑ってる。
なんで??全部笑ってる。
みんなで撮った写真 全て彼とお兄さんは笑っていた。
そりゃそうだろう。みんなの前で泣けるわけがない。
陰ながら1人で泣いていたのかも知れない。いや、泣ける感情さえも、なくなっていたのかも知れない。
日本に帰り 母親の葬式も済ませ 彼は、おかしくなったと聞いた。お酒に溺れたのだ。
それから、彼は、あの時から、感情をなくしたのかもしれない…。と言ってくれた事があった。
彼の父親も、彼が4歳の時に亡くなっている。
母親が、母子家庭で必死に育ててくれたのだ。
女のあたしなら、人目も憚らずわんわん泣いていたと思う。
彼は、泣きたくても泣けなかったのだと思う。
あの言葉が泣きたい自分を責めるからだ。
俺のせいだ。 俺が殺したんだ。
そして、彼は、背負いきれない重い十字架を背負い生きる事を選んだ。
あの時 あんな事言うんじゃなかった。
楽しんできてな!と言えば 彼は重い十字架を背負わず生きれたかも知れない。
だけど それは、たらねばだ。
彼は変わった。死ね!!と言う言葉を一切使わなくなったのだ。
こころに、封印したのだ。
そして彼は言った。なんかの間違いで死ね!と言って本当に死んだら、後悔と懺悔しか残らん。俺のせいやと思う。俺が殺したと思う。
俺は、一生重い十字架を背負い生きなくては、ならない。許されないこともわかってる。
だから、誰かが何処かに行くときは、楽しんできてな!無事に帰ってきてな!って言うんや…。
そう語る彼の、横顔は、刹那げで、悔しげで、後悔を隠した目をしていた。
感情を隠した目をしていた。
あたしは、もう自分を責めずに、お母様は、寿命だと思って生きて欲しいと思った。
重い十字架を背負い生きるのなら、十字架だけ 背負って、自分を責める事に囚われないで欲しい。
多かれ少なかれ十字架を背負い生きている人は、沢山いる。
周りは、許すだろう。本当に殺したわけではない。
自分が、あの時言ってしまった自分が許せないのだ。
だから、背負いきれない重い十字架を背負い生きていくんだろう。
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