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自衛隊機長の話
パイロットの世界には一定数、自衛隊出身のパイロットがいます。航空自衛隊はもとより、海上自衛隊もいるし、ごくたまに陸上自衛隊のヘリコプター出身の人もいます。航空自衛隊は戦闘機から輸送機、政府専用機、ブルーインパルスにいた人も聞いたことがあります。海上自衛隊はP3Cなどの潜水艦を探す飛行機が多かったようです。
僕がまだ副操縦士だった頃、航空自衛隊の戦闘機出身の機長と乗った。上空で飛行機同士がすれ違う時に、まずは管制官から「2時の方向の20マイル先に他機が1000ft下を飛んでいます」などと情報がくる。それを元に、そのすれ違う他機を目視で確認する。航空機間の間隔は管制官が責任を持って見てくれているので、基本的にぶつかる可能性はないのだけれど、パイロットには外部監視が法律で義務付けられているので、相手気を見つけようと目を凝らして見つけようとする。
そうはいっても20マイルといったら36キロ先だ。地上から空を見上げて飛行機を見つけた時に「随分高い所を飛んでるな、小さいな」と思ったら大体12キロくらい。だから36キロ先はその3倍くらいの距離。だから20マイル先の飛行機はかなり小さいし、それが雲や白っぽい空を背景にしているので目視で見つけるのはかなり厳しい。
だから副操縦士の僕は目を凝らして、探す。機長も当然探すけど、彼は操縦もしているし副操縦士の僕が機長よりも先に見つけるとちょっとしたアピールにもなるので、頑張った。すると、白い雲を背景にして黒い点が見えた。
「インサイト(目視確認)です」ちょっと得意になって言うと
「うん」と、その機長はいう。うんと言いながら彼の目はその飛行機の方角をずっと見ている。通常は確認できたら操縦者の目はすぐ計器に戻るのだけれど、まるでガンを飛ばしているようにすれ違う飛行機を睨みつけいている。
「あの〜あれですよね〜インサイトです〜」と言い直すと、彼は「俺、ファイターの習性としてすれ違う飛行機は追っかけたくなるんだよ」とにっこり口角を上げて笑いながら言ってるけど、サングラス越しの目がギラギラしている。
怖くて思わず「おっかけないでくださいよ〜」と言ってしまった。
戦闘機は機種によって性能差があるので、自分より弱い飛行機とすれ違うと180度旋回して追いかけるし、自分より強い飛行機だと全力で逃げる世界らしい。だから相手より先に機影を見つけることは、命がかかるくらい重要なことらしい。だから目が本気だった。
自衛隊出身の先輩方は民間のパイロットとは全く違う考え方で面白かったです。「着陸なんて全然重要視されていなかった」とも仰ってました。自衛隊は課せられたミッションの完遂が重要視されますが、旅客機はお客様を安全に運ぶのが目的なので、着陸できるか目的地に到着できるかが重要です。安全に対しても考え方が違うのかもしれません。自衛隊は作戦が重要でしょうが、民間機は何より安全が第一です。そういった考え方の違いが、操作の一つ一つに影響するので、自衛隊出身の方は、考え方の転換をしなくてはいけなくて、それはそれで大変なのではないかと想像します。
意外かもしれませんが、パイロットの世界は自衛隊と近い世界なのです。普通の仕事をしているとなかなか巡り会わない人たちなので、馴染みのない人には自衛隊自体にとっつきにくいと思うかもしれないけど、元自衛隊員は真面目で規律正しい人たちです。
航空大学の操縦教官も一定数は自衛隊出身でした。自衛隊で戦闘機や輸送機等に乗っていたり、あるいは日本のトップガン的なところにいた超エリートもいました。だから航空大学校も自衛隊の空気を色濃く残しています。