アイデンティティーを確立する旅に出ませんか。
今回は、大人が読んでも、子供が読んでも、ほわーっと心と体の力が抜け、元気が出てくる絵本をご紹介しましょう。
まず、このオレゴンというのは、サーカスの熊の名前なんです。来る日も来る日も、人間の娯楽のために芸当をしている熊です。
そこで一緒に働いているのが、主人公の小人のピエロ、デューク。
このピエロは、傷つきやすい感受性を、ドーラン化粧と赤い鼻で隠しているかのような人物。
だから、仕事を離れてもメークを落とせずにいます。
「オレゴンの旅」
ラスカル/文 ルイ・ジョス/絵 山田兼士/訳 セーラー出版
ある日、オレゴンが一仕事を終えて檻の中に戻された時、オレゴンは檻の中から、こっそりピエロに話しかけます。
「ねえ、デューク、ぼくを大きな森まで連れていっておくれよ」と。
それまで、オレゴンは感情など持たず、仕事にも満足して(というか、何の疑問を感じずに)サーカスで働いていたものとばかり思っていたデュークは、あまりの驚きに絶句してしまいます。
そして…オレゴンをこっそりサーカスから連れだし、共に長い旅へ出る決心をするのです。
なにしろ、ニューヨークから、オレゴン州までの旅路です。約4000キロの長旅よ!
途中、手持ち金もなくなり、ヒッチハイクをするふたりの前に、黒人が運転するトラックが止まります。
「なんであんた、赤い鼻つけて、おしろいなんか塗ってるんだね?舞台の上でもないのにさ」と黒人運転手に問われると、デュークはこう答えます。
「顔にくっついて離れないんだ。小人やってんのも楽じゃないんだよ」。
すると、「じゃあ、世界一でっかい国で黒人やってんのが、楽なことだと思うかい?」と黒人運転手に切り返されます。
同じかなしみ、同じさみしさを抱えた人間に出会うことで、デュークは力を与えられます。
ヒッチや無銭乗車や畑で盗みをしながら、なんとかオレゴンの森が見える所までやってきたデュークと熊のオレゴン。
長いとらわれの日々から、本当に解放されたことに胸を熱くします。
オレゴンを無事に森に連れ帰って、デュークは思います。
「今度は、ぼくの旅に出よう、心を軽くして」。
人間らしい生活を取り戻そうとするデュークが、オレゴンの森に捨てたものとは…?
この物語は、人が本当の自分というものを取り戻すためには、ある程度の時間と決心が必要なんだと伝えているような気がします。
真実の自分を表に出すことが不慣れな私たちは、無意識のうちに「自分の人生」を生きにくくしてしまっている。デュークがメイクを落とせないのと一緒なのかもしれません。
世間を気にし、孤立をおそれて、承認欲求で日々を過ごしてしまっていると感じるすべての人に、デュークがこれから辿ろうとしている「自分を取り戻す旅」をおすすめしたいと思います。
表紙をめくると、一編のランボーの詩がうたわれていて、芸術の香りがする絵本です。
作者のラスカルはベルギー人。学校嫌いで、少年時代はサボって遊んでばかりいたそう。
そんなラスカルが描く、「本当の自分と自由を見つける旅」の絵本。
ぜひ、楽しんでみてくださいね。
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